「脱成長ミーティング」公開研究会-人口減少と脱成長社会

 2014年11月9日(日)は小雨模様、寒い一日。
 この日、江戸川橋にあるピープルズ・プラン研究所(PP研)で開催されたのは「脱成長ミーティング」。
 私は第2回(関根佳恵先生による家族農業について)、第3回(水野和夫氏『資本主義の終焉と歴史の危機』を素材に)に続いての参加です。
 14時、呼びかけ人の一人、高坂勝さん(オーガニック・パー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」オーナー)の進行で開会。
 「脱成長(経済成長至上主義からの脱却)を目指すゆるやかな勉強会(ミーティング)を少しずつ拡げていけないかと白川真澄さん(PP研)と話し合ってきたが、今回、初めて一般の方を含めて開催することとした。
 最近の新聞で内橋克人さんや内山節さんの記事も出ていたが、経済成長のみを求めるのは明治以降の途上国的な考え方。最近は、本当の豊かさを求める先進国型の生き方を模索する人たちが明らかに増えて来ている。
 脱成長社会構想をより魅力的で説得力のあるものに練り上げるため、このミーティングを続けていきたい」との挨拶。
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 この日のテーマは、いわゆる「増田レポート」等で大きな話題となっている人口減少の問題。
 発想を変えて、人口減少と成長なき時代をどう豊かに生きるのか、地域社会の再生の可能性はどこにあるのか、を考えようというもの。
 最初の報告は、白川真澄さん(『季刊ピープルズ・プラン編集長』)から「人口減少をめぐる論争」について。
 日本は急激な人口減少社会に入り込んでおり、それが3つの衝撃(悲鳴)をもたらしている。
 すなわち、①経済成長ができなくなる!、②社会保障制度が維持できなくなる!、③地方が消滅する!。
 ①に関しては、
 「労働力人口の減少は経済成長を根本的に制約。ゼロ成長(あるいは低成長)は避けられない。女性の労働参加のためには男性の家事・育児への参加が必要だが、規制緩和で長時間労働を野放しにしようとしている。
 また、雇用を増やすためには、生産性が低いとされる医療・介護や農業の分野が重要」とのこと。
 ②については「脱成長」サイドも十分に答えられていない問題、としながら、
 「積立方式への移行は一案ながら、十分な積み立てができない人のために最低保障年金の仕組みが必要。しかし税収の伸びは期待できない。無償の(非市場的な、コミュニティの)助け合いや協働によるサービスの拡充が重要では」と提案されました。
 ③については、
 「産業(企業)誘致型の地域活性化戦略は時代遅れ。その地域に豊富に存在する独自の資源(再エネ、食、観光等)を活かすことが基本。具体的な事例等は小口さんの報告でも触れられると思う」とまとめられました。 
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 続いて小口広太(おぐちこうた)さんから「脱成長と地域づくり-農山村をめぐる議論を踏まえて-」と題した報告。
 小口さんは長野・塩尻の農家の長男として農業に携わりながら、日本農業経営大学校の専任講師等を務められています。
 「ヒトやカネが農山村から都市に移動することにより、高度経済成長が実現。物心両面による格差が『固定』された。
 現在は限界集落論や自治体消滅論が盛んに言われているが、T型集落点検(熊本大・徳野貞雄氏)の事例や混住化の進展状況をもみると、農村地域の多様性、非農家を含めた地域づくりが重要性」と説明されました。
 そして、地域資源循環のための愛東モデル(滋賀・東近江市)、地域資源を活かし物づくり等に取り組む(株)四万十ドラマ等(高知・四万十町)、CSA(コミュニティで支える農業)を実現している鳴子の米プロジェクト(宮城・大崎市)等の事例について、写真等を交えて紹介して下さいました。
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 後半は参加者との質疑・意見交換。この日の参加者は30名強です。
 ふだんは比較的年配の男性が多いメンバーなのですが、この日は若い女性も数名参加されています。
(質問)
 おむすびの民間企業との連携の話があったが、資本との結び付きで地域の消滅は防げるのか。海外資本でも構わないのか。
(小口氏)
 地域の取組は金太郎飴ではない。それぞれの地域資源や人材を踏まえた取組が重要。高齢化が進行する中、安定的な販路確保のために手を組む相手を慎重に選んだと聞いている。
(質問)
 埼玉・秩父での調査に参加したが、ちゃんと話しあって撤退した地域は良かったと言っていた。また、人口が適正な水準まで減少すれば快適な生活空間が実現するのではないか。
(白川氏)
 農山村の有する国土保全や防災の機能は、増田レポートでも配慮されていない。また、人口の適正規模論はあるが、問題となるのは人口構成の方。高齢者ばかりになる。
(質問)
 生協の援農ボランティアに参加した経験から、高齢者は地方の方が住みやすいのではないかと感じる。移住というライフスタイル増えてもいいのではないか。
(小口氏)
 二地域居住は国も提唱し、増えて来ているのも事実。しかし、自分も長野と東京を行き来しているが、交通費等の経済的負担が大きい。
(質問)
 農村地域で大規模農家と小規模農家が共存できるのか。大規模農家にとってのメリットは何か。 
(小口氏)
 地域の農地を受ける大規模農家も必要。私も農地を借りてもらっている。一方、草刈りなどの共同作業のためには小規模農家も必要。持ちつ持たれつの関係。大規模農家だけで地域は維持できない。
(質問)
 その大規模経営は株式会社でもいいのか。
(小口)
 地域の営農組合の発展形態としての株式会社もある。株式会社だから悪い、という単純なことではない。 
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(質問)
 このミーティングのメンバーでもある菅野芳秀さんは「置賜自給圏構想」を推進されているが、地域での自給が基本となるのか。
(小口氏)
 自給については柔軟に捉えられており、都市との交流、都市住民の受け入れ等は盛んに行われている。集落間の連携、地域間の連携も重要。
 また、農村の方が、地域に根差した企業が発展する(仕事づくりの)可能性は、より大きい。
(白川氏)
 グローバル企業の下請けによる工場は閉鎖されている。その地域に、どれだけ多様な産業や仕事があるかが大事。できるだけ地域内でカネを回していくという視点が重要。
(質問)
 結局、多くの企業人の成長志向というマインドセットは変わらないのでは。大多数は「半農半X」の生活はできない。
(高坂氏)
 成長を経験しているのは、せいぜい自分(44歳)くらいまで。それ以降の世代はそもそも経済成長を知らないし、成長しなくても幸せになれる、という価値観が、すごいスピードで拡がっている。世論調査でも移住したいという若い世代が大きく増加している。
 各地で起こっているオルタナティブなモデルをどんどん提示していくことで、時代を変えていけるのではないか。
141109_5_convert_20141113230956.png 熱心な議論は、予定の17時を30分ほど超過して終了。多くの示唆に富む刺激的な会合でした。
 以下は個人的な感想です。
 「脱成長」あるいは「ダウンシフト」といった言葉を聞いた最初の頃は、ともすれば、都会での厳しい競争に敗れ、疲れた人が田舎に癒されにいくといった、後ろ向き・消極的なイメージが拭えませんでした。
 この「脱成長ミーティング」では、いかにして経済成長至上主義という大多数のマインドセットを変えていくか、ということを議論しているのですが、何となく自分に見えてきつつあるのは、結局、1人1人が新しいライフスタイルを模索し、できるところから実現していくことしかないのでは、ということです。
 そのような個人が増えていけば、結果として、社会全体が豊かなものに変っていくのかもしれません。
 つまり、これからの「豊かな社会」は与えられるものではなく、自ら選択し獲得していくもの、ということのようです。これはこれで、厳しく辛いことではあります。
 さて、会合の最後に、白川真澄さんの新著『脱成長を豊かに生きる』出版記念の集いの案内を頂きました。
 12月20日(土)13:30~17:00、会場は水道橋の「スペースたんぽぽ」です。
 当日は、この日も参加されていた大河彗先生(大学教員/経済学)と高坂勝氏、それに天野恵一氏(福島原発事故緊急会議)と白川さんによるディスカッションを予定しているとのこと。
 私も足を運んでみようと思っています。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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