【オーシャン・カレント No.222】故・杉本苑子さんの1964東京五輪開会式

作家の故・杉本苑子さんは、1964年の東京五輪開会式に参加して次のような文を残しておられます(抄録)。

「二十年前のやはり十月、同じ競技場に私はいた。女子学生のひとりであった。出征してゆく学徒兵たちを秋雨のグラウンドに立って見送ったのである。
 私たちは泣きながら、征く人々の行進に添って走った。髪もからだもぬれていたが、寒さは感じなかった。おさない、純な感動に燃えきっていたのである」

「オリンピックの開会式の興奮に埋まりながら、出陣学徒壮行会の日の記憶が、いやおうなくよみがえってくるのを、私は押えることができなかった。
 同じ若人の祭典、同じ君が代、同じ日の丸でいながら、何という意味の違いであろうか。」

「祝福にみち、光と色彩に飾られたきょうのオリンピックはあの日につながり、あの日もきょうにつながっている。私にはそれがおそろしい。
 私たちにあるのは、きょうをきょうの美しさのまま、なんとしてもあすへつなげなければならないとする祈りだけだ」

私たちは今回の五輪を、どのように未来へつないでいくのでしょうか。

[資料]
 杉本苑子「あすへの祈念」『東京オリンピック−文学者の見た世紀の祭典』(2014、講談社文芸文庫)所収
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000211178

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.222、2021年7月24日(土)[和暦 水無月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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