ひご野菜見学会(2)と伝統野菜等への期待

131224_p0_convert_20131228105433.png 2013年12月23日(月)の午後は、「ひご野菜セミナリオ」です。
 ひご野菜ブランド協議会の事務局でもある北亜続子(あつこ)さんが主宰する「くらし・マイレージalliance(アリアンス)」は、年数回、ひご野菜等をテーマにした見学会や食事会を開催しています。
 この日は、その一環として「熊本の伝統野菜をご存知ですか?-ひご野菜・水前寺もやし見学とフード・マイレージ講座」が開催されました。
 午前中の見学会に参加されたブランド協議会の役員さん達に加え、学校栄養職員、青果商、飲食店関係、大学の先生など、約20名の方が参加されました。
 まず、参加者は長靴に履き替えて、熊本市青年会館脇にある芭蕉園へ。
 湧水群のある一帯にはたくさんの芭蕉が自生しており、熱帯地方のような不思議な光景です。よくみると小さなバナナに似た実もついています。
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 その芭蕉の間、水が流れる中で栽培されているのが「水前寺もやし」。
 30㎝以上になる長いもやしは、長寿と健康を願う縁起物として、熊本では正月の雑煮に欠かせない伝統野菜です。
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 生産者の米満主一(よねみつしゅいち)さんが来て下さいました。
 品種自体は取り分け珍しいものではないのですが、作り方は独特です。
 まず、水が流れている中に畝を立ててムシロを敷き、その上に種をまきます。日光を遮るためにムシロを被せ、さらに稲ワラで覆います。
 2、3日で発芽すると、ムシロと稲わらを持ち上げるように成長するそうです。
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 米満さんが被せている稲わらを除けると、その中には、ぎっしりと生えそろった白いもやしが見えました。
 正月用に、間もなく収穫されるそうです。
 一番手前のひと畝は、熊本農業高校の生徒さん達が米満さんの指導を受けながら自ら栽培しているものとのこと。
 ところで、江戸時代から盛んに栽培されてきた水前寺もやしですが、厳寒期に水に入っての作業はきついこともあり、現在、水前寺もやしの栽培農家は米満さんを含め2軒だけだそうです。
 その米満さんも70代後半、奥様からは早くやめるように言われているそうですが、畝立て等は熊農生の皆さんが手伝ってくれるため何とか続けられる、とおっしゃっていました。
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 青年会館の研修室に戻り、ここからは座学の時間です。
 まず、熊本農業高校の生徒さん達から、ひご野菜についての取組の発表。
 前々回のブログでも紹介ましたが、熊本農業高校は、2009年「地域に根ざした食育コンクール」において最優秀賞・農林水産大臣賞を受賞されているほど、食育等に熱心な学校です。
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131224_p6_convert_20131228103250.png 熊農では、クラブ活動の一環として、先ほど見学した水前寺もやしを始め、学校農園でも様々なひご野菜を栽培しており、生産者や行政とも連携しつつ、小中学校の給食の食材として提供するなどの活動に取り組んでいます。
 また、毎年末には、恒例行事として、自ら栽培した熊本ネギ、水前寺もやし、水前寺菜(金沢では「金時草」と呼びます)等を箱詰めした「ひご野菜セット」を、自分達で学校で販売しています(写真は2010年のもの)。
 今年28日(土)の販売も盛況だった様子が、ブログ「熊農日記」で報告されています。
 次代を担う高校生たちが自ら、熊本の食文化を支える「ひご野菜」を、地域や子どもたちの心へつなげていく活動をしているのです。
 続いて私から、「フード・マイレージから伝統野菜を考える」と題して説明させて頂きました。
 この中では、北さんによる熊本県産野菜を使った「赤ナスのカポナータ」を素材に、熊本県産の場合、他県産の場合、輸入品の場合の3ケースでフード・マイレージと輸送に伴う二酸化炭素排出量の試算を行いました。
131224_p7_convert_20131228103808.png その結果、同じ献立であっても、熊本県産の食材を使用した場合は、輸入品(中国、韓国産)を使用した場合に比べて、フード・マイレージは56分の1、輸送に伴う二酸化炭素排出量は17分の1に縮小されることを示しました(国内はトラックで、輸入はコンテナ船で輸送と仮定)。
 さらに、伝統野菜や在来作物の復活・普及の取組は、ブランド化を通じた付加価値の向上という面だけではなく、地産地消の典型として輸送に伴う環境負荷の低減にも貢献し、さらには地域の風土、歴史、食文化を見直すきっかけとなるいう大きな意義を有するもとのと考えられます。
 現在、日本の各地で伝統野菜や在来作物を見直そうという動きが盛り上がっています。
 例えば、食料自給率(カロリーベース)1%の東京でも、江戸東京野菜コンシェルジュの育成に取り組まれています。
 『よみがえりのレシピ』という素晴らしいドキュメンタリ映画も作成・公開されました。
 さる12月5日には、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
 これは、寿司や一汁三菜といったメニューではなく、「日本人の伝統的な食文化」として登録されたものです。
 しかし、今回、大農業県である熊本でも、伝統的な食文化を支えるひご野菜等の生産者は減少し、残って頑張っておられる方もご高齢で、後継者は確保されていないということに危機感を覚えました。
 その一方で、若い高校生たちが自ら生産や加工、販売まで担っているという心励まされる状況もを知ることができました(熊本農業高校だけではなく、前回鹿本農業高校の話も伺いました)。
 今、私たち一人ひとりが、自らの食生活を考え、主体的に選択していくことが求められています。スローフード運動やCSA(地域支援農業)など、世界には食をめぐる新しい潮流が大きなうねりとなって拡がっています。
 食を見直すことは、社会を変えること(世直し)にもつながります。
 このような中、各地における伝統野菜等の復活・普及の取組が、それぞれの地域で拡がっていくことを期待したいと思います。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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