2013年6月28日(金)の夕方は東京・自由が丘へ。
多くのベンチが並べられた広い緑道を通って徒歩5分ほど、閑静な住宅街にある一軒家には「シェア奥沢」の表札が出ています。
ここは多摩美術大・アーバンデザインラボの堀内正弘先生のご自宅で、現在、コワーキングシェアスペース(みんなで一緒に仕事などする場)に改装中とのこと。
この日はこの場所をお借りし、「コミュニティを育てよう♪(共奏ミーティングのおさそい)」というイベントが開催されました。
毎月、「三田の家」で開催されている「共奏キッチン♪」の、いわば特別版(番外編?)です。
玄関を入ると、壁には堀内先生が提唱された「クールシェア」のポスターが。
クールシェアとは、「東日本大震災直後の状況に対してデザイナーは何ができるか」という問いかけに対して生み出されたアイデアで、家のエアコンを消してお気に入りの公園や行きつけのお店に集まり、「クールシェア」して節電しようというもの。
eco japan cup 2011、2012年グッドデザイン賞、低炭素杯2013等の受賞歴もあり、全国に拡がりつつあります。
すでに20名近くの人が集まり、調理が始まっています。この日のメニューは「ちゃちゃっと」カレーとのこと。
いつものように、各自ができるところを手伝ったり邪魔したりしながら、わいわいと料理ができていきます。
大皿にご飯を盛りつけ、ひき肉と野菜を炒めて煮込んだスパイシーなルーをかけて、さらにたっぷりの野菜や茹で卵をトッピングして特製カレーの出来上がり。
デザートのパイナップルはスカイツリーのように盛りつけられました。
埼玉・吉川の郷土料理「なまずのたたき」(揚げ物)を持参して下さった方も。
食事に先立ち、オーナーの堀内先生から、挨拶を兼ねてこのシェアハウスに対する思いを話して頂きました。
建築家として普通の人たちのためのまちづくりをしていきたい。現在の都市計画は、公共施設の整備など「顔」は立派になっても中身はぼろぼろ。この近所でも、なに不自由ない生活をしていたはずなのに自殺した方もいる。
これまでもコンサート等を通じて地域の人たちの出会いの機会を創ってきたが、さらにこの自宅をシェアハウスに改装し、集いの場として活用していきたい、とのことです。
床には国産材の杉板が貼られています。靴下を脱ぐと、ひんやりと柔らかい感触が快適です。
これも、堀内先生はじめ有志の方たちの手仕事によって貼られたものだそうで、改装作業はまだ続くことのこと。
ビールやワイン、焼酎も出て食事を楽しんだ後は、いよいよ「共奏ミーティング」のスタートです。
この日のテーマは「コミュニティを育てよう♪」。
ファシリテーターは主催者でもある「たかったー」さん。
まず、A4版の紙が配られ、名前、主催または参加しているコミュニティ、課題・問題点、工夫してうまくいっている点を各自書きます。
書き終わると、一斉に右回りに隣の人に渡していき、全員の紙を一通り読みます。これで、この日はどのような人が参加しているかが大体分かります(お互い初対面の人もたくさんいます)。
その後、4人位の小グループに分かれて、どのようなコミュニティを育てていきたいか自由に意見交換。出された意見は、大きな模造紙に自由にメモしていきます。
例えば、仕事の面ではモヤモヤすることも多く悩みを話し合える場が欲しいと思っていて、自分でも周りの人に声をかけてそのような場を創っていきたい、という意見。
あるいは、身体のいい食事を心がけているものの、みんなで学びシェアできるような場が欲しい、等の意見が出されました。
メンバー交代後は(猛者が集まったせいか)、そもそも「コミュニティを育てる」というテーマ設定が分からない、楽しければコミュニティは自然にできるもので、よく「大変ですね」と言われるが楽しみでやっている活動であり苦にならない、といった意見も出されました。
最後に、自分の明日からの目標をカードに記し、壁にも書き出しつつ、一人ずつシェアしていきました。
例えば、海外生活から帰ってきて地域の中で挨拶をする人が少ないことに改めて気付いた、どんどん挨拶をし、みんなに広めていきたい。
「シェア奥沢」の庭にゼラニウム(蚊よけに効果があるそうです。)を植えに来たい、等の発言もありました。
ささやかでも自分ができることから実践していくことが、コミュニティづくりの基礎であることは間違いありません。
ちなみに「シェア奥沢」の改装作業に携わった方は、地域通貨がもらえるそうです。この地を拠点に新しいコミュニティが拡がっていく期待に、胸が膨らみます。
一方で、日本の社会は多くの深刻な問題を抱えています。
貧困、いじめや疎外がはびこり、独居の高齢者やハンディキャップのある人には生活しづらい社会になっていて、自殺する人やも、食べられなくて「餓死」する人さえいます。
これらの多くは、コミュニティが機能していれば、解決できる(あるいは問題の深刻さを緩和できる)ものと考えられます。
さらに、日本には元々コミュニティは存在しないという議論もあります。
社会学者の宮台真司先生は、日本にあるのは「空気に抗えない」という意味での「悪しき共同体」だけで、ヨーロッパ的な「共同体自治」の伝統は存在しないとし、そのために原発もやめられない、「スローフード運動」も日本ではライフスタイルの話に留まり社会を変えていく流れには繋がっていない、等と指摘されています。
しかし「食」については、誰でも関心があり(そもそも無縁ではいられず)、一緒に食べれば楽しく、さらに産地や生産者のことに思いを馳せることによって、離れたところの人たちとも繋がっていく「よすが」にもなります。
霊長類学者の山極寿一先生は、猿から人間に進化するためのコミュニケーション手段が「共食」であったとされています。
「食を通じた世直し」といったことを、ここ数年、私はずっと考え続けています。
その意味で、新たなステージに入りつつある(かも知れない)「共奏キッチン♪」の、ますますの発展に期待しているところです。
さて、以下は蛇足ながら、6月27日付けの日本経済新聞に興味深い内容のコラムが掲載されていました。
結論は、「貿易自由化の嵐の中で、たくましく実る日本の農業もある」との、いかにも日経らしい論調ですが、冒頭部分、好きな食べ物は何? と聞くと、都会の子ども達はハンバーグやカレーなど料理の名前が返ってくるのに対し、北海道の小学生はトウモロコシ、ジャガイモ、アスパラガスなど野菜の名前が返ってくるとのこと。
新鮮な食材が身近にある地域は違う、という話です。
なるほど、と思った次第です。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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