【ほんのさわり】日本ペンクラブ編『うなぎ』

−浅田次郎選、日本ペンクラブ編『うなぎ:人情小説集』 (2016/1、ちくま文庫)
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480433336/

内海隆一郎、岡本綺堂、井伏鱒二、林芙美子、吉村昭など9人による短編小説と、斎藤茂吉の短歌選が収められています。それにしても主題であれ脇役であれ、ウナギが登場すると、かくも濃厚に人間模様(家族のぬくもり、男女の愛憎、犯罪、戦争など)が描かれるのかと驚きます。

 亡き父の単身赴任先だった松江で常連だった料理店を訪ね、好物だった「ウナギのたたき」を頂く娘、新婚旅行の時に夫が失踪した川沿いの温泉宿に毎年逗留する女性、行きずりの男と一夜を過ごした安ホテルの路地の先にはウナギを割く人の姿が。
 兄妹が営む入り口が釘付けされたウナギ料理店の謎、不義を犯した妻と相手の男を刺した過去のある突き漁師と彼を待つ女性、戦時の南方での体験からウナギが食べられなくなった自衛隊の師団長など。
 数ある魚の中でも、ウナギは特別な地位を占めているようです。

 最後に、生涯で900回蒲焼を食べたという斎藤茂吉の一首。
「もろびとのふかき心にわが食みし鰻のかずをおもふことあり」

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【出所】
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 No.197、2020年7月21日(火)[和暦 水無月朔日]

(過去の記事はこちらに掲載)
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