【ほんのさわり】早川タダノリ編著『まぼろしの「日本的家族」』

-早川タダノリ編著『まぼろしの「日本的家族」』(2018.6、青弓社)-
 https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787234377/

編著者は1974年生まれ。フィルム製版工などを経て現在は編集者。
 本書においては、近年、自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年)に代表される右派の言説において「伝統的家族像」が理想的なものとして推奨されているとし、その事例として、食育の第一人者・H氏(本書中では本名で登場)の以下のような発言(概要)が取り上げられています。

「昔、朝と晩の二回は一家団欒で食卓を囲んだものでした。みんなで食事をすることこそ家族なんです。憲法は個人だけを強調することで、家族をバラバラにして、その流れの中で食卓も崩壊しているのです」

しかしながら、日本の家庭では大正末期に卓袱台(ちゃぶだい)が普及するまでは一人ずつの箱膳が使用されていたこと、また、厳格な家族ヒエラルキーの下で食事中は会話をしないことがマナーだったとのこと等が明らかにされます。
 また、サザエさんに代表されるような食事風景が見られるようになったのは、公団住宅が普及する高度経済成長期以降とのことです。

さらに、「家族の団欒」は、明治20年代から敗戦までの間に国家によって称揚された国策であったそうです。1941年当時の国定教科書では「絵に描いたような三世代同居」の食事風景が掲載されていることも紹介されています。

本書は、これら近代から現代までの歴史的事実(家族の変遷)をたんねんに追うことにより、「日本的家族とは、幾重にも幻想が積み重ねられた観念・フィクション」に過ぎないことを証明しているのです。

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出典:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 https://archives.mag2.com/0001579997/
   No.160