【ブログ】第60回 縮小社会研究会(フード・マイレージについて)

縮小社会研究会は、社会の「持続的発展」から「縮小社会」への道筋を広範囲に考えようという一般社団法人です(本部は京都市)。
 2022年1月17日(月)19時30分から、その第60回研究会でフード・マイレージについて話題提供させて頂きました。

19時30分からオンラインで開催された研究会には、約30名が参加して下さいました。

私からはパワーポイントを用いて説明(資料はこちら)。まずは自己紹介から。
 農林水産省の農林水産政策研究所で篠原 孝所長(当時)の指導を得てフード・マイレージの研究に従事した経緯、現在は個人としてライフワークとして取り組んでいることなど。
 ちなみに、この日の意見等は全て個人のものであることをお断り。
(画像はクリックすれば大きくなります。さらに大きな画像は資料をご覧ください。)

フード・マイレージとは、イギリスの Food Miles 運動(なるべく近くで取れたものを食べることによって輸送に伴う環境負荷を削減していこうという市民運動)を参考にしたもの。まずは輸入食料のフード・マイレージを計測することに。
 計測方法の概要についても説明。

計測の結果、2001年の日本の輸入食料のフード・マイレージは約5000億t・km(トン・キロメートル)と、主要先進国の中で突出。1人当たりでも最大。飼料穀物や油脂原料のウェイトが大きいこと、輸入相手国が特定の国に偏重していることが日本の特色。

 なお、日本の輸入食料のフード・マイレージは近年、やや縮小しているものの、これは食料の国際価格の高騰により輸入量が減少したため(輸入額ベースでは増加しており、平均輸送距離も長くなっている)。

フード・マイレージを輸入量と平均輸送距離に分割してみると、日本は、諸外国に比べて遠隔宝輸入していることが特徴。

時系列で見ると、輸入食料のフード・マイレージ(主要4品目)は増大傾向で推移。

輸入食料の輸送(輸出国の産地~日本の輸入港まで)に伴う二酸化炭素排出量をフード・マイレージから試算すると、約1700万トンとなる。これは国内における食料輸送に伴う二酸化炭素排出量の約2倍。

さらに1世帯当たりでみると、冷暖房の温度管理(12倍)やテレビを見る時間を減らす(27倍)こと等に比べると、かなりの量に相当。

フード・マイレージを用いれば、地産地消による輸送に伴う二酸化炭素削減効果を簡単に試算することが可能として、加賀野菜等を用いた献立についてのケーススタディについて紹介。
 食材の輸送に伴う二酸化炭素排出量は、地元産の食材を用いた場合に比べて、市場で国産品を選んだ場合は14倍、輸入品も含めて選んだ場合は44倍になると試算される。

しかしながら、フード・マイレージという指標には、輸送機関によって二酸化炭素排出量が大きく異なること、そもそも輸送面だけに着目した指標であるという限界についても説明。

一方、ご飯や野菜をしっかり食べて脂質を減らし、地産地消や旬産旬消に心がけることで、自らも健康になり、食料自給率は向上し、フード・マイレージ(地球館気宇への負荷)も削減できることを紹介。つまり、自らの身近な食生活が、実は地球環境とも関わっていることに「気づく」ためのツールとしての有用性は大きいと説明。

その前提として、米の消費量が半減する一方で畜産物や油脂の消費量は3~4倍に増加した結果、栄養バランスが崩れ、男性の肥満者の割合が大きく増加している状況を紹介。

さらに、この食生活の変化が食料自給率が低下した要因となっていることことも説明。

最後に、最近のトピックスとして2点。
 ひとつはコロナ禍もあって国際物流のリスクが大きくなっていること。そのなかで経済安全保障やサプライチェーンの確保が内閣としての重要な政策課題となっています。

もうひとつは、天候不順、バイオ燃料の需要増、コロナ禍等により、近年の世界の食料価格が高騰していること。そのなかでわが国では自給率が低下を続け、貿易収支も赤字基調になっていることを説明した上、食料供給のあり方について考え直すことが、私たち(消費者)自身の課題として求められていると訴えさせて頂きました。

その一方で、日本は気温、降水量、国土の南北の長さ(多様性)の面からみると豊かな「風土資源」を有していることも紹介。国内の農業の可能性、ポテンシャルをお示ししたつもりです。

最後にはお礼とともに、個人のウエブサイトを紹介。地元の英雄・故 志村けんさんにも特別出演して頂きました。
 「日本の食べもの、大丈夫だあ~(かな~?)」

説明は1時間弱で終了。意見交換の時間を長く取るために、もう少し簡潔に説明できればよかったと反省。

後半は参加者の皆さんからの質問と意見交換。
 主な質問・ご意見と、私からの(個人としての)回答は以下のようなものでした。

Q「輸出はフード・マイレージの観点からは問題があるのでは」
A「確かにそのとおりだが、日本の場合、輸出入のバランスが極端に悪い(輸入に偏り)。また、国内の需要増が見込めないことから輸出も必要では」

Q「放牧等により飼料を自給することが重要ではないか」
A「消費者が安価な畜産物を求めるために輸入食料に依存した工業的畜産が主流となっている。放牧等に取り組んでいる生産者もおられ、少々高価であっても私たちが選ぶことが必要」

Q「米をたくさん食べていた1960年頃の食生活が理想的だったのか」
A「当時は炭水化物に偏り、脂質が足らなかった。1980年代頃が理想的。現在は脂質が過多となっている」

Q「畜産物が大きく増加しているが、その内訳は」
A「食料需給表によると肉類が23%、鶏卵が12%、牛乳・乳製品が65%(2019年)」

Q「日本は農家に対する助成水準が低い。手厚い保護が必要では」
A「EUでは直接支払い施策が充実。かつての日本は価格支持中心だったが、近年は直接支払いが充実してはきているがEUに比べれば不十分という見方も」

Q「食料は戦略物資であり、自給が必要では」
A「戦略物資であることは間違いない。かつてのソ連のアフガン侵攻時にはアメリカは報復として対ソ連農産物輸出を規制。ところが一昨年は、ロシアは逆に農産物を輸入しないことでEUに報復。単純に判断できない」

いずれにしても、貴重な機会を頂きました。縮小社会研究会の松久 寛代表、参加して下さった皆様に感謝します。
 時間の関係から、十分な意見交換ができなかったのは残念です。オンラインの限界も感じました。
 さらに質問やご意見などがあれば、拙ウエブサイトの「お問合せ」フォームからお送り頂ければ幸甚です。引き続き意見交換などを続けていければと考えています。

(1月20日 追記)
 その後、ウエブサイトあるいは縮小研のメーリングリスト等を通じて様々な感想や意見を頂いています。有難うございます。引き続きよろしくお願いします。