【ほんのさわり】藤原辰史『戦争と農業』

藤原辰史『戦争と農業』(2017.10、集英社インターナショナル新書)
 http://i-shinsho.shueisha-int.co.jp/kikan/015/

著者は1976年北海道生まれの京都大・人文学研究所准教授。専門は農業技術史、食の思想史。
 気鋭の歴史研究者であると同時に、子育て世代の女性等を対象とした「食堂付属大学」の開催など市民活動にも積極的に取り組んでおられる方のようです。(藤原先生の著作は、今回、初めて読みました)。

20世紀の人口増加を支えた革新的な農業技術の集合体(トラクター、化学肥料、農薬、品種改良等)は、農業の生産性を上昇させただけではなく、これらが軍事技術に転用されること等によって、戦争のあり方を大きく変えてきたという歴史的事実が明らかにされます。
 すなわち、キャタピラを有して不整地に強いトラクターは「戦車の母」に。工業的に大量生産されるようになったアンモニアは火薬生産に活用。一方、戦争目的で開発された毒ガスは、農薬として「平和目的」に転用されたのです。

つまり、人間が生きていくためにかけがえのない農業のために発達させてきたはずの技術は、人間を大量に殺す戦争を支える技術の基盤と共通しているというのです。

また、第二次世界大戦時には「飢え」が武器として使用されたこと(ナチスの飢餓作戦、大陸封鎖等)、日本窒素肥料(後に水俣病を起こすチッソ)の朝鮮子会社が日本の大陸進出に必要な資材を供給した事実等も紹介されています。

そして、農業の生産性を向上させると同時に戦争の原因にもなった「競争の仕組み」は、現在の社会をも規定しているとします(例えば飢餓と飽食の共存、特定少数の大企業に奉仕するフードシステム等)。

しかし、歴史に学ぶ著者は決して絶望せず、食べることの原点に立ち戻るのです。
 「食べるという行為は、微生物など周囲の環境や生態系ともつながっている。自然と人間が繰り広げる壮大な劇への参加でもある」
 「それゆえに、食とは、現代社会を覆う根本的な仕組みの見直しにとってふさわしい場所」
であるとし、アイディアを協力して編み出し、小規模に実践・検証していくべきとしているのです。

具体的には、付加価値追求ではなく新しい仕組みの要として有機農業を位置づけなおすこと、伝統作物の重視など種子を選ぶこと、発酵食の見直し、食べる場所の再設定(「子ども食堂」を含む)等を提言されています。

F.M.Letter No.136、2018.1/31[和暦 師走十五日]掲載】