2017年2月4日(土)。
穏やかな立春の日は、東京・経堂の生活クラブ館へ。1階は生活クラブのお店「デポー」になっています。
この日13時30分から地下の集会所で開催されたのは、NPO設立10周年記念講演「東京が食べられなくなる日」。
開会に当たり、主催者であるNPO法人コミュニティ・スクール(CS)まちデザインの近藤惠津子理事長から「CSまちデザインは発足して15年、昨年7月にはNPO法人として10周年を迎えた。本日は、CSまちデザインが誇る3名の理事を講師に記念講演会を開催することとした。いずれ起こる大震災に備えてコンクリート都市・東京で『今すぐ始めなければならないこと』を考えたい」等の挨拶。
最初の登壇者・榊田みどりさん(農政ジャーナリスト、明治大学客員教授)からは、「『東京』という存在を考えるための基礎情報として」とのタイトルで、議論の前提となる様々な統計データ等の紹介がありました。
東京は1955年以来世界最大の都市で極端な一極集中であること、水、食料、エネルギーを外部から調達する“高度な都市システム”が構築されてきたことを紹介され、今の私達はそのシステムに安心し切っているが果たして震災が起こった時はどうなるのかと、問題提起をされました。
続く白石好孝さん(農業、「大泉風のがっこう」主宰)からは、世襲制の下で300年に渡り代々農業を営んできたこと、野菜を中心に多品目少量生産を行っており、毎日、レストランや直売所に届けていること、地域の子ども達の農業体験や障がい者の社会復帰訓練の受け入れを行っていること等について紹介がありました。
そして、消費者が近くにいることが都市農業の最大のメリットであり、都市農業振興基本法が制定されたことによって追い風が吹いてきていること等を述べられました。
最後に大江正章さん(農業ジャーナリスト、コモンズ代表)からは、まず、東京にも日本一の生産量を誇るルッコラ等の作物があること、東京では比較的若い担い手が確保されていること等のデータの紹介がありました。
その上で、都市農業の先駆的な取組みとして国分寺市の「農あるまちづくり」の取組、大田区、神奈川・大和市における地産地消費による提携(CSA)の推進事例等を取り上げ、従来型の提携が低調なのは消費地と生産地が離れているためではないかとの問題提起がありました。
後半は、近藤理事長が提示するいくつかのテーマに沿ってのディスカッションです。
まず、防災の視点からの都市農業・農地については、大江さんから都市農業振興基本法第3条(基本理念)に都市農業が防災面の機能を有していることが明文化されていること、榊田さんから登録農地制度があること等の紹介がありました。
また、白石さんによると「自分の農地も井戸と発電機、普段から交流活動で用いているコンロや大鍋も備えているので、数日間は避難可能」であるとのこと。一方「全ての農家の意識が高い訳ではなく、行政にも温度差がある。市民の方から働きかけることも有効」等の話がありました。
「学校給食の地場化」については、
大江さん「多くの農家は給食に出したいと思っていても仕組み作りは大変。日野市のように熱心な学校栄養職員の方がいるところは進んでいる。さらに体験と組み合わせることにより残食率を減らすこともできる」
白石さん「人口や学校の多い地域では全体をまとめるのは困難で、個々の栄養士さんと農家のマッチングにより行われてきたが、近年始まった『練馬大根引っこ抜き大会』は地産地消を促進するきっかけになった。いずれにしても、調理員さんが協力的かどうかが重要」
榊田さん「センター方式が推進されたことが地産地消には逆風となった。今、センターの多くが建替えの時期を迎えており、自校方式に戻すチャンス」等のコメント。
「都市と農村の連携」については、
榊田さん「普段からお付き合いする『かかりつけ農家』をつくるようにしてはどうか。ファンクラブや『疎開保険』に取り組んでいる地域もある」。
大江さん「東京の農業は野菜に偏っている。阪神淡路大震災の時は、神戸市のJA倉庫には米が備蓄されており、それを使ってJA女性部の皆さんが炊き出しを行った」。
白石さん「埼玉の荒川流域等の稲作地帯は疲弊して後継者も少ない。こういう時代だからこそ協同の力を見直すべきでは」。
また、この日の会場には、新規就農を目指して日本農業経営大学校で学んでいる2人の若者(男女)も参加しておられ、大江さんに促されて将来構想等について話されました。
大江さんからは「新規就農を希望する人は有機農業を志す人が多い。農業という仕事に対する若い人たちの意識が変わってきていることは、大きな希望」等のコメントがありました。
会場との質疑応答も経て、予定の16時をやや超過して終了。
引き続き、隣接するレストランで懇親会。
NPOとして10周年を迎えたCSまちデザインは非常に良質の講座等を企画・実施しています(私も昨年11月の「福島の有機農業生産者を訪ねる旅」など、何度も参加しています)。運営は決して楽ではないようですが、20周年に向けてさらに発展していかれることを期待したいと思います。
終了後は東京・三鷹に移動。
「森の食卓」で開催されていたのは、江戸前寿司と日本酒の会。目利きの職人さんが仕入れたネタを、目の前で握って下さいました。ご馳走様でした。
三鷹でもネットワークが拡がりつつあります。
この日は(も?)、いささか呑み過ぎ。