2016年12月6日(日)。午後から雲が多くなってきました。
JR八王子駅から八高線に乗り換えて2駅、小宮駅に到着したのは15時半頃。改札の外に30名近くが集合しました。
「八王子の伝統野菜(江戸東京野菜)・幻の高倉ダイコン圃場見学&食事会」に参加される方達です。江戸東京野菜コンシェルジュ育成講座等で顔見知りになった方も多数。
主催者である多摩・八王子江戸東京野菜研究会の福島秀史代表に先導されて市街地のなかを10分ほど歩くと、やがてパイプハウスが見えてきました。
ハウスを覗くと、たくさんの大根が干されています。
「八王子八十八景」にも数えられているという念願の光景を目の当たりにした参加者全員、足が止まり、覗きこんだり写真を撮ったり。
主催者の方から、見学は後でするので集合を、と促されます。
広い庭で待っていて下さったのは、立川太三郎さん。高倉ダイコンの生産農家の方です。
高倉ダイコンは大正時代から種が受け継がれている固定種(江戸東京野菜にも認定)で、昭和前期ごろまでは沢庵漬け用として広く栽培され、織物工場で働く女工さん達の食事に供されていたそうです。
その後、社会情勢や食生活が大きく変化し、栽培に手間がかかることから、今は栽培農家は一軒だけ(立川さん)になってしまったとのこと。
まずは、庭の隅に置かれたダイコンの洗浄機について説明して下さいました。
鮫肌を使われているそうで、なかなかの年代モノのようです。
そしていよいよ、先ほどのハウスに案内して下さいました。納屋の軒先にはダイコン葉が干されています。
ハウスに入れて頂くと、両側に多数のダイコンが紐で束ねられ、すだれのように下げられています。
その間の地面には、なぜか布団やマットレスが置かれています。
立川さんが説明して下さいました。
ほ場で抜いて葉を落としたダイコンを、1本ずつ洗って先端部(尻)と基部(首)を落とし、10本ほどずつを紐で束ねて吊るしています。ところが、そのまま放ったらかしでは良い干し大根はできないそうで、夜には、気温が下がって凍らないように、地面に下ろして布団をかぶせるのだそうです。
ダイコンが干し上がるまでの1週間ほど、この上げ下げの作業が毎日続くとのこと。
ダイコンは1本約1.5kg。1束だと15kgにもなります。試しに引っ張ってみましたが、持ち上げられませんでした。
今年は、約5千本を生産されるそうです。出荷した後には新しいダイコンを畑から持ち込んで干します。
ちなみに十分に乾いた大根は柔らかく、立川さんは顔の前で丸く曲げて見せて下さいました。
これまでも高倉ダイコンのことは、話としては色々と伺っていましたが、実際に現場で生産者の方からお話を伺うと理解が深まります。体験に勝るものはありません。
日が陰ってきました。
見学の後は、サツマイモ(紅はるか)をお土産に持たせて下さいました。さらに、その場でふかしたものを1本ずつ試食。
気温は下がってきましたが、アツアツ、ホクホクの芋は寒さにも完勝です(甘藷だけに)。
さて、高倉ダイコンの真価は目で見ただけでは分かりません。
バスで市内に移動、向かったのは北前廻船紀行・けいの家です。
北海道の魚などが看板の居酒屋さんですが、代表の北澤秀彦さんは八王子の野菜も積極的にメニューに取り入れておられます。
この日は見学会一行のために特別に貸し切りで店を開けて下さり、オリジナルの高倉ダイコンづくしのコース料理を準備して下さいました。
福島代表始め、多摩・八王子江戸東京野菜研究会の皆さんはお揃いの緑色のTシャツで参加。なかなか存在感があります。
食事会に駈けつけて下さった江戸東京野菜コンシェルジュ協会の大竹道茂会長(江戸東京・伝統野菜研究家)から挨拶。八王子を含めて江戸東京野菜の取組は着実に広がっており、近県でも注目されているそうです。
少し後には、同協会の納所理事長からもお話を頂きました。
さて、この日の特別コース「八王子の伝統野菜・幻の高倉大根」の内容です。
まず先付けは、高倉ダイコンと〆鯖の三色なます。
菜物には、高倉ダイコンと後閑晩生小松菜(注:これも江戸東京野菜です。)の生ハムシーザーサラダ。
続いて豪華な刺盛は、高倉ダイコン刺身と寒鰤の土佐造りと紅白北前寿盛り。生の高倉ダイコンの食感も格別です。
皿鉢は3点。
大根の葉の出汁巻き卵には、大根おろしが載せられています。高倉ダイコンのベーコン巻はボリュームたっぷり。
それに高倉ダイコンと手羽先の煮物。とろとろです。
お料理を頂きながら、参加者一人ひとりから自己紹介。
学校給食に伝統野菜を取り入れておられる学校栄養士の先生達も、多数、参加されていました。
日本の伝統食文化の普及に取り組んでおられる方や身近な野菜を食べることによる「食養生」の活動に取り組んでおられる方。
離島を含む東京の農業を追いかけておられる女性写真家の方。
「六次産業化」としてカット野菜生産と百貨店での販売に取り組んでおられる八百屋さん。
八王子市役所やJAの方も。
様々な方による伝統野菜の復活・普及のためのネットワークが、ここ八王子でも広がっている様子が伺えました。
料理は後半に。
料理長さんからも挨拶を頂きました。サプライズの追加メニューは、福島代表が持ち込まれた干し大根のステーキ。
そして大根と十勝鮭の粕汁。最後は高倉ダイコンのおろしを添えて雑炊で頂きました。
大満足です。ご馳走様でした。
多摩・八王子江戸東京野菜研究会の皆さんのTシャツの背中には「八王子にもある江戸東京野菜を知ってるかな?」との大きなキャッチコピー。
「答えは前を見てね!」とあるので前に回ると、高倉大根、川口エンドウ、八王子ショウガの3種類がイラストとともに書かれています。
これらは、いずれも地域の食文化を育んできた野菜ですが、栽培や出荷に手間がかかること等から生産農家は減少してきました。それを、福島さん達は収穫作業を手伝うなどしつつ、市民講座・料理教室の開催、小学生に対する食育への協力、飲食店への働きかけなど、多摩地域における江戸東京野菜の普及活動に積極的に取り組んでおられるのです。
活動の広がりに伴い、Tシャツの表のイラストもさらに増えていくことも期待されます。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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