−山本有三『米百俵』(2001.1、新潮文庫)−
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784101060118
新潟・長岡市に伝わる逸話をもとに、1943年に山本有三が戯曲化し出版したもの。
戊辰戦争において長岡藩は、家老・河井継之助の主導の下、新政府軍に徹底的に抗戦し破れました(司馬遼太郎の小説『峠』でも有名です)。
焦土と化し、禄高も三分の一に削られた長岡の再建を託されたのが、恭順派として斥けられていた小林虎三郎でした(ちなみに『武士の娘』の杉本鉞子の父・稲垣茂光家老も、河井と対立して地位を追われた側でした)。
そのような時、日々の食事にも事欠く窮状を見かねた支藩から、見舞いの百俵の米が届きました。これを藩士に配分せず学校を建てる原資に充てようとする小林の自宅に、ある夜、藩士たちが押しかけ、抜刀して方針転換を迫りました。これに対して小林は「百俵の米も食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」と諭します。
現在も多くの著名人等が好んで引き合いに出す「米百俵の精神」です。
ちなみに山本は同年のラジオでの講演(本書に併載)で、長岡出身の山本五十六にも言及しつつ、「国民の一部は米が足りないなどと言っているが、我慢ができないことではない。日本はこの戦争に勝って大東亜の指導者になるのだから、次の時代を背負って立つ立派な小国民の養成に尽力すべき」と述べていることには、時代性を感じざるを得ません。
なお、本書を読んで個人的に最も印象に残ったのは、当時の百俵の米は学校づくりの原資になるほど価値があったということです。ちなみに2021年12月の米1俵(60kg)の値段は生産者段階で約1万3千円(3年産米相対価格平均)、消費者段階で約2万6千円(小売物価統計)。130〜260万円では、とても学校は建てられません。
出所:
F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
No.235、2022年2月1日(火)[和暦 睦月朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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