2017年2月23日(木)の終業後は東京・駒場東大前の番來舎(ばんらいしゃ)へ。
福島・南相馬出身の番場さち子さんが主宰する「ママ応援サロン&学び舎」では、随時、様々なセミナー等が開催されています。
この日開催されたのは「最新!福島の基礎知識2017~いまおさえておきたい10のこと~」。
スピーカーは社会学者の開沼博先生(立命館大学准教授)と医師の坪倉正治先生(南相馬市立総合病院)です。
ちなみに番場さんは生憎と体調不良でご不在でした。
冒頭、開沼先生から「今日は、福島の現状についての一般的な疑問について議論していきたい。坪倉先生とは打ち合わせしていないので、ライブ感を楽しんで下さい」との言葉でスタート(以下、文責中田)。
食べ物等の安全性から話が始まりました。
坪倉先生「土壌の性質がチェルノブイリとは異なり、放射性物質が作物に移行しにくいメカニズムも明らかになってきた。ホールボディーカウンター(WBC)による検査も、いつまで続けるかという議論になっている。BSEの全頭検査と同じで合意形成は難しい。一方、除染作業によりどの喰い放射線量が下がったかについての検証は不十分」
開沼先生「WBCによる内部被ばく検査結果は福島県のHPに掲載されており、それによると平成23年6月から29年1月の間で約32万人分のデータがあり、ほとんど(99.99%)が1mSV未満。農林水産物モニタリング情報は「ふくしま新発売」のHPに掲載されている。きのこや山菜など検出されるものはゼロではないが、きちんとトレースされる仕組みになっている。米の全袋検査にも膨大な経費がかかっている。海産物についても丸2年基準超過はない」
坪倉先生「空間線量と実効線量とは異なる。確かに空間線量の高い場所は見つかるが、これは最大値で示される。実際の被ばく量は相馬辺りでは3年前に1mSVを切っている。国連の専門家の調査もある」
開沼先生「楢葉町の放射線健康管理委員会でも個人線量計(Dシャトル)のデータを分析しているが、すでに環境省の除染の基準値(0.23μSv/h)を下回っている。先日、福島市でのフォーラムでは市長が0.23μSv/hを達成したと挨拶したが、行政的なメッセージとしては意味があるのだろうが、数字が一人歩きすると無駄な不安をあおる懸念もある」
坪倉先生「甲状腺がんの検査についても、現実的にはどう縮小していくかの議論になっている。もともと日本人は海藻を食べるためヨウ素は入りにくい。ベラルーシに比べても数百分の一。甲状腺の腫瘍の大部分は良性で他のがんとは違う」
「検査することによって不安をあおる面もあるが、不安を和らげる面もあるのは事実。健康調査を必須とするのではなく、受けたい人はいつでも受けられるという体制に変えていくべき」
開沼先生「廃炉に向けての作業で2号機で650SV/hという放射線量が検出され、これは仮に人が浴びれば数十秒で死亡する量等の報道があったが、放射能に対するリテラシーが問われている。新たな風評を招く恐れも」
最後にデマやいじめについて。
開沼先生「社会的にアジェンダセッティングされないと報道も動かない。神奈川県教育委員会は対策として子どもに放射線に関する副読本を読ませるとしているが、それよりも大人が知らないこと、きちんと対応していないことが問題。現に福島への修学旅行者数は大きく落ち込んだまま」
坪倉先生「子どもの尊厳を守るために何が必要か、合意形成に向けてのチャンスとしなければならない。触れたくない、面倒くさいと思われるようなことであっても伝えていく努力を続けていきたい」
引き続き、会場との意見交換。
発言された方の中に、山梨から来られたという3名の方がおられました。
「今日の話は安全面を強調するものと受け取ったが、私たちの回りの人たちの感覚とのギャップか大きい。自分自身もその一人だったが、先日、福島・相馬を訪ね、番場さんに案内して頂きながら話を聞くことができ、少しずつ現地の状況を理解できるようになった。番場さんをお招きし、山梨で『お話会』を計画している」との意見と紹介も。
まもなく東日本大震災と福島第一原発の事故から丸6年が経過しようとしています。
復興・再生の動きが進みつつある一方、避難者である子どもに対するいじめが明るみに出てくるなど、原発事故と放射能汚染をめぐる問題はさらに複雑化している面があります。
一人ひとりが向きあっていく必要があります。