【ほんのさわり】工藤 隆『大嘗祭』

-工藤 隆『大嘗祭-天皇制と日本文化の源流』 (2017.11、中公新書) -
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/11/102462.html

毎年秋に、その年に収穫された新穀を天皇が神に捧げ、自らも食し、社会の安寧と五穀豊穣を祈念する儀式が「新嘗祭」(にいなめさい)ですが、新たに即位した天皇が初めて行う新嘗祭が「大嘗祭」(だいじょうさい)です。

宮中儀礼の中でも最も重要なものとされ、今回も11月に予定されています。

大嘗祭は国事行為ではなく、皇室の行事として行われるものですが、公費の支出等については政教分離を定めた憲法の規定との関連で議論があります。

昨年11月には、秋篠宮さまが簡素化すべきとのお考えを示されたことがニュースにもなりました。

1942 年生まれの著者(大東文化大・名誉教授)は、本書において、大嘗祭の内容や歴史的な経緯等について丹念に整理しています。

大嘗祭が、天皇位継承儀礼として整備されたのは西暦600年代後半とのこと。

当時、日本は白村江の戦い(663年)に完敗すねなど、国際社会に適応する国家体制の構築が急務となっていました。そこで壬申の乱を経て即位した天武天皇(第40代、673~)は、それ以前からあった稲作儀礼を基にして、中国(唐)から輸入した形式等を加味することにより、天皇の神格化儀礼としての制度化を図ったのです。

天皇の権威の正当性と大きさを誇示するという、政治的な目的によるものでした。

その後、天皇の代替わりのたびに大嘗祭が行われることとなりましたが、実は、後土御門天皇(103代、1466~)から東山天皇(113代、1687~)までは221年間にわたり断絶していたそうです。

著者が最も注目しているのは、大嘗祭の原型となった縄文晩期・弥生時代から続く稲作儀礼です。

それは、アニミズム(自然界のあらゆるものに神の存在を感じる信仰)、シャーマニズム(アニミズムに基づく呪術体系)、神話世界性(あらゆる現象をアニミズム的な神々の作り上げた秩序の枠組みとして把握)に特徴づけられているとのこと。

これらは日本固有のものではなく、広く長江以南・東南アジア稲作文化圏に共通するもので、日本への稲作技術の伝播とともに輸入されたものと考えられるそうです。

日本文化は、これらアニミズム等を基層としつつ、特有な島国文化・ムラ社会性のなかで洗練され、21世紀の現代にまで継承・維持されてきました。

著者は日本文化には、自然が与えてくれる恩恵への感謝、節度ある欲望、寛容さ、平和志向等の特質があるとします。そしてこれら美点は、近代国家としては希有な、誇るべきものと高く評価しているのです(合理的判断を軽視しがち等の弱点も指摘しています)。

大嘗祭は、その日本文化の象徴の一つです。

果たして著者の指摘する「日本文化の美質」が現在も続いているかどうか、新しい時代を迎える前に、改めて身の回りを見直してみたいと思います。

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出所:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.165
https://archives.mag2.com/0001579997/
(過去の記事はこちらにも掲載)
http://food-mileage.jp/category/br/