【ブログ】『カタツムリの知恵と脱成長』出版記念エキシビション

2018年2月24日(土)は東京・吉祥寺へ。

井の頭恩賜公園では「かいぼり」を実施中。
 池の水を一時的に抜いて水質改善や生態系回復につなげる取組みで、今回が3度目だそうです。

テントでは、パネル等とともにイノカシラフラスコモ(絶滅危惧種の水草)も展示されていました。

梅やクロッカスが咲く林の中の道を辿り、森の食卓に到着。

この日13時から開催されたのは『カタツムリの知恵と脱成長-貧しさと豊かさについての変奏曲』出版記念エキシビション
 中野佳裕先生(国際基督教大)の著書の出版を記念したもので、主催は中野先生のゼミ生有志等からなる実行委員会です。

テーブルは、本の各章ごとに関連する様々な展示。本や写真パネルのほか、彫刻や手作りのジオラマまであります。

13時過ぎに主催者代表の方による開会挨拶。
 本の内容を文字だけではなく五感で味わおうという趣旨とのことで、プログラムは盛り沢山です。

まず、中野先生による『せかいいち おおきな うち』(レオ・レオニ)の読み聞かせと解説(なお、文責は全て中田にあります)。

中野先生によると、カタツムリはヨーロッパにおいては「身の丈」「スロー」の象徴であり、この絵本は意識しないうちに殻を身の丈以上にしてしまうという人生哲学を語っているとのこと。

プログラムの間には、ダニエル・バレンボイムやエドワード・サイード、『セヴァンの地球のなおし方』等の映像が流されます。

14時からは佐藤岳晶(たけあき)さんとの対談。

佐藤さんは西洋音楽と近世邦楽を横断する音楽活動を展開されている方で、創作作品も多数。
 中野先生とワークショップや公開授業を行っておられるとのこと。

元々クラシック大好き少年だった佐藤さんは、故・鶴見和子さんの内発的発展論に触発され、ローカルな邦楽をどう世界に発信できるかということに関心を持たれたそうです。

佐藤さん
 「伝承すること自体も重要だが、アクチュアルな社会のニーズに向き合うことが必要。水俣病でも、学問(論理)だけではなく石牟礼道子さんの文学やユジン・スミスの写真集があったから広く世に知られるようになった」

「石牟礼さんの新作能『不知火』のテキストを楽曲化し、生前、先生の前で演奏する機会を頂いた。最後の節は一緒に口ずさんで下さった」

中野先生からは「伝統の再創造と再想像(イマジン)」という言葉が紹介され、感性に訴えかけることの重要性を強調されていました。

対談に引き続き、もうお一方のゲストの方の笙と佐藤さんの三味線と地唄により、『不知火』を演じて下さいました。

15時20分からの《対談②》のお相手は、助産師の清水幹子さん。

2014年、国分寺CafeSlowで開催された「矢島助産院写真展~お産でうまれるもの~」をご覧になった中野先生が、ある雑誌に寄稿されました。
 その文章を夜勤中に読んだ清水さんは、「母親・家族、ケアする助産師を平等という言葉で形容されたことは、まさに自分たちが表現したかったこと」と衝撃を受けたそうです。

中野先生からは「文明社会は人間中心だが、自然豊かな故郷(山口・室積半島)の海辺にいると自分が命の流れの中にいることを実感する」等の言葉。

清水さんからは「南インドの住民は入院することなく自然に産んでいる。これが幸せな姿ではないか。急所(後頭部)から産まれ出てくる人間の赤ちゃんは、ケアされるのが前提。どう産むのか、どこで死ぬのか等、もっと多様性があっていいのではないか」との言葉。

なお、終了後に「現に乳幼児死亡率が高い途上国が幸せなのか」と清水さんに伺ったところ、途上国に先進国の医療モデルを援助・導入しようとしても乳幼児死亡率は下がらないとのこと。

続いてスクリーンでは中野先生の故郷の方達の映像(地域に生きる人)が流され、今回、故郷から参加された方にインタビューが行われました。

2回目の読み聞かせはレオ・レオニの『スイミー』。

中野先生によると「スイミーは異分子であることの決意表明。日本は同調圧力が強い社会であり、コミュニティ作りを引っ張っていくという面での示唆も大きい」等の解説。
 「ローカリゼーションとは、主流の豊かさに対する異分子である」との言葉も。

17時からの最後の対談のお相手は、コモンズの大江正章さん。
(盛り沢山のプログラムですが、ここまで、ほぼスケジュールどおりの進行です。)

日本各地を歩いて取材されている大江さんからは、様々な興味深い話を伺うことができました。
 「近年、中山間地域で移住者が増えているが、移住者が多い地域は偏在している。中国地方が多い。また、戸主ではなく女性や若者が頑張っている地域、つまりタテ型ではなくヨコ型の地域は元気」
 「起業の中ではカフェが多い。集まる場を作ることが地域の新しい動きにつながっている」等々。

中野先生からは、職人芸の重要性についても言及がありました。
 「私の実家が和菓子屋だったこともあり、職人の技の重要性を実感。今回は初の単著でもあり、原稿の多くの部分はワープロではなく手書きだった。手間を掛けることが大切と感じている」等の発言。

そして、職人である編集者・大江さんのコモンズから出版できたことに感謝したいと、中野先生からサプライズの花束の贈呈。
 続いて中野先生にも、実行委員の皆さんから花束贈呈(今度は中野先生にとってサプライズ)。

狭いアカデミックの分野にとどまらず、感性など幅広い発展の可能性のある中野先生の著作と、それを体感できるようにと企画された教え子の皆さん達による今回の企画。

頭が固くなりつつある私には盛り沢山過ぎて、いささか消化不良気味だったこの日のイベントですが、中野先生始め、この日参加された方たちの活動に、これからも注目させて頂きたいと思います。