ソメイヨシノはとうに終わりましたが、本格的な花の季節が到来。時はめぐります。
八重桜、ナガミヒナゲシ、コデマリ、モクレン等が目を楽しませてくれています(もっともナガミヒナゲシは外来種で、旺盛な繁殖力が問題になっています)。
2016年4月19日(火)の終業後は、東京・四谷の上智大学へ。
この日の18時30分から7号館14Fの特別会議室で開催されたのは、上野千鶴子先生の「女性は政治を変えるか?」と題する講演会。
主催は、生と死の問題はじめ様々な社会問題を学ぶ活動をしているベグライテンと、世田谷事件を追悼するミシュカの森です(共催:上智大学哲学科)。
上野千鶴子先生は、立命館大特別招聘教授、東京大名誉教授、 認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)の理事長。
わが国における女性学、ジェンダー研究の先駆者・第一人者であり、最近は憲法や安全保障問題について積極的に発言・行動されている「論客」としても著名です。
少々遅れて18時50分頃に到着。広い会議室はほぼ満席です。
原発事故の問題について触れられているところでした(以下、文責中田)。
「野中郁次郎『失敗の本質』によると、第一の敗戦をもたらした日本軍の体質は、その後の日本の企業や社会に受け継がれたとのこと。そして福島第一原発の事故について、作家の澤地久枝さんは『フクシマは第2の敗戦』、石牟礼道子さんは『フクシマはミナマタのようになるでしょう』と語っている。
原発事故のショックは2種類。ひとつは『まさか』というショック。もう一つは『やっぱり』。これは、また同じことが起こるのではという絶望感に繋がっている」
「第一の敗戦の時は、参政権が与えられていなかった女性に責任はなかった。男達が勝手に始めた戦争に巻き込まれたという立場。しかし第二の敗戦については言い訳できない。女性も有権者として原発を推進する国の施策を支えてきた」
「私は『女達のサバイバル戦略』の最後で、若い世代にツケを残してしまった自らの非力を誇びた。
今の日本は、あたかも泥船の上で博打をやっているような状態。博打の力タは年金」
「2015年の夏は、後から日本政治の転換点になったと評価されるだろう。
かつての日本では政治に対するシニシズムが墓延していた。それが、まっとうなことを まっとうに口に出してよい社会へと変わった。 『女の平和レッドアクション』『怒れる女子会』といった取組も各地で盛んになっている」
「『あの時、あなたは何をしていたの?』と言われないようにしたい。
ナチス時代のマルチン・ニーメラー牧師の有名な告白がある。教会にまでナチスが攻撃してきた時に初めて行動したが、その時はすでに遅かったと」
「小熊英二『原発を止める人々』に収録されているデモ参加者の言葉に、私は希望を持っている。 『沈黙はすなわち同意』『子どもに恥ずかしくないように』『歩き方を知った私たちは、もう立ち止まることはない』など」
「代議制民主主義は、市民の政治参加を促進するよりは抑制する意思決定のシステムとする政治学者もいる。
寺町みどり『市民派議員になるための本』は好著。女性が政治参加するには家庭内抵抗勢力が大きな壁になるが、家族や親類には事前に相談するな、と書いてある」
「『選憲論』は、護憲でも改憲でもない第三の道を探った本。
自民党の改憲案は99条(憲法尊重義務)に国民を加えるなど、立憲主義を全く理解していない。緊急事態条項は内閣への白紙委任であり問題」
「選挙権の18歳への引き下げは政治を変える可能性がある。かつての終戦と同じように、 3.11の時は何歳だったかという若い人たちの経験が、新しい思想と実践を生んでくれるものと期待している。民主主義は道具。使わないと習熟しない」
「2002年に中央公論社が公募した『私たちの憲法前文』で優秀賞をとった17歳の女性は、『まったくもってタイシタコトのない、世界的にみてソコソコの国がいい』と書いた。感動した。ぜひ再会したい」
ここで休憩。10分ほどの予定が、サインを求める参加者等も多く(先生も丁寧に対応されていたようです。)20分後に再開。
主催者から質問が書かれた紙の束を渡された上野先生、「せっかくなら顔を見ながら質問や意見を聞きたい」と言われ、最初に司会(ミシュカの森・入江杏さん)に指名されたのは17歳の女子高校生。
上野先生の前に出て「核のない社会は来ると思いますか」と質問。
これに対して上野先生 「問の立て方が違っている。来ると思うかではなく、そうしたいと思うかと問うことが大事。社会を変えるのは人間。あなたはどう思いますか」
そして「私はそうしたい」との答えに、「こんな17歳がいると思うと心強い」と上野先生。
このやりとりをみて「それでは答になっていない。先生の意見は」と会場から発言した男性に、先生は「出てきてマイクでちゃんと質問して下さい。あなたはどうしたいのですか」と逆に質問。
「色々と勉強はしているが、自分に社会を変える力はないと思う」との答えに、「そんな悲観的、評論家的なことを言っていて何の意味があるの。核兵器は70年前に人間が作ったもの。私たちがどんな社会を選ぶかに尽きる。小熊さんの本に収録されているデモ参加者の言葉にあるように『がっかりする暇なんかない』」。
続いてマイクを取った女性。「正しい情報が入手できない」との発言には、
「情報が入手できないなどとという言い訳は通用しない時代。自ら努力して、例えばネットで調べればいくらでも入手できる。オルタナティブなメディアもある。ただし判断力、リテラシーは必要。
また、現代は、情報を入手するだけではなく自ら発信できるところに大きな意味がある」との回答。
さらに「政治の話をすると煙たがられる」との発言には、「民主主義とは身の丈政治。自分たちの代表を支えていく、ただし裏切った場合は許さないという毅然とした意識と態度が必要。政治の話を嫌がるのは現実逃避。まっとうなことを言い続けていけばいい」と励まされていました。
上野千鶴子先生のご講演を実際にお聞きしたのは初めてのことでした。
何となく怖いイメージを抱いていたのですが(失礼)、そのお姿は小柄でチャーミングで、話しぶりもユーモアのあふれて親しみやすいものでした。会場の参加者(8割方は女性)からの笑いや賛同の声が絶えない講演会でした。
とはいえ、その話の内容は、現在の政治や社会情勢に対して正面から異議を唱える厳しいものでした。
そして先生が問題とされているのは、政治家等ではなく、自分たち自身、あるいは私たちが作っている(はずの)「民主主義」のあり方そのものなのです。
先生のご著書『上野千鶴子の選憲論』(2014.4、集英社新書)は、以下のような言葉で結ばれています。
「原発事故で、わたしたちは『おまかせ民主主義』に深いふかい反省をしたはずでした。
憲法については、『お任せ民主主義』の危険はもっと大きいでしょう。何より、私たちは主権者なのですから」
しっかりと胸に刻むべき言葉だと思います。
追記
このブログを執筆している4月24日(日)夜も、間断なく熊本・九州の地震のニュースが流れてきます。ライフラインや交通網は次第に復旧しつつあるようですが、今も7万人近くが避難生活を送っておられるとのこと。
衆院北海道5区補選では与党候補が勝利との速報も。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
(プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなったことから、現在、移行作業中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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