【ほんのさわり】宇根 豊『日本人にとって自然とはなにか』

−宇根 豊『日本人にとって自然とはなにか』(2019.7、ちくまプリマー新書)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480683571/

著者は1950年長崎県生まれ。福岡県農業改良普及員を経て1989年に福岡・二丈町(現糸島市)で新規就農し、2001年にはNPO農と自然の研究所を設立されました。
 「百姓」であると同時に農学博士でもある著者は、人々の「自然へのまなざし」が減っていることに危機感を抱き、「自然とは何か」を正面から探究したのが本書です。

多重的な意味がある「自然」ですが、その背景には、そもそも「自然」という言葉自体、2度輸入されたものであることに関係しているそうです。
 1度目は2000年前に中国から漢字で、2度目は明治以降に西欧の「nature」の翻訳語として。そして日本人は、いずれの本来の意味とはずれた独特の解釈をしており、無力さを自覚することで自らを自然の一部と捉えているとしているのです(多くの歴史書、農書、文学作品等が参照されています)。

また著者によると、百姓という職業は自然(生きもの)に対する感性と情愛がないと成り立たないとのこと。
 例えば、ごはん一杯(米粒3〜4千粒)は稲株で3株分で、その回りには35匹のオタマジャクシがいるそうです。つまり田んぼで稲作が行われないと、タマジャクシは生きることができないのです。

「生きものたちを守ることも百姓の役割。消費者も食べることで、そのことを我が事のように感じてほしい」と著者は訴えます。
 さらには「食べることは生きものの命をもらうこと。その生きものと話をする最後のひとときである食卓で、その食べものがどういう自然のめぐみを受けて育ったのか、そういう会話をしてほしい」とも記されています。

[参考]
 NPO農と自然の研究所
 https://hb7.seikyou.ne.jp/home/N-une/

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 No.193、2020年5月23日(土)[和暦 閏卯月朔日]
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/