(前回から引き続き)2017年7月8日(土)の午後。
東京・竹橋で開催された研究会「子どもの貧困が日本を滅ぼす」(主催:戦略経営研究会)は少々予定が伸びて17時45分頃に終了。タクシーを拾って江戸川橋のピープルズ・プラン研究所(PP研)へ。
会場のある建物の前に置かれたカートの手すりに、手書きの案内紙。
18時予定から少々遅れてスタートした脱成長ミーティング(MTG)公開研究会に、何とかギリギリ間に合いました。経済成長至上主義からの脱却を目指す公開研究会も13回目となりました。
この日は「脱貧困」がテーマです。
髙坂勝さん(オーガニックバー・たまにはTSUKIでも眺めましよ店主)の開会挨拶に続き、まず、森川文人さん(弁護士)から「貧困の現状と取組み」と題して報告がありました(以下、文責・中田)。
森川さん
「弁護士資格を取得した1991年はバブル崩壊直後で、自己破産や債務整理に関わった。 その後、ホームレス問題に取り組むようになり、1997年に新宿の段ボール村が強制排除された時の「監視弁護」や相談を受けて社会復帰を支援する活動に取り組んできた。
しかし、これら個別救済の取組は企業にとって都合の良いことで、現行の体制を補完する役割を果たしているのではという疑問もある」
「改めて確認するまでもないほど、今や貧困と格差は世界共通のテーマ。世界の富の半分は8人の大富豪に集中しているとも言われている。多くのゼネストやデモが世界中で行われている。
ところが日本で貧困について語ろうとすると『どこの国の話ですか』という反応も。貧困問題は見知らぬこと、なるべく見たくないことになっている。個人主義・利己主義が広がり連帯できなくなっている」
「しかし現実から目を背けず、自分たちは奪われているのだという共通認識の下、格差をどうやって是正していくかの戦術を話し合うべき時。資本主義という現代社会のOS(基本システム)を変えていくことが基本的な方向。
日本でも何とかゼネストができないかと考えている。草の根的に国際連帯も模索していきたい」
続く報告は、白川真澄さん(PP研)から「井出英策氏の『救済』型の再分配から『共存』型の再分配という主張について」。
白川さん
「社会保障制度に係る井出氏の提案は大きな反響を呼んでいる。そのポイントは救済型再分配(ターゲッティズム)から誰もが受益者となる共存型再分配(ユニバーサリズム)への方向転換。
経済成長を前提にしない社会経済のあり方の構想も主張している」
「問題は一律給付等に必要となる巨額の財源をどう確保するか。経済成長による税収の自然増というアベノミクス路線は幻想。井手氏は中間層が受益するようになれば租税抵抗が薄まる効果が期待できると言っているが、それだけでは不十分」
「どのような増税を選ぶ(受け入れる)のかについての合意形成が不可欠。
具体的に考えられるのは、タクス・ヘイブンを利用した多国籍企業等の租税回避行動をやめさせる、金融所得に対する累進課税の適用、大企業向けの政策減税の圧縮、富裕税の導入など資産課税の強化、世代間公平性を担保する消費税率の引き上げなど」
続いて大河彗さん(経済学・財政学)から、宮本太郎氏の主張を参照しつつ「共生保障と共生主義」と題して報告がありました。
大河さん
「宮本太郎さんが提案する『共生保障』とは、従来の社会保障が前提としてきた『支える側』と『支えられる側』の二分法から、ユニバーサル就労や共生型ケア等の新たな共生の場を構築しようとするもの。ここにも選別主義から普遍主義の流れがある。
財源確保や自治体の縦割り行政等の問題は指摘されているが、いずれにしても『脱成長』の思想はない」
「現在、欧州諸国ではポスト資本主義社会を拓くための実践理論としての “convivialisme” について盛んに議論されている。
これは『脱成長』とほぼ同義で、日本では『共生主義』とも訳されている。こうした新たな立場から社会保障のあり方を考えていく必要があるのでは」
休憩を挟んで20時頃から会場の参加者も交えた意見交換に。
まず、森川さんから
「財源の議論があったが、これ以上の増税には負担感が強い。逆進性もある。それより地球レベルでは富は潤沢にある。おそろしく偏ってしまった富をどう再分配するかが喫緊の課題」とのコメント。
これに対しては「根本的な気構えとしては重要だが、ここでは具体的な社会保障制度や財源のあり方について議論したい」との意見も。
「ラディカルとリベラル」の両方の視点が重要ではとの意見。アソシエート・デモクラシーの考えを紹介して下さった方も。
外食企業で初めて労働組合を結成し28年ぶりの賃上げを実現したという方も参加しておられました。
「過度の能力主義が現代社会をギスギスしたものにしている。本来、人間には利他的な面がある」と指摘される方も。
生活困窮者の家計相談をされているというフィナンシャルプランナーの女性からは「制度が知られておらず使われていない。分かりやすい制度の一覧のような資料を作ったらどうか」との具体的な提案。
子育てをしている一人親の女性からは「社会保障制度等について行政に提案していけるような場所がない」との意見。
弁護士の女性からは「生活保護支援は予算が限られているのが最大の問題。よりよい対応をしようとする職員が高く評価されるようになっていない」とのコメント。
ー方で「市民の主体性が重要。サービスを受けることに馴れすぎた面があるのでは」と指摘される方も。
髙坂さんは「自分も本心では今の資本主義をぶっ壊したい。しかし当面はちまちま、ゆっくりやっていくしかないのでは」との意見。
最後に白川さんからは
「現実問題として社会保障は減らせないとすれば増税は避けられない。脱成長の中でどのように社会保障と財源のあり方を考えていくか。本でも多くの事例が紹介されているが、行政だけではなくNPOやボランティアとのコラボレーションが必要ではないか」とのまとめがありました。
ここで21時半を回っており、話し足らない一部の人たちはいつもの中華料理店へ移動。
気がつくと終電間近(汗)