◇フード・マイレージ資料室 通信 No.112◇
2017.2/11(土)[和暦 睦月十五日]発行
────────────────────
◆ F.M.豆知識 本当に「物の豊かさ」より「心の豊かさ」か
◆ O. カレント 眞鍋じゅんこさん
◆ ほんのさわり 高坂勝「次の時代を、先に生きる。」
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
暦は立春を過ぎましたが、まだまだ寒い日々が続いています。特に日本海側では大雪とのニュース。どうぞお気をつけください。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は睦月十五日の配信です。
【お知らせ】
筆者が個人的に運営していたウェブサイト「フード・マイレージ資料室」は、以下のとおり移転しました。旧サイトは閲覧できなくなっていますので、ブックマーク等に設定して頂いている方は変更をお願いします。 (旧)http://members3.jcom.home.ne.jp/foodmileage/fmtop.index.html →(新)http://food-mileage.jp/
新サイトには、本メルマガのバックナンバーも一括して掲載してあります。また、F.M.豆知識、オーシャン・カレント、ほんのさわりについては特集ページを設けてあります。
http://food-mileage.jp/category/mm/
引き続きよろしくお願いします。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。
−本当に「物の豊かさ」より「心の豊かさ」か−
前回は、日本の経済成長が低迷する中で格差が拡大している状況を紹介しましたが、関連して、今回は内閣府「国民生活に関する世論調査」を紹介します。
本世論調査では、毎回、「今後の生活において、これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか」についての問いがあります。
最新の2016年調査においては、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」(『心の豊かさ』)と答えた者の割合が60.2%、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」(『物の豊かさ』)と答えた者の割合が31.3%となっています。
これを時系列でみると、1972年の時点では『物の豊かさ』が40.0%と『心の豊かさ』(37.3%)を上回っていましたが、その後、両者は逆転し、1982年以降は一貫して『心の豊かさ』が『物の豊かさ』を上回って推移しており、2016年には両者のポイント差(『心の豊かさ』−『物の豊かさ』)は28.9ポイントと、相当大きなものとなっています(リンク先の図67)。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/02/67_yutakasa1.pdf
この結果から、もはや日本は物質的に豊かになったのでこれ以上の成長を目指す必要はなく、ゆとりある生活をすることを重視したいのが国民の総意であるかのように言われることがあります。
しかし、これを年齢別にみると状況は異なります。
2016年においては、両者のポイント差は20〜29歳層においては10.2ポイント、30〜39歳層においては6.8ポイントと、若年層では比較的小さな値に留まっているのです。これに対し60〜69歳層では37.8ポイント、70歳以上層では42.9ポイントと、特に高齢層で『心の豊かさ』を重視する者が多いことが分かります。
さらに、若年層の数値(ポイント差)は、近年、低下傾向で推移しており、『物の豊かさ』をより重視するようになっている傾向がみられるのです。
これは、経済が高度成長した時代の果実を手にしている高齢者層とは異なり、若年層には現在も相対的に経済的な事情が厳しく、経済成長や所得増加を求めている者が増えつつある状況を反映している可能性があります。
ちなみにこのポイント差(『心の豊かさ』−『物の豊かさ』)は地域別にも差がみられ、大都市では34.2ポイントとなっているのに対して小都市では25.9ポイント、町村では27.2ポイントと相対的に小さくなっており、地域間でも異なる様相を示しています。
[参考]
内閣府「国民生活に関する世論調査」(2016年7月調査)
http://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-life/2-2.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室−F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント −潮目を変える−
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方達や、トピックスを紹介していきます。
−眞鍋じゅんこさん−
フリーライターの眞鍋じゅんこさんは東京生まれ。夫でカメラマンの鴇田康則氏とともに30年来、農山漁村や都会の「秘境」に足を運び、農林漁業者や職人さんを対象に生業や暮らしについてインタビューし、記録されている方です。
その幅広く奥深い取材結果は、多くの書籍や雑誌で発表されています。
例えば『中古民家主義』(2008年交通新聞社、鴇田康則氏との共著)は、「実は都会の風景の中身こそが、今まさに消えゆこうとする秘境だったのだ」として、町工場、長屋、銭湯、下宿、赤線建築など、私達の暮らしの隣にあって今や失われつつある住まいや建物、そこで営まれてきた生業の様子を丹念に取材されています。
素敵な写真とイラストと相まって、そこに住む(住んでいた)人たちの息吹きが伝わってくるような好著です。
各地で講演会も開催されています。
例えば2015年11月27日(金)に東京・渋谷で開催された「市民科学講座・日本の暮らしの魅力の探り方を語る」(主催:NPO法人市民科学研究室(市民研))では、ご主人が撮影した写真を映写しながらのお二人によるスライドトークでした。
全国各地の多くの魅力的な人々の姿や光景が次々と映されますが、とても予定の2時間半では全ては伝えきれなかったようです。
さらに、NHK 文化センターなど各地のカルチャー教室が主催する「東京湾岸歩き」「商店街・門前町今昔散歩」「東京写真さんぽ」など、独自の視点で農山漁村や都会を実際に歩いて体験するワークショップ等も、毎月数回、開催されています。
去る1月26日(木)には、やはり市民研の主催による「健康まちづくりまち歩き第5回−神田川沿い(日本医学教育歴史館を含む)」が開催され、眞鍋さんに解説を頂きながら日本最古の大学(湯島聖堂)や鬼門封じ神社(神田明神)をめぐりました。
なお、眞鍋さんは水産庁長官により「お魚かたりべ」に任命されており、日本の魚食文化の普及・伝承にも取り組んでおられます。
「面白いことや人を見つけると、じっとしていられない」という性格の眞鍋さん。
これからも様々な地域を訪ねられ、ご主人の素敵な写真とともに、国内外の多くのマチやムラ、ヒト達の姿を伝えていって頂きたいと思います。
[参考]
公式ブログ『眞鍋じゅんこのまっすぐには歩けない』
http://minamida.exblog.jp/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室−オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
−高坂勝「次の時代を、先に生きる。−まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ」(2016.11、ワニブックス)−
https://www.wani.co.jp/event.php?id=5234
(注:高坂さんの「高」の字は、正確には異字体(はしごたか)です。)
ダウンシフトや脱成長の旗手・高坂勝さんの待望の新著です。
著者は1970年生まれ。30歳で大手企業を退職、国内外を回った後にナリワイとして「ひっそりとチッポケな」Organic Barを開業して12年。営業は週4日で、他の日は千葉・匝瑳市で米・大豆の自給や移住者の支援活動をされています。
現在の収入はサラリーマン時代から半減したそうですが、「安心と満足感の中で生きて」おられるとのこと。
著者は「経済成長至上主義」が全ての不幸を生んでいると断じています。
金儲けのためなら誰かの命をおびやかすもの(武器や原発)でも何でも許されている。GDPを増やすことが幸せにつながると強制的に勘違いさせられ、その結果、心身をすり減らしてしまう人が多い。
「だから経済成長神話から脱出し、次の時代を先に生きてしまえ。それが幸せへの近道だ」というのが本書の明確なメッセージです。
その方法は意外と簡単だそうです。
基本はナリワイ(元手が少なくても個人で始められる仕事)を起こすことと、食べものを自給すること。実際に都会から地方に移住し、食べものを自給しながらナリワイを興した人たちの事例(NPO、飲食店、整体、出版等)が、収支状況も含めて具体的に紹介されています。
また、少しでも食べものを自給することは、自らの人生の土台を大きく変える自信と経験となるとともに、「世界の途方もない問題群に対するささやかな、かつ本質的な行動」とされています。
そして、始まりつつある「脱消費と田園回帰の時代が世の中のあらゆる問題を解決していく糸口になる」とし、「経済成長至上主義に代わる、新しくて懐かしい経済の構築に、一人一人のナリワイ人こそが貢献していける」と、読者に呼びかけているのです。
なお、著者は経済成長そのものを全否定している訳ではなく、「暮らし方や生き方の選択肢がたくさんある社会を目指すべき」というのが眼目のようです。
ちなみに著者は「少しずつ自分を消していく作業も進めていきたい」とし、Barも2018年の春前には閉じて匝瑳に完全移住する計画とのこと。
「都会に必要なものはもうない」そうですが、高坂さんのBarを必要とする都会の人は、まだまだ、たくさんおられると思うのですが。
[参考]
高坂勝氏ブログ「たまにはTSUKIでも眺めましょ」
http://ameblo.jp/smile-moonset/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室−ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
注:今後、新しいウェブサイトの中で執筆していくこととしています。
(旧)http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/l
→(新)http://food-mileage.jp/category/blog/
○ 八王子しょうがジェラート、押上よしかつ (1/29)
http://food-mileage.jp/2017/01/29/
○ 再開発が進む渋谷での食事会にて (2/3)
http://food-mileage.jp/2017/02/03/
○ 東京が食べられなくなる日 (2/7)
http://food-mileage.jp/2017/02/07/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 農業書センターライブ2017
日時:2月14日(火)19:00〜20:00
場所:農文協・農業書センター(東京・千代田区神田神保町2)
主催:百生一喜
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/600908780093980/
○ 脱成長ミーティング 第12回公開研究会
−高坂勝「次の時代を、先に生きる」を読んで〜脱成長の豊かさとは?」−
日時:2月19日(日)13:30〜17:00
場所:ピープルズ・プラン研究所(東京・文京区関口1)
主催:脱成長ミーティング
(詳細、お問合せ等↓)
http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di12hui_kai_cui_jiang_zuo.html
○ 共奏キッチン♪ @シェア奥沢73
日時:2月20日(月)18:00〜22:00
場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢 2)
主催:共奏キッチン
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/146996402475285/
○ 高遠菜穂子さん「イラク・モスル緊急支援報告会」
−エイドワーカーがモスル解放地区で見た「対IS戦争」−
日時:2月20日(月)19:00〜21:00
場所:専修大学神田キャンパス(東京・千代田区神田神保町3)
主催:ヒューマンライツ・ナウ
(詳細、お問合せ等↓)
http://hrn.or.jp/news/9958/
○ 日本の未来のために「これからのエネルギーのことを考えよう」
日時:2月23日(日)18:00〜20:00
場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
主催:番場さち子さん
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/866389100160921/
────────────────────
*今号のコチコチ小咄。
「あっ、大きな荷物を抱えたおばあさんが転んだよ。梅の花作戦、発動!」
「えっ、なんのこと?」
「荷負い、起こせよ(匂いおこせよ)」
注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
新ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.113は、2月26日(日)[如月朔日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。 ────────────────────
◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
http://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/