今年も、みどり萌える季節がやってきました。
近所にある屋敷林のケヤキのを見上げると、青空に向かって鮮やかな若葉がもくもくと拡がっています。日本のケイキ(景気)も拡大していけばいいのですが。
2017年4月28日(金)の夕方は、東京・本郷へ。
18時30分から文京区男女平等センターで開催されたのは「みんなの有機農業公開講座-宮沢賢治の有機世界を求めて」(主催:日本有機農業研究会)。
有機農家・舘野廣幸さん(日本有機農業研究会理事、埼玉大学非常勤講師)による連続講座もちょうど100回目、そして最終回とのこと。
これまで毎月、宮沢賢治の童話を1話ずつ取り上げてきましたが、ほぼ一段落したとのこと(私はこれまで1~2回しか参加していません。もったいないことをしました)。
最終回に取り上げるのは童話ではなく「農民芸術概論綱要」です。
舘野さんは、栃木・野木町で稲作を中心とした有機農業を営んでおられます。
舘野かえる農場と称しておられる通り、カエルやトンボなど自然の生き物の力を活かし、雑草とも共生する農業とのこと。
全ての命を大切にするスタイルは田中正造や宮沢賢治にも通じるとのことで、東京や栃木で正造や賢治に関する様々な講座等を開催されています。
ちなみに栃木は宮沢賢治とのゆかりも深く、6月3日(土)~4日(日)には宇都宮を中心に「宮沢賢治と栃木」と題するイベントも開催されるとのこと。
配布して下さった資料によると、賢治は教師を辞して自ら農業に携わりつつ、大正15(1926)年1~3月にかけて花巻農学校で「農民芸術論」を講義したとのこと。
その時のレジュメが「農民芸術概論綱要」であり、彼がやろうとした農業の姿をまとめたものだそうです。
賢治によると、農業は技術だけではなく芸術だったとのこと。
いくら手間隙をかけても稲作ができるのは年1回。工業製品とは違う。命を相手にする限り効率を求めるのには限界がある。「農作物をつくるのは人間ではなくお日様がつくるもの」と賢治も言っている。
「農民芸術概論綱要」本文のコピーも配られ、詳細に解説して下さいました。
書き出しの「おれたちは」は賢治には珍しい表現。自らも農民の一人として仲間に訴えようとしていることを示している。「ずいぶん忙しく仕事がつらい」も自ら経験したからこその実感。
賢治は理論(技術)や理念(宗教・哲学)を認めつつも、農民の直感との一致が必要としている。農業には楽しさや美しさ(芸術)も大切であるという考えから、花を植えることを奨励した。
「世界がぜんたい平和にならないうちは個人の幸福はありえない」とのフレーズは有名。
そして「個人の意識は、集団、社会、さらには宇宙と進化する」とある。賢治の作品には宇宙や銀河系という言葉がしばしば登場し、スケールが大きい。
「科学は冷たく暗い」との表現もあるが、確かに化学肥料をまくと田んぼは冷える。
「都人よ 来ってわれらに交われ」とのフレーズは正に提携を表現。有機的な世界があふれている。
結論にある「永久の未完成 これ完成である」は好きな言葉。
人生にも農業には完成はない。完成に近づくために永続的に努力する、人事を尽くすことこそ、永遠の未完成。
舘野さん自身、アイガモ農法など様々な試みをされてきたそうで、雑草防除のための水を張っての田植え、夜中の田植えなど、現在も不断のチャレンジをされているそうです。
この日は、自宅で獲れた玄米、白米、糠を見せて下さいました(ちなみに講座終了後には、原木しいたけをお土産に頂きました)。
「あすこの田はねえ(稲作挿話)」についても解説して下さいました。
個人的には大好きな詩なのですが、どうして三番除草をしないのか(→余分な窒素を雑草に吸収させるため)、なぜ枝垂れ葉をむしってとってしまうのか(→水滴が残ることでイモチが発生することを防除するため)、なぜ胸より延びたら葉尖を刈ってしまうのか(日照を確保するため)など、いずれも技術的な意味があることを初めて知りました。
後半には参加者一人ひとりから自己紹介と感想など。
千葉や神奈川など遠方から毎回参加されていた方もおられます。祖父母が花巻出身ということもあり宮沢賢治に関心があるという出版社にお勤めの女性。近く教師を定年退職したら子どもの頃からの夢だった農業を始めたいという女性。この講座が縁になって結ばれたという新婚カップルのお2人も。
最後に有志の皆さんからのお礼と記念品をお渡しし、さらに参加者のお一人は「星めぐりの歌」をチェロで演奏。
「この講座では自分が一番鍛えられ、勉強になった。宮沢賢治の研究ということではなく、農業の新しいやり方の参考としたいという気持ちで続けてきた」という舘野さん。
「100年前の賢治の主張は、これからの100年の道しるべである」と力強く主張されました。
東京でのシリーズでも講座は一段落ですが、栃木では継続され、東京でも不定期に開催するお考えもあるそうです。
ちなみのこの日の会場のすぐ近くには東京時代の賢治の下宿跡があるとのこと。本郷を中心とした賢治ゆかりの地をめぐるツアーなども、実現すれば楽しそうです。