【メルマガ】F.M.Letter No.223

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.223◇
 2021年8月8日(日)[和暦 文月朔日]
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◆ F.M.豆知識  人口、農業生産における東京都のシェア
◆ O.カレント  700万トンを割り込む米生産量
◆ ほんのさわり 小田 実『HIROSHIMA』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 立秋も過ぎ、東京五輪は今日で閉幕。アスリート達にもらった多くの感動も、感染急拡大の中で早くも色褪せつつあるように思われます。
 今号では国別対抗戦である五輪を観戦しながら、日本の国のことについて、ささやかに考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−人口、農業生産における東京都のシェア−

この国の最大の問題は、バランスを欠いていること−すなわち、東京一極集中ではないでしょうか。
 わずか0.6%の面積しかない東京都に、人口の11%、経済活動(GDP)の20%が集中しており、遠隔地から輸送されてきた大量の食料、工業製品、エネルギー等が消費されています。

 リンク先の図223は、人口と農業生産について、全国に占める東京都のシェアの推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/08/223_Tokyo.pdf

全人口に占める東京都のシェアは、1970年代から90年代にかけて10%を下回るまで緩やかに低下しました。経済が高度成長を続ける中で、人口の地方分散が進みかけていたのです。
 ところが2000年代に入り、再び東京都への人口集中が進んでいます。

これに対して、全国の農業生産額(統計用語では「産出額」)に占める東京都のシェアは、1960年代でも1%程度に過ぎず、近年は0.3%を下回る水準に低下しています。野菜については比較的高いものの、それでも0.6%弱にすぎません。
 このため、東京都のカロリーベースの食料自給率は、1%程度という極めて低い水準となっています。

むろん、人口の多い都市部において食料を100%自給する必要はありませんし、人口や経済が集中することのメリットもあります。
 しかしそれでも、あまりにも私たちの国のカタチは、バランスを欠いていると言わざるを得ないのではないでしょうか。「国土の均衡ある発展」という言葉は、あたかも死語となりつつあるようです。

私たちの社会がウィズコロナという新たなステージに移行する(強制的に移行させられる)なか、私たちはどのような国のカタチを目指すのでしょうか。、

[資料]
 総務省「人口推計」(各年10月1日現在)
 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html#annual
 農林水産省「生産農業所得統計」
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−700万トンを割り込む米生産量−

図の出典:農林水産省「米をめぐる関係資料」(2020.7) p.5
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/attach/pdf/kome_siryou-480.pdf

農林水産省によると、本年の全国の主食用米の作付面積は、前年に比べて約6.2〜6.5万haの減少が見込まれているとのこと。
 これは前年の作付面積の5%程度に当たり、仮に今年の米生産が平年並みの作柄となれば、主食用米の生産量は700万トンを下回るものと見通されています。

日本の米の生産量は、1880年代には500万トン前後でしたが明治末ごろには700万トンを超え、1970年前後には1,400万トン近くにまで増加しました。
 その後は需要の停滞もあって過剰傾向を強め、行政主導による「減反政策」が進められたこともあり、生産量は一貫して減少傾向で推移してきています。
 現在、米の生産は産地・生産者の主体的取組みによっていますが、ついに明治末以来の700万トンを下回る水準となる見通しとなったのです。

「日本は瑞穂の国」という言葉は、個人的には米偏重のニュアンスがあってあまり好きではありませんが、この言葉も過去のものとなりつつあるのかも知れません。

[資料]
 農林水産省プレスリリース「令和3年産米等の作付意向について(第3回中間的取組状況)」(2021.7/29)
 https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/s_taisaku/210729.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−小田 実『HIROSHIMA』 (1997.7、講談社文芸文庫) −
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000168379

平和の祭典・五輪開催期間中である2021年8月6日、広島では76回目の「原爆の日」を迎えました(長崎は9日)。
 「日本は唯一の被爆国」というフレーズを私があまり好きではないのは、「日本人が唯一の被爆者」であるかのような誤解を呼ぶ恐れがあると思うからです。

そのことを教えてくれたのが、小田実の長編小説『HIROSHIMA』です。
 小田実 (おだ・まこと) は1932年大阪生まれの作家、運動家。10代で大阪空襲を、60代で阪神・淡路大震災を体験しました。

この小説の登場人物は、国籍も人種も、それまでの人生のありようも全く異なっています。
 撃墜され捕虜となったアメリカ原住民出身の爆撃機搭乗員、朝鮮半島出身者、南方からの留学生、恋人の子を身ごもっている日本人など。
 彼女・彼たちに唯一共通するのは、1945年8月6日朝に広島にいて被爆したとことです。亡者のような姿となったアメリカ人捕虜は、同じく亡者となった日本人達により虐殺されるという凄惨な場面も描かれています。
 国家が起こした戦争に巻き込まれた市民達は、加害者も被害者も、差別者も被差別者もなく、等しく「難死」を強いられたのです。

この小説には、絶対平和主義(「殺すな」)と市民主義(「われ=われ」)という小田の思想が濃厚に表れています。
 なお、近年、スペイン・バルセロナ市や韓国ソウル市における市民自治が注目されていますが、2007年に逝去した小田の思想は、その先鞭をつけたものと評価されると思われます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
  今回はお休みです(サボりました〜)。

▼ 筆者が進行役を務める食農市民談話会(全6回)の第3回です。参加者募集中です。
 ○ 第3回 食と農の市民談話会
 日時:8月10日(火)19:00 〜21:00
 話題提供:榊田みどりさん(農業ジャーナリスト)
 『現場から見える日本の食、農の課題』(仮題)
 場所:オンライン
 主催:NPO 市民科学研究室
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/agrifoodmeetings/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第70回
  金子文子『何が私をこうさせたか−獄中手記』
 日時:8月9日(月・休)19:00〜21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/351769499776540/

○ オンライン座談会「日本の食料自給」
 日時:8月24日(火)19:30〜21:00
 場所:オンライン
 主催:(一社) 縮小社会研究会
 (詳細、問合せ等↓)
 http://shukusho.org/data/net-seminar/matsuhisa(2021.8.24).pdf

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「体操競技って、うちの生徒たちの成績みたい」
「えっ、どういうこと?」
「平均もあれば、段違いもあるもの」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.224は8月22日(日)[和暦 文月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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