世界農業遺産紀行 vol.4 – 阿蘇

 2016年8月5日(金)。
 明け方は白いもやに包まれていましたが、陽が登るに連れて阿蘇五岳の姿がくっきりと見えてきました。
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 ホテルの窓のすぐ下の草原はホテルの乗馬体験コース(注:リンク先は音が出ます。)になっているようで、ガイドの後を親子がついていくのが見えます。
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 ゆっくりと朝食を終えチェックアウトも済ませたところに、産山村のあか牛生産農家・井信行さんが訪ねてきて下さいました。
 10年ほど前の熊本在勤・在住中には、仕事の面でも、個人的にも、大変お世話になった方です。久しぶりの再会です。
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 その井さんが携えてきて下さったのは、阿蘇を中心とした国内産飼料100%のあか牛生産に成功した等のニュース。
160805_12_convert_20160813222015.jpg もともと阿蘇のあか牛は放牧中心、牧草中心で育てられますが、一般に仕上げの時期(脂肪をつけるため)にはどうしても濃厚飼料(アメリカ産とうもろこし等)が必要とされます。井さんは、それらも全て国産にしたとのことで、ブランド化(「信行牛」)して東京でも販売されるとのこと。
 これらの活動が評価され、先月には「第7回 辻静雄食文化賞」を受賞されたそうです。
 さらに、産山村の米と水(池山水源の名水)で仕込んだ新製品「千年の草原」の焼酎も持ってきて下さいました。有難うございます。
 これから自ら運転して熊本市内に向かわれるという井信行さんをお見送りした後(様々な公職につかれており、80歳を越えた今も変わらずにご多忙のようです。)、やまなみハイウェイを大観峰方面に向かいました。
 素晴らしい阿蘇の高原の景観です。
 これらも、井信行さんや俊介さん(山の里)達の生産者の方達、地域の方達が手入れをしてきている賜物なのです。
 放牧されているあか牛の姿もありました。
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 外輪山を降り、南阿蘇に向かいます。
 国道57号線は阿蘇大橋の崩落等により不通のため、阿蘇山の中腹を迂回路に入ります。
 やがて、次の目的地・葉祥明阿蘇高原絵本美術館に到着。ちなみにここから先の登山道は、今も通れません。
 7月10日(日)、東京・六本木で開催されたチャリティー・コンサートの際、葉山祥鼎館長さんのお話を、スライドを見せて頂きながらお聞きしました。
 その時、仮に水道が復旧していなくても8月8日(月)には何としても再開したい、とおっしゃっていたのを聞き、ぜひ訪ねたいと思っていたのです(北鎌倉の葉祥明美術館は、先日、伺ってきました)。
 門にはチェーンが渡され閉ざされているのに、厚かましくも「周辺だけでも散策させて頂けないか」と電話したところ、女性の方が出てこられ館内に入れて下さいました。
 翌6日(金)にプレオープンするそうで、その準備にお忙しいさなかのようです(すみませんでした)。
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 絵本の原画や詩が展示されている展示室から庭に出ると、スライドで見せて頂いたとおりの(それ以上の)素晴らしい景観が広がっていました。
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 阿蘇の山々を背景に、ページが開かれた絵本のモニュメントが置かれています。
 絵本の世界が、阿蘇の景観に溶け込み一体となっています。
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 振り返ると、草原が刈り込まれた向こうに美術館の建物。それ自体が美術品(宝物)のようです。
 残念ながら、この日は幸せを呼ぶ青い蜂(ブルー・ビー)の姿を見ることはできませんでした。ぜひ、再訪したい場所です。
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 次の目的地に向かう途中、ちょうどお昼時だと思っていると、偶然、お蕎麦屋さんの前を通りかかりました。
 立派な建物。人気のお店のようで、お蕎麦が残っているかことを確認した上で席に案内されました。
 ここ数日、「肉率」が高かったこともあり、あっさりと冷やしおろし蕎麦を注文。コシのある細めの麺は美味でした。
 聞いたことのある屋号だと思い、帰り際、ご主人に伺ってみると、7月2日(土)に東京・有楽町で開催された「くまもと食べる通信ミーティング」の際に名詞交換させて頂いた方の親戚のお店でした。
 かなりの被害だったと伺っていただけに、繁盛している様子をみて嬉しく思った次第。
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 阿蘇の雄姿を左に見ながら東へ。目的地はOさん宅。
 ご主人とともに循環型の農業を営まれる傍ら、里山エナジー(株)の代表として、地域のバイオマス資源の開発などエネルギー事業にも積極的に取り組んでおられている方。
 熊本在勤中も仕事上のお付き合いはそれほどなかったのですが、活躍されている地域の様子だけでも拝見したいと今朝ほどメッセージしたところ、この日は自宅にいる旨の連絡を頂いていたのです(大変、ご多忙な方です)。
 ホームステイされているドイツ人の女性と、幼いお嬢さんがおられるご自宅に上がらせて頂きました。
 葉祥明阿蘇高原絵本美術館で求めてきた葉山館長の詩・写真集をお渡しし(自分用にも1冊求めました)、挨拶しているところに、国連大学と環境省のご一行が来訪。世界農業遺産の第一人者であるT先生達です。
 Oさんがご在宅の時には、ひっきりなしにお客様が来られるとのこと。
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 T先生達を田んぼに案内されるというので、一緒に見学させて頂きました。
 水田脇の土手の一部は地震で崩れたまま。新たに水が湧き出した箇所もあるそうで、多くの種類の生物が生息するようになっているとのこと。
 視察を続けられているT先生達と分かれ、Oさんにお礼を申し上げて失礼させて頂きました。
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 ところでOさん宅では、不遜にもT先生に対し、「遺産」という言葉(Heritage の翻訳)には過去のものというイメージが強く、現在も生きているシステムであるという、あるいは未来志向的なニュアンスに乏しいのではないか等とお聞きしてみました。
 様々な議論はあったとのこと。しかし、良く知られている「世界遺産と同じ言葉を用いたことで、世の中に広まる効果は大きかったのではないかという旨のご返答でした。
 阿蘇の農業「遺産」は、現に多くの方々のたゆまない取組みの上に成り立っていることを、今回、お目にかかったことで改めて実感することができました。
 橋本さん(山都町)は、草資源を堆肥として活用してトマトを生産されています。井信行さん、井俊介さん(産山村)は、放牧・粗飼料中心のあか牛生産に取り組んでおられます。さらにOさんは、農業やエネルギー自給の面を切り口に、未来を担う子ども達を育て「遺産」を未来につなげていくために幅広い活動をされています。
 椎葉勝さん(宮崎・椎葉村)の「世界農業遺産は地域に住む人間の生業(なりわい)の上に成り立っている」といった言葉も、印象的でした。
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 現在、まさに「生きている」システムであり、さらに発展して未来に引き継がれていくことが期待される世界農業遺産に、これからも注目し、他の地域も訪れてみたいと思います。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなっていることから、現在、移行作業を検討中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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