【ブログ】石井一也先生「ガンディー思想と現代」(脱成長MTG)

2020(令和二)年の正月。
 米・イラン対立など不穏な世の中で、個人的には家族揃って穏やかな正月休み。いつものようにお節と雑煮、近所の神社への初詣など。

長かった正月休みの最終日(2020年1月5日(日))は、気温は低めながら穏やかな1 日。
 高田馬場から神田川沿いを歩いて、東京・江戸川橋のピープルズ・プラン研究所(PP研)に向いました。

 この日14時から開催されたのは、脱成長ミーティング(MTG)の第20 回公開研究会
 テーマは、香川大学の石井一也先生による「ガンディーの新しい構想と現代:自立共生への道」です。

冒頭、共同代表の高坂勝氏(SOSA Project)からの開会挨拶。

 「アメリカがイランの司令官を殺害した事件は世界に衝撃を与え、各国のツイッター では第一位の話題に。ところが日本のトップは芸能ネタ。日本人の世界情勢への感度の低さを憂えざるを得ない。
 一方、日経新聞が『逆境の資本主義』という特集記事を連載するなど、社会の潮目は変わってきていると感じる」とし、講師の石井先生を紹介されました。

 石井先生は詳しいスライドを用いて報告。同じ内容の資料も配付して下さっています。

(以下は石井先生の報告の一部で、文責は中田にあります。)

 「大学院生の時、自由貿易とは異なるテーマで修士論文を書きたいと先生に相談した時、ガンディーを勧められた時には、半ば冗談かと思った。ところが読み始めてみると、心の中で求めていた言説が次々と見つかった。
 それから31年、ガンディーの勉強 を続けている」

 「なお、日本では『ガンジー』との表記が一般的だが、“Gandhi” なのでガンディー(またはガーンディー)が正しい。
 ガンディーが生きた1869年から1948年は、日本では明治2年から昭和23年で、日本が近代化し、敗戦により挫折した期間に当たる」

「ガンディーの経済思想の軸には、自立共生(コンヴィヴィアリティ)という概念がある。
 これは生産性とは正反対の価値で、自立的でありながら他者を尊重し助け合うという倫理」

 「『地球大のコンヴィヴィアリティ」(現在、地球に生きている他者との関係性)の可能性だけではなく、『将来世代とのコンヴィヴィアリティ』という考え方も可能ではないか。将来世代とも資源を分かち合って生きてゆくことが求められる」

 「ガンディーは、経済学の基礎となっている人間の利己主義は克服されるべきものであるとし、一国が他国を支配することを許すような経済学は非道徳であると断じている」

「また、イギリス工業を中心とした当時の近代文明を激しく批判した。
 機械は大きな『罪』であるとしてインドの工業化に反対し、手紡ぎ・手織りなど村落工業の重要性を主張した。
 チャルカー(手紡ぎ車)を回すガンディーの肖像画は、これからの経済のあり方を考える上で最も印象的な姿」

 「チャルカー運動とは、 カーディー(手織綿布)の工程を全て手作業とすることで労働機会を分配し、貧者救済を目指したもの。機械に比べると生産性は低いが、それだけ多くの人が扉用されることとなる(労働集約度は63倍と試算)。
 同胞である紡ぎエの生業を助けることは『恵み』と考えていた」

「ガンディーが理想とした政治は、基本単位を村落に置き(権力を分散化)、その連合体によって運営されるというもの。
 人間の身の丈に合った協同組合社会を構想しており、軍隊は保有すること自体想定されていない」

 「お互いに敬愛し合っていた詩人・タゴールとは、時に激しく論争し た。
 アマルティ・センはタゴールのチャルカー批判を支持しているが、センらが主張するような全世界的な人間開発と経済成長による繁栄は、地球の資源と環境の制約の前に事実上実現不可能となっている」

 「ガンディーの思想は、生態系の枠内において資源節約的な技術により簡素な社会を目指すもの。
 サティシュ・クマール(イギリス)、ヴァンダナ・シヴァ(インド)、A.K.アリアラトネ(スリランカ)、スラック・シワラック(タイ)など、現代まで受け継がれている」

「私もベランダでコットンを栽培している。最初に芽が出てきた時には感動した。今日は持ってこなかったがチャルカーを使って糸紡ぎもしている」

 「現在、『グローバル化』の名のもとで枯渇性資源を激しく奪い合うのか、それとも将来世代のことをも考えてより簡素な生活に満足を見出すかの選択を求められている。
 人間の身の丈の経済へと大きく旋回する以外に『近代』の矛盾を打開する道はない。簡単ではないが、みんなで考えていきたい」

 「最後に、今日、一番伝えたかったガンディーの言葉を。
 『地球は全ての人々の必要を満 たすのに十分なものを提供するが、全ての人の食欲を満たすほどのものは提供しない』」

15分ほどの休憩を挟んで、会場との質疑応答・意見交換。

  「当時のインドの経済情勢を踏まえたガンディー思想を、そのまま現代に当てはめることができるか」との質問には、
 「色んなところで応用できる。例えば e-mail など技術水準を下げると人が働く場所は増えるなど、労働生産性について考える材料を与えてくれる」

 「現実には自分も資本主義にどっぷりと浸かっているが、少しずつでも生活を変え ていくことが必要では。グレタさんが象徴的だが、個人の行動が社会を変えていく時代になっている。実践している人の姿には頭が下がる」等の回答。

 「ガンディーの言葉に “Be the Change You Want to See in the World”(あなたが見たい変化にあなたがなりなさい)、『良い ことはカタツムリのように進む』というものがある。
 一人ひとりが、ゆっくりとでも立ち向かっていくことが必要」

「最近の文部科学大臣の発言もあり『身の丈』という言葉には批判的。また、労働分配を行えば賃金は下がるのではないか」との発言には、

 石井先生
 「決して『上から目線』の言葉ではなく、人間の身の丈を超えた生産・消費は持続可能ではないという意味で使っている。
 また、手紡ぎは資本のためのワークシェアリングとは異なる。ガンディー研究家の片山佳代子さん(岡山)という方が実践されているとおり、糸を紡いで布を織るのは経済活動ではなく、身近な人に心のこもったものを渡すという意味もある」

 会場からは「手紡ぎの方が品質は良い。素晴らしいメーカーもある」との発言も。

 脱成長MTGの共同代表でもある白川真澄さん(PP研)からは、
 「ガンディー思想は、現代の先進国にこそ受け入れられやすくなっているのでは」とのコメント。

 また、今回初めてという若い方達も多く参加されており、髙坂さんに促がされて自己紹介。脱サラして農業や住宅リフォームに取り組んでおられるという方も。

最後に石井先生からは
 「99%の人は1%の人に協力しているのが現実。無くても生活できるものまで生産・消費していることに気付けば、できる範囲で生活を見直していける可能性は十分にある」との発言。

 そして、ガンディーの “Be the Change You Want to See in the World”(あなたが見たい変化にあなたがなりなさい)、「良い ことはカタツムリのように進む」という言葉を紹介されつつ、
 「一人ひとりが、ゆっくりとでも立ち向かっていくことが必要。一緒に考えてほしい」と訴えられました。

 その後は、いつもの中華料理屋さんで意見交換の続き(懇親会)。

 石井先生に、ご著書『身の丈の経済論』にサインを頂きました。
 「一緒に歩いてゆきましょう」
 年初から、いい言葉を頂きました。身の引き締まる思いです(長い正月休みで体重は増えましたが)。