【ほんのさわり】山本太郎『感染症と文明−共生への道』

−山本太郎『感染症と文明−共生への道』(2011.6、岩波新書)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b226101.html

著者は1964年生まれの医師、博士(医学、国際保健学)。長崎大学熱帯医学研究所教授で、アフリカやハイチでは感染症対策の実務にも従事された方です(著名な政治家とは同姓同名の別人)。
 今回のコロナ禍の発生と対応策を予言したかのような書です。

 「豆知識」欄では第一次産業のシェアが大きい都道府県ほど感染者密度が低いというデータを紹介しましたが、本書によると、人類史における感染症は農耕の開始から始まったそうです。
 つまり、農耕による生産力の拡大が人口増加と定住(「密」)を実現し、また、野生動物の家畜化は動物に起源をもつ感染症の増加につながったとのこと。

 また、大航海時代の始まり(旧世界と新世界の接触)、奴隷貿易と植民地主義、世界大戦等は、天然痘やマラリア等の感染症の世界的な拡大につながりました。
 ちなみにペニシリンが開発された後の第二次世界大戦は、歴史上、感染症による死亡者数が銃弾による戦死者を下回った初めての戦争だったとのこと。
 さらに、開発(森林の伐採や大規模ダムの建設)が感染症を拡大させた各地の事例も紹介されています。

 また、患者が元気なほど感染機会が増大するため、ウイルスは一般的には長期的に軽症化の方向への淘汰圧を受けると考えられる一方、第一次大戦下のスペイン風邪は、第二波の方が被害をもたらしたとのこと。
 そして近年、エボラ出血熱やSARSなど新たな感染症が出現するなか、著者は、ウイルスを撲滅しようとする努力は破滅的な悲劇の幕開けを準備することになるかも知れないと危惧し、ウイルスと「共生」するという考え方が必要としています。正に時宜を得た提言です。

 もっとも、「共生」それは決して「心地よいとは言えない」妥協の産物で、完全で最終的なものにもなり得ないとのことです。
 ちなみに本書では、17世紀にロンドンでペストが大流行した時、学生だったニュートンは故郷に疎開し、その間に微積分法や万有引力の概念を発見したというエピソードも紹介されています。
 この「創造的休暇」に比べると、私の外出自粛期間は何だったんでしょうか。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
  No.194、2020年6月6日(土)[和暦 閏卯月十五日]

 (過去の記事はこちらに掲載)
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