-垣谷美雨『農ガール、農ライフ』(2016.9、祥伝社)-
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396635060
32歳の水沢久美子は、派遣ギリに遭ったその日に、何年も同棲していた相手から突然別れを切り出されます。
絶望の底に落ち込むなか、偶然、放映されていたTVの「農業女子特集」に触発されて農業を目指すことを決意。さっそく農村部に引っ越して農業大学校に入学、仲間とともに研修を受け、充実した日々を送ります(ここまでのストーリー展開は、やや安易とも感じられました)。
ところが、いざ就農しようという段階になって、久美子の前に多くの壁が立ちはだかります(この辺りから物語は生々しいリアリティを帯びてきます)。
市主催の就農説明会に出てきた担当者はヤル気がなく(「農業をやりたいなら農家の嫁にいくのが一番」とアドバイス)、親切だった研修先の農家は肥料や農薬の量もカン頼り、農地をもてあましているはずの高齢農家からは「どこの馬の骨か分からない者に農地を貸せるか」と門前払いされます。
自分を商品(メス)としてアピールするだけの「婚活パーティー」、大家族の農家には根強い男尊女卑の考え方が根強く残っていること等も描かれます。
ようやく借りられた農地で野菜をつくっても、手間賃を賄えるだけの収入も得られません。
それでも地元の女性たちや仲間の支援もあり、幾多の試練を克服する中で、人の幸せを素直に喜ぶことができなかった久美子は、「自分の力で暮らしを切り拓いていく方が、性格的に向いているのだろう。大変だけど面白いもの。たった一度の人生なんだし」と自らを肯定するのです。
新規就農された(しようとしている)全ての「農業女子」の皆さんに、エールを送りたくなる本です。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
【出典:フード・マイレージ資料室 通信 No.129、2017年10月20日(金)[和暦 長月朔日]発行】