【ブログ】第4回 経済・社会・財政を読む会(PP研)

台風14号は、秋雨前線と相まって紀伊半島や伊豆諸島、東京地方にも大雨をもたらした後、今までなかったように大きく南へ変針。気候メカニズムが変化しつつあるのかも知れません。
 2020年10月11日(日)は雨は上がりましたが、台風一過の青空とはいきませんでした。

久しぶりに、JR高田馬場駅からから江戸川橋へ。
 神田川沿いに沿った快適な遊歩道。面影橋は、在原業平や太田道灌の伝説ともかかわりがあります。

久々で時間の感覚がずれていたのか、PP研には定刻13時30分に数分遅れて到着。

 ピープルズ・プラン研究所(PP研)は、20世紀の世界がゆきついた「持続不可能」な状況へのオルタナテイブを探求するための研究、普及、ネットワーク活動を進めるオープンなグループ。
 年数回開催されている脱成長ミーティングには私も何度か参加していますが、今年はコロナの影響で、ミーティング本体は1月の会(石井一也先生「ガンディー思想と現代」)以来、開催されていません。

この日開催されたのは、経済・財政・金融を読む会。4回目とのことですが、私は初めての参加です。

感染対策のために会場参加は10名に限定。別にオンラインで15名ほどが参加されています。
 会場は席を離して配置され、机上には除菌スプレーも。

 今回のテクストは、斎藤幸平編『未来への大分岐』(2019.8、文春新書)。私も以前に拙メルマガで紹介した興味深い本です。
 この日は、このなかでマイケル・ハート(政治哲学者)とポール・メイソン(ジャーナリスト)との対談部分について、お2人の担当の方からゼミ形式で説明がありました。
 なお、詳細なレジュメは事前にメールで配布されています。

 第1部(マイケル・ハート)の担当は、定年退職後に研究を再開されたという砂押克至さん。オンラインでのご参加です(以下、文責は中田にあります)。

 「この対談の話題は多方面に及び、粗削りなまま終わった印象はあるが、〈コモン〉という概念を手掛かりにポスト資本主義への移行の可能性を見出そうとしている」

 「〈コモン〉とは、民主的に共有されて管理される社会的な富のこと。空気や水、大地など自然の恵みだけではなく、知識や言語、情報などの社会的生産物も含まれ、こちらの方がより重要。
 エコロジー的な枠組みと社会経済的枠組みの両方における維持と生産、分配という問題がますます重要に」

 砂押さんの説明とレジュメは、マイケル・ハートの他の著作等も参照・引用されるという充実した内容です。

 「情報テクノロジーによる知の新しい固定資本(アルゴリズム等)の管理権を、自分たちの〈コモン〉とすべくGAFAと闘わなくてはならない」

 「ベーシックインカムについては、ハートは具体的な改善につながるツールとして期待しているが、斎藤は貨幣ではない『ユニバーサル・ベーシック・サービス』(教育、医療、電気や水へのアクセス)の導入を目指すべきとしている」

 ベーシックインカムについては、他の論者による見解や世界での導入の動向等についても、補足して詳しく説明して下さいました。

会場及びオンラインの参加者との間での意見交換。
 「日本ではドイツのような市民運動が低調。社会の同調圧力が強いせいではないか」との意見には、「浜松での水道民営化運動など成果を出している事例もある」等のコメント。
 「スペインにおける市民と自治体が協働している事例が注目される」
 「脱成長論については本対談では両者とも否定的だが、斎藤の新著ではかなり強調されいる」など、活発な意見・情報交換が行われました。

後半の第3部(ポール・メイソン)の担当は、高校教師の長澤淑夫さん。
 「情報技術の進展が限界費用ゼロ社会を実現させ、利潤の源泉がなくなることが資本主義の限界につながるとの論点には疑問もある。現実にIT大企業はOSを独占すること等で莫大な利潤をあげている」

 「いくら情報技術やオートメーションが進展し、資本の支配が強化されても、ブルシット・ジョブばかりになる訳ではない。エッセンシャルワークや農業は存続する。
 また、政府の債務は不良債権を意味しない」

 「グリーンニューディールを社会運動と接合させ定常的経済を目指すべきとの論点は、広井良典や宇沢弘文の議論とつながるのでは」など、ご自身の見解も含めて説明がありました。

会場及びオンラインの参加者からは
 「情報化社会が格差を拡げるのでは」「いずれにしても単純化せずに、社会を重層的にとらえるべき」「〈コモン〉を企業が独占するのは問題だが、種苗の育成権など保護されるべき権利を保護することとのバランスが重要」等の意見。
 小学生の子どもがいるという女性もオンラインで参加されており、学校現場での情報機器導入の是非や効果等についても話題になりました。

 定刻の17時過ぎに終了。
 次回は明年1月頃に開催することなりました。テキストにふさわしい文献も色々とあるようです。興味深いシンポジウムのチラシも頂きました。

 面白くても、なかなか一人で読むたけでは理解が十分に進まない本もあります。
今回、ゼミ形式で詳細な説明して下さったおかげで、少しは理解が深まったと思われます。貴重な機会を有難うございました。

 (なお、本読書会での説明や議論は幅広く、ここで紹介できたのはほんの一部であり、さらに、筆者の誤解や理解不十分な部分もあると思われます。文責はすべて中田にあることを改めてお断りしておきます。)