いよいよ 2017年も押し詰まってきました。
12月25日(月)17時から、「第170回 東北食ベる通信車座座談会+忘年会2017」が開催されました。
東日本大震災から2年後、「世なおしは、食なおし」の旗を掲げてスタートした世界初の食べ物付き情報誌「東北食べる通信」の代表・高橋博之さんを中心に、みんなで語り合う車座座談談会の2017年最終回です。
昨年に引き続き、会場は東京・神田のなみへい(料理を含めスタッフによる自主運営です)。
17時過ぎ、スタッフの四戸さんによる開会と紹介に続き、高橋さんの話が始まりました(文責・中田)。
「先日、東京で経済学部の学生相手に講演した。その時、『なぜ地方や一次産業を支援する必要があるのか。都市に集中した方が合理的で、日本の将来のためになるのでは』と質問された。悪気はなく素直な発言だった」
「私の出身地は米作地帯にある中小都市だが、その岩手・花巻でも、トラクターが道路を走ると土で汚れると100番通報される時代。生産と消費が分断され、米を育てるとはどういうことかが、多くの人には分からなくなっている」
「以前、障がい者施設での多くの方が殺傷された。生産性のみで価値を判断するという風潮が広まっているのではないか。何と発想の貧しい国民だろうかと思う」
「人は分からないことには共感できないし、参加もできない。消費者が食べものの裏側を少しでも知ることができるように、多くの消費者を生産の現場にお連れするきっかけづくりをしていきたい」
そして「早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたいならみんなで行け」という格言も紹介されました。
さらに、高橋さんから指名された方が順次、発言されます。
台湾で非営利団体の職員をされている男性からは
「高橋さんの著書を読んでビジョンや魂を共有していることに感動した。高橋さんが台湾に来られた時には通訳と運転手を買って出た。1人ひとりの思いで社会を変えていくことが重要」との発言。
『日本食べる通信リーグ』のゼネラルマネージャーをされている男性からは、
「台湾、韓国、中国、アメリカで食ベる通信の話をすると受ける。これはまずい状況。世界の各地で、都市住民は農や自然から離れてしまっている。私は状況を知ってしまったからには、どんどん伝えて変えていかなければならない」との発言。
現在「食べる通信」は全国に37誌、なかには苦戦しているものもあるそうです。
続いて高橋さんから「観客席からグラウンドに降りろ、当事者になれと言い続けてきた。突然ピッチャーマウンドは無理でも、まずはファウルゾーンに片足を置くだけでもいい」とし、当事者の一人となった八幡名子さんが紹介されました。
この日の会の主催者の1人で、食材の調達から調理まで中心となって対応された方です。
八幡さんからは
「2年ほど前に初めて高橋さんの話を聞いて強い衝撃を受けた。それまでスーパーに行っても生産者のことを意識したことはなかった。今は2誌の食べる通信の読者であり、誌面やSNSを通じて生産者と触れ合うことができて楽しい。地元の伝統野菜にも関わるなど、生活が充実してきた」等の発言がありました。
続いて指名されてマイクを取ったのは19歳の女性。
「普通高校に在学中、岩手・岩泉の中洞牧場のことを知り訪ねて行った。触発され、現在は埼玉県の農業大学校で酪農の研修中」とのこと。
ポケットマルシェにも登録されているという埼玉・坂戸市の農家の男性からは
「以前はIT関係の仕事をしていたが、5年年ほど前に就農して健康になった。現在41歳。農産物の販売だけではなく、農業体験の受け入れ等にも取り組んでいきたい」等の紹介。
続いて、高橋さんが主宰する「東北食べる学校」(全6回の講座で、うち3回は地方に行って漁師や農家の方から教わるというカリキュラムとのこと)に皆勤された若い男性に卒業証書を授与。
男性からは「行って良かった。地方は生産の現場だけではないことが分かった。その地域そのものが好きになった」等の「答辞」。
後半は懇親会(忘年会)です。
八幡さんが中心になり、ポケマル等を通じて調達して下さった食材と料理のラインナップは以下の通り。
スモークチキン(沖縄・那覇市の福幸地鶏)。
シャモロックスープ(シャモロックは青森・五戸町のグローバルフィールドの皆さん、大根とネギは福島・いわき市の白石長利さん・ファーム白石)。
マグロ皮としまんとしょうがの甘酢漬け(マグロ皮は青森県の株式会社あおもり海山、しまんとしょうがは高知・四万十町のナッツファーム)。
ポテトサラダツリー、長兵衛(里芋)蒸し、キャベツ塩昆布和えに使われた野菜も福島・いわき市のファーム白石産。
あんぽ柿クリームチーズを添えたあんぽ柿は、福島・伊達市の相原果樹園から。
スイートポテトになったシルクスイートは、高知・四万十町のナッツファームから。
スモークチキンの鶏がらスープのリゾットには、福島・相馬市の大野村農園のミルキーエッグ、岩手・岩泉町のなかほら牧場のグラスフェッドバター、福島・郡山市の株式会社美農然のお米が使われています。
美味しい料理と、差し入れのお酒など。
なお、帰り際にはお土産は、みかん(愛媛・西予市の三好農園)、きな粉と塩麹(秋田・潟上市のファームガーデンたそがれ)、黒い干し芋たまゆたか(岩手・七ツ森の五代目徳田慎太郎)など。
懇親会の間にも、参加者1人ひとりから自己紹介が続きました。
年齢もバックグラウンドも様々ですが、それぞれ、食べものや一次産業に対して熱い思いを持っている方ばかりです。新しく『食べる通信』を創刊しようとしておられる方も。
このようなイベントは比較的高齢の方が多いこともあるのですが、この日は、高校生を含め、若い世代の人たちが多く参加していることが印象に残りました。
高橋さんは次のようなことも話されていました。
「新聞社から『食べる通信』が広がっている理由について聞かれた時、キレイゴトだから、と答えた。 食べものを作っている人が食べられていない。世の中、ひっくり返っている。今の世の中、キレイゴトが大事」
「ただ、なぜ『食べる通信』のような取組が今まで無かったのか、始めてみて分かった。結構厳しい」「ここでやめたら、キレイゴトでは飯は食えないということを証明することになる。これからも仲間を増やしていきたい」との発言も。
『東北食べる通信』がブームのように広がった背景には、東日本大震災からの復興を支援しようという多くの消費者の思いがありました。
しかし高橋さんによると、いま、「復興ブームの風」は完全に止んでいるとのこと。
消費者と生産者を結び付けていく『食べる通信』の取組みは、新たなステージに入りつつあるようです。