【ブログ】欧米オーガニックマーケット スタディツアー報告会

2017年5月12日(金)夕方、東京・東銀座で「米国及び独/仏 オーガニックマーケットスタディツアー報告会」(第11回フードマーケティングセミナー)が開催されました。
 会場は50名ほどの参加者で満席です。

主催は、生産者と消費者の絆づくりを通じて安全や環境に配慮した農産物等の普及に取り組んでいる(一社)フードトラストプロジェクト

冒頭、進行役でツアーの共催者でもある(有)リボーン〈リボーン・エコツーリズム・ネットワーク〉の壱岐健一郎さんから概要の紹介。
 「本年2月12~20日にはドイツ Biofach2017&フランスオーガニック事情スタディツアー、3月8~14日にはアメリカ西海岸オーガニックライフスタイルスタディツアーを実施。少人数で、訪問先の担当者及び参加者同志で深く交流できた。
 その成果を、ツアー参加者以外の人とも共有することが今日の報告会の目的」

参加者によるレポートをまとめた詳細な報告書(100ページ近い全ページカラーの冊子)を配布して下さいました。

参加者からの報告は独/仏から。
 まず、徳江倫明さん(フードトラストプロジェクト代表)からは、日本と欧米の有機農業が始まった背景と展開について説明がありました。

「近年、フランスではネオニコチノイド系農薬の禁止など次々と革新的な政策を打ち出している。
 有機農業が始まったのは日本もヨーロッパも同じ時期(1970年代)だが、現在のマーケット規模は雲泥の差。有機農産物の流通は欧米では量販店中心に変わりつつあり、日本でもその動きは出てきている」

「世界の潮流の中では、オーガニックは環境保全や持続可能な社会への転換に向かう重要な取組みと位置づけられており、次の時代に向けての価値観(パラダイム)の転換の柱となっている」

続いて竹井淳平さん(元 寺田倉庫)から。大手商社時代には航空機や石炭・天然ガス関連を担当されていたとのこと。
 現地で撮影した多くの写真を映写しながら、以下のような説明がありました。
 「フランス・ドイツと日本では、行政、流通・小売、生産者、消費者それぞれの意識レベルに大きな乖離。認証マークも広く浸透。農業の規模の違いも圧倒的」
 「今後は、身近な人の意識から変えていくなど小さな取組みの継続が重要。日本のCSRには『罪滅ぼし』的なものもあるが、大企業の資本を活かしていくという観点も大切。また、生産者は職人ではなくビジネスマンという意識が必要」

後半のアメリカ西海岸については、まずは三浦淑江さんから “Edible School Yard(ESY)” の視察報告。
 「中学校に併設された1エーカーほど(約40a)の農地で生徒達は季節の野菜を栽培し、自作したピザ釜などキッチンで料理を作って食べるという授業を行っている。先生から指示されるわけではなく、自分達で選択・判断して作業等を分担している」
 「ESYの運営主体は中学校とは別組織のNPOで、助成金や寄付で運営している。日本でも離れすぎた『畑と食卓』を身近なものとする取組みが必要ではないか」

続いて上博英さんから。埼玉・小川町職員ですがプライベートで参加されたそうです。
 「アメリカはジャンクフードというイメージがあったが、実際に西海岸に行ってみるとオーガニック大国だったことに驚いた。スーパー等には加工品を含め圧倒的な量のオーガニック食品。
 カリフォルニア大バークレー校は1960年代の学生運動の起点ともなったこともあり、地域住民の意識は高いのでは。構内に掲げられていたフラッグに “Remember when organic food was in a special section?” と書かれていたのが印象的だった」

「小川町はサンフランシスコやバークレーと面積は変わらないが、人口には大きな差。小川町の有機農業は量販店タイプではなく、生産者の取組みに共感した消費者が買うというスタイル」

高橋優子さん(NPO生活工房つばさ・游)からは、
 「訪ねたスーパー等では半分以上がオーガニック。価格は普通のものより少し高い位。それだけ買う人がいるということ。普通の市民が簡単にオーガニック食品を手に入れることができるようになっていることに、衝撃を受けた。
 多くには LOCAL と表示されており、地産地消を目指しているのも確か」

「ただ実際に食べてみて改めて実感したのは、日本の有機野菜の美味しさ。小川町では環境と田園風景を守るための『下里里山百年ビジョン(第2期)』を策定中」

さらに、両方のツアーに参加された星野敦さん(アースキッズ(株))からは、
 「日常的にオーニックに出会える、選択できるようになっていることが日本との大きな違い。オーガニック自体が目的ではなく、生活を豊かにする手段の一つとして位置づけられている。
 日本でも各店に一つのオーガニックを置いてもらう “One Organic” といった運動から始めてはどうだろうか」等の提案。

米国のツアーに参加された吉田恭一さん(生産者、群馬)も、オーガニックの取組みの拡がりに驚かれたそうです。
 日本ではバラ売りが進まない理由として、とろけるような柔らかい野菜を美味しいと感じる日本人の味覚も一因ではないか、とも。

引き続き、ツアーに参加された方を含めて会場との間で質疑応答と意見交換。
 慣行品より少し高い価格で生産が成り立つ理由についての質問には、徳江さんから
 「欧米でも20年前には5倍位の価格差があった。ほとんどがバラ売りでロス率が少ない。日本で同じようにバラ売りしようとするとすぐに萎れてしまう。品種だけではなく気候や風土の違いもあるのでは」

高橋さんからは
 「生産者の93%は大規模で粗放的。スーパーも規模が大きく人件費等が抑えられている。ただ、米国のオーガニックを牽引しているのは残りの7%の小規模生産者」とのコメント。

独/仏ツアーへに参加されたおむすびチェーンの方は、パリでの出店に向けオーガニックの食材を探しているとのこと。

「フランスでは市民主体で生ゴミを回収するなど、フランスの環境意識の高さに驚いた」
 「見本市には食材だけではなく、多くのオーガニック化粧品や調理用具も出展されていたことが印象的だった」等のツアー参加者からのコメントと感想。

また、「日本でもオーガニック100%の給食を出している保育園等があるが、欧米では国からの厚い助成金のシステムがあるのに対し、日本では市民活動を中心とした取組みという違いがある」という指摘も。

名古屋で取り組んでおられるファーマーズマーケットの様子を紹介して下さった方もおられました。

さらに飲食関係の方からは「日本の外食は安過ぎるのではないか。人が手をかけたものには、きちんと対価が払われるべき」との意見も出されました。

最後に徳江さんから、7月29日(土)~30日(日)に東京国際フォーラムで開催される「第2回オーガニックライフスタイル EXPO」等について紹介がありました。

オーガニックや有機農業については、日本では今も「特別なもの」というイメージがあります。
 しかし独/仏やアメリカ西海岸では、オーガニックが市民社会の中で「当たり前の景色」となっているのです。その様子を伝えるツアー参加者の方達の驚きと感動が、生き生きと伝わってくる報告会でした。