================================================================
◇◆◇ F. M.Letter −フード・マイレージ資料室通信− ◇◆◇
No.103; 2016.10/1(土)[和暦 長月朔日]発行
================================================================
和暦では「夜長月」に入りました。日ごとに夜が長くなる季節。もっ
とも雨が多く日照が乏しい日が続いており、相次ぐ台風の影響もあって
農作物の生育や収穫が心配です。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満
月の日)に配信している本メルマガ、今回は長月朔日の配信です。
—————————————————————-
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるい
は考えるヒントになるような話題を、具体的なデータに即して紹介し
ていきます。
—————————————————————-
「近年、大きく減少しているたんぱく質摂取量」
前回は、改めて栄養面からみた日本人の食生活の変貌の全体像につい
て紹介しました。
すなわち、国民1人・1日当たりの供給熱量は1990年代半ば以降減少す
るなか、供給脂質は大きく増加した結果、脂質の摂取過多など栄養バラ
ンスが崩れています。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/58_eiyo.pdf
そのようななか、たんばく質は長期的にみて比較的変動が小さいこと
から、これまで本メルマガ等でもあまり注目してきませんでしたが、今
回は人体をつくる上で必須の栄養素であるたんばく質の摂取量の近年の
動向について、やや詳細にみることとします。
リンク先の図59は、前回の図58の折れ線グラフのうち1995年以降につ
いて詳しくみたものです。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/59_tanpaku.pdf
これによると、エネルギー摂取量は1995年の 2,654 kcalから2014年に
は 2,415kcal へと9.0%減少し、脂質については同期間に 82.7gから
78.8gへと、減少幅は小さいもののやはり 4.7%減少しています。
ところが、たんばく質については 87.9gから 78.5gへと10.7%も減少
しているのです。この減少幅は、脂質はもとよりエネルギーの減少率よ
りも大きい数値です。
このように、近年たんばく質の摂取量が大きく減少していることにつ
いては、過度のダイエットや偏食傾向の影響で「摂取するべきたんばく
質の量が摂れていない人も増えている」と警鐘を鳴らしているホームペ
ージもあります(注1)。
さらには、近年におけるたんばく質を始めとする栄養摂取量の減少が
失業率の動きと連動しているとの論調もあります(注2)。
最初これを読んだ時には、単なる偶然か(あるいはトンデモ論か)と
思ったのですが、実際に自分で関連するデータや資料に当たってみると、
確かに近年の経済情勢が栄養摂取の面にも様々な影響を与えている可能
性があること分かってきたのです。
次回に続きます。
(注1)例えば(株)明治ホームページ
https://www.meiji.co.jp/milk-protein/healthy-life/article-1.html
(注2)
松尾匡「この経済政策が民主主義を救う」(2016.1、大月書店)
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b214189.html
[出典、参考等]
農林水産省「食料需給表」
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/index.html
FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html
—————————————————————-
◆ オーシャン・カレント −潮目を変える−
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおら
れる方達や、トピックスを紹介していきます。
—————————————————————-
JR・メトロ西日暮里駅から徒歩5分ほどのところにフロマエカフェ
(from a & e caf?)はあります。
人気の谷根千(やねせん)地区や谷中銀座にも近く、伝統的な日本の
下町文化が残っている地域です。
名前の由来は“from Alternative & Ethical trade …”、“from
Air & Earth …”、“from
Agriculture & Energy …”、“from Art
& Education …”。
それに、向かいに銭湯があること(風呂前)。
2006年から東京・代々木公園けやき並木で月1回(次回は10月22日(土))
開催されている東京朝市・アースデイマーケットから派生した「縁農カ
フェ」で、アースデイマーケットに出店している農家が生産した無農薬や
自然栽培の野菜、フェアトレードの食材等を用いた食事を頂くことができ
ます(テイクアウトもできます)。
野菜など農産物のほか、伝統的な手仕事やフェアトレードの品物を販売
するコーナーも常設されています。
これら食材を用いた料理を頂いたり、あるいは品物を購入したりするこ
とで持続可能な社会づくりに貢献することができるのです。
また、生産者が来店して客と交流したり、都会の消費者が地方の生産者
の畑に援農に行ったりするなど、都会の消費者・生活者と地方の生産者と
の間の距離を近づけるきっかけの場ともなっています。
なお、内装や設備にもこだわっており、自然採光・自然通風が取れるよ
うにして照明は消費電力の小さいLED、給湯は太陽熱温水器を利用していま
す。
壁は調湿効果のある珪藻土や国産の無垢材が用いられ、テーブルや棚は
古材、パン教室の時の捏ね台は国産檜の間伐材が使用されているなど、全
体として自然と調和した快適な空間になっています。
漆喰の壁はギャラリーを兼ねていて展覧会等が定期的に開催されており、
パン作りやヨガのワークショップなど様々なイベントも開催されています。
フロマエカフェは、先日、開店1周年を迎えました。
9月3日(土)に開催された記念パーティーでは、経営者の方達から「無
事に一周年を迎えられたが3年間位に感じられる長い一年だった」「勢いで
始めたお店だが結構大変だった。これからもらせん階段のように少しずつ
向上していきたい」等の言葉がありました。
また、9月28日 (水) には「寺田本家蔵出し祭り」が開催され、昔ながら
の生もと造りの自然酒の蔵元・寺田本家(千葉・神崎町)から24代目・寺
田優さんを迎え、重陽の節句に蔵出しされた貴重な日本酒等をフロマエ特
製の料理とともに楽しむことができました。
銭湯とは、江戸時代から人々が集い安らぐ場であった場だったとのこと。
フロマエカフェという名前には、その銭湯のような役割をカフェという
スタイルで担っていきたいという思いも込められているそうです。
[参考]
「フロマエカフェ」
ウェブサイト
「フロマエカフェ」フェイスブックページ(イベントスケジュール等)
https://www.facebook.com/fromae/
東京朝市 アースデイマーケット
http://www.earthdaymarket.com/
—————————————————————-
◆ ほんのさわり
食や農の分野について考えるヒントとなるような本の「さわり」だ
けを紹介します。
—————————————————————-
蔦谷栄一「農的社会をひらく」(2016.4、創森社)
−足元からの自立と協同で農的社会の創造へ−
著者は長く(株)農林中金総合研究所で日本農業論、都市農業、持続
的循環型農業等を中心とした調査研究に携わり、農林水産省の各種研究
会委員等の公職も務められ、2013年には農的社会デザイン研究所を設立
された方です。
また、自ら山梨県下で自然農を実践するとともに田舎体験教室を主催、
銀座農業政策塾の代表世話人も務められるなど、子ども達や都市の生活
者を含めた多くの人に「農」の現代的な重要性について積極的に発信さ
れています。
冒頭で著者は「農的社会に1人でも多くの人に触れてもらい、農の持つ
社会デザイン(変革)能力を知ってもらいたい」と訴えています。
「農的世界」とは(一言では言えませんか)生命原理を最優先した社会
だそうです。
著者によると、経済市場主義に基づく現代社会では生命が軽んじられ、
生きにくく不安にさいなまれていることから、時代は転換期を迎えてお
り、生命原理を最優先する農的社会の到来は必然的であるとしています。
そして、農的社会の創造のためには、農が持つ社会デザイン(変革)
能力−食料自給能力、自立能力、教育能力、生きがい・働きがい能力、
文化形成能力−を発揮させていくことが重要とのことです。
また、農的社会の基礎となるのが「コミュニティ農業」。
これは、4つの関係性(産消提携など生産者と消費者の関係性、農家と
地域住民との関係性、都市と農村の関係性、人間と生物・自然との関係
性)を構成要素とする農業を指します。
そして、社会を変えていくためには、1人ひとりができることを地域・
現場で積み重ねていくことが「最も現実的な対処策」であるとし、「す
べての市民国民が置かれた状況に応じて農業に参画し、喜びと悲しみを
ともに体験することで、農的社会の創造に参画していくこと」に期待を
かけられています。
なお、引用されている著者自身の経験と交流に基づく多くの事例やエ
ピソードが、本書に厚みと説得力をもたらしています。
特に、山梨の“百姓”H氏(85歳)の語録(「稲も里羊も決してウソは
言わない」「水、空気、土が人間を生かしてくれる」「物と心は反比例
する」等)は、圧巻としか表現しようがありません。
蔦谷栄一「農的社会をひらく」(2016.4、創森社)
http://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=372
(参考)農的社会デザイン研究所
http://www.nouteki-design.com/
—————————————————————-
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント
の開催情報等をお届します。
—————————————————————-
▼ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報
○ 小川町オーガニックフェス2016 (09/16)
http://food-mileage.jp/2016/09/16/
○ 品川カブ栽培実習講座 (09/17)
http://food-mileage.jp/2016/09/17/
○ 「土と平和と福島と」(結イレブンvol.33) (09/18)
http://food-mileage.jp/2016/09/18/
○ 熊本を応援する会 @ 森の食卓 (09/20)
http://food-mileage.jp/2016/09/20/
○ ロータス寺市、アースデイマーケット、しながわ宿場まつり (09/28)
http://food-mileage.jp/2016/09/28/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には
必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 西原ふるさと祭り
日時:10月9日(日)10:00〜15:00
場所:山梨・上野原市西原(さいはら)びりゅう館周辺
主催:西原ふるさと祭り実行委員会事務局
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.hakken-uenohara.jp/entry.html?id=113302
○ 喜多方・山都フェア
日時:10月10日(月)11:00〜16日(日)17:00
場所:農民カフェ/下北沢店(東京・世田谷区北沢2)
主催:農民カフェ/下北沢店
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1811903185707200
○ ニア東京。大地に根付き、秘境で暮らす「TURNSカフェさいはら」
日時:10月13日(木)19:00〜21:00
場所:TURNSコミュニティスペース(東京・有楽町
東京交通会館9F)
主催:NPO法人さいはら
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.turns.jp/start/3702
○ 第3回新宿御苑「はじめての江戸東京野菜講座」
日時:10月15日(土)13:00〜16:00
場所:新宿御苑インフォメーションセンター2F
主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.edo831.tokyo/kouza/1373#more-1373
—————————————————————-
*今夜のコツコツ小咄。
「ジビエは安定調達できるかが課題なんです」
「仕入れは定価では無いんですか?」
「はい。時価(鹿)肉ですから」
注:「コツコツ小咄」は拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)
投稿中です。
https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7
* 次号No.104は、10月15日(土)[長月十五日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えています。
読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて
頂いています。いつもありがとうございます。
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方
は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
================================================================
F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
================================================================
◆ 発行者:中田哲也