【ブログ】第60回 奥沢ブッククラブ「ひらけ!モトム」

2020年10月12日(火)は天候も回復し秋晴れに。気温も上昇。
 陽気にひかれるように自宅から自転車で15分ほどの北山公園へ。

 入り口には「離れて遊ぼう 2メートル」とのコロナ対策の赤い看板。
 ここには北多摩地方には珍しい水田があるのですが、すっかり稲刈りも終わり、はさに架けられた稲穂が秋の陽をいっぱいに浴びていました。

稲穂にはイナゴ、水路脇には一面のミゾソバの花。
 公園近くのカフェに初めて入りましたが、快適な空間です。(昼間から)ビールを飲みながら、今夜の読書会の課題本を改めてパラパラ。

さて、19時からは奥沢ブッククラブのオンライン読書会。
 第60回の節目であり、内容的にも画期となる会となりました。

 前半は、恒例の参加者からのおススメ本の紹介(以下、文責は全て中田にあります)。
 ロスリング『ファクトフルネス』を紹介された方は「自分がいかに本能、感情だけで生きていたかが分かった」との感想。久しぶりに新刊書(宮城谷昌光『孔丘』)を書店で買ったという方。40年前に読んだセレニイ『マリー・ベル事件-11歳の殺人犯』を紹介して下さった方。
 河邑厚徳『エンデの遺言-根源からお金を問うこと』を紹介して下さった方は、地域通貨に関心があるそうです。

私からは前日のPP研での読書会でも取り上げられた斎藤幸平編著『未来への大分岐』。
 ハート、ガブリエル、メイソンとの対談集は関心を持って下さった方も多かったようで、資本主義やベーシックインカムについてしばし話題の交換。
 関連して斎藤氏の新著『人新世の「資本論」』、白井聡『武器としての「資本論」』を紹介して下さった方も。

ダレル『虫とけものと家族たち』、バラカン『テイキング・ストック』を薦めて下さった方は、読書と音楽でいい時間を過ごせたとのこと。白洲正子『おとこ友達との会話』が紹介された時には、自分もこんな会に参加したいとの願望も。
 ほかに中野信子『空気を読む脳』、澤田瞳子『若冲』、山田豊文『脳と体が若くなる断食力』、吉川麻衣子『沖縄戦を生き抜いた人々』等が紹介されました。

後半は、この日の課題本について。奥沢ブッククラブ発、著者ご本人も参加しての対話です。

 岩下 紘己(ひろき)さんは1996年生まれ。奥沢ブッククラブの草創メンバーの一人で、今春、慶応大を卒業し立命館大大学院に進学されている方。
 慶応大で手掛けた卒業論文が、指導教官・小熊英二先生の勧めもあり、先月、単行本『ひらけ!モトム』として刊行されたのです。

 学生時代、重度身体障碍者である上田 要(モトム)さんの週1回の泊まり介助を担当。ベッド脇でモトムさんのライフストーリーを聞き取り、一冊の本にまとめられたのです。
 卒論がベースとなっているだけに、単なるルポにとどまらず、障害者やコミュニケーションをめぐる様々な社会学的な考察(既存学説の参照、引用等)もなされています。
 一方で文章は読みやすく、モトムさんの年表や多数の写真も収録されています。 

岩下さん本人からの紹介に続き、参加者が感想等をシェア。
 お互い顔見知りだけに盛り上がります。

 「岩下さんの体験を自分も追体験できたような不思議な気持ちがして、楽しかった」「座薬を入れる場面では、自分にもモトムさんの体温が伝わってくるように感じた」「自然体で書かれていて、重度障害者の方の話ながら悲壮感はなかった」「聞き手と語り手の関係について社会学的に考察した部分が興味深かった」等の感想。

 「人間は関係性が重要で、健常者、障害者といったレッテル貼りは不要であることを再確認できた」「モトムさんが闘ってきた経緯には心を打たれた。多くの方の運動の結果、ノンステップバスの導入など社会は確実に良くなっていることが分かった」等のコメントも。

 「私たちが住んでいる街の中で、若い人たちが助け合っている様子を知ることができて感動した」「今日の読書会に参加した目的は、岩下さんに感謝の言葉を伝えるため」といった言葉も。
 モニターの向こうの若い著者は、その都度、丁寧に頭を下げられ、質問には丁寧に答えておられました。

 先日、読んだ渡辺 一史『こんな夜更けにバナナかよ』 も、ユーモアに包みつつ障害のある方の闘争の記録を描いたルポでしたが(これもブッククラブで岩下さんがススメてくれた本)、本書は、より等身大に、障害者問題を身近なものとして感じることのできる好著でした。
 ぜひ、多くの方に手に取って頂きたいと思います(装丁も素敵です)。

盛り上がって時間がだいぶ過ぎてしまいましたが、これも恒例、最後のUさんによる絵本の朗読は欠かせません。

 この日、読んで下さったのはバンナーマン等『ちびくろ・さんぼ 』。
 古典的名作でありながら図書館等から撤去される動きがあることについては、Uさんは色々と思いがあるようです。
 同じストーリーで登場人物や舞台をインドに翻案した『トラのバターのパンケーキ』も紹介して下さいました。

 21時30分頃に終了。次回は11月9日(月)、課題本は谷崎潤一郎『吉野葛』に決まりました。
 残念ながら、しばらくオンライン開催が続きそうです(京都の岩下さんと話ができたのは、オンラインならではの長所でしたが)。

追記:
(1)本書で何度も引用されている岸政彦『マンゴーと手榴弾-生活史の理論-』を図書館で借りてきました。沖縄戦など個人の体験の語りを聞き取ることに関する学術書のようです。
 卒業「論文」だから当然かも知れませんが、このような文献まで参照・引用している岩下さんの本は、学術面でも質が高いことが伺えます。

(2)障害者のことはこれまで私にとって縁遠いテーマでしたが、実は近年、私の専門(?)である農業と福祉の連携(農福連携)が注目されています。今回の読書会をきっかけに、少し勉強してみようと思っています。