2022年6月4日(土)から19日(日)の間、地元・東村山市の北山公園では菖蒲祭りが開催されました。
新型コロナウイルス感染の関係で3年ぶりの開催。
約600種8000株というハナショウブは変わらずに見事、飲食店など屋台は出ていますが、コロナ前に行われていたお囃子の舞台などは今年も実施されませんでした。
6月17日(金)の19時30分からは、小農学会事務局から声を掛けて頂き、オンライン定期セミナーで「フード・マイレージ最前線」と題して話題提供させて頂きました。
参加者は15名ほどと比較的少人数。事務局の方によると、この時期、九州は田植え時期に当たっているそうです。
スライドを共有して、40分ほど時間を頂いて説明(資料の全体版はこちら)。
表紙左上では、ウクライナの戦火が止むことを祈っていることを表明。また、意見等は全て中田個人のものであることもお断りさせて頂きました。
自己紹介では、2003年から3年間、熊本(九州農政局)に在勤・在住した際には、小農学会のメンバーの多くの方たちにお世話になったことを改めて御礼。
小農学会の副会長・山下惣一さんとの共著を出させて頂いたことも紹介させて頂きました(名誉なことです)。
前半では、フード・マイレージの概要、輸入食料のフード・マイレージの計測方法と計測結果(世界一は中国であることも)等を説明。
輸入食料の大量・長距離輸送の過程で相当量のCO2を排出しており、地球環境に荷を与えていること等も。
フード・マイレージは、地産地消の効果(食料輸送に伴うCO2排出量の削減)を簡単に測定できることを説明。
以前に熊本市で行われた生協主催のセミナーの際の資料(地産地消弁当)を基に、説明させて頂きました(この時にも関係者の方たちには大変お世話になりました)。
一方で、フード・マイレージには限界があることに留意が必要であること。
それでも、日々の食生活が地球環境問題と関わっていることに気づくヒントになること、生産者や産地のことを想像するよすがとなること等のメリットを説明。
関連して、イギリスの医学誌『ランセット』が提唱している「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」についても紹介しました。
後半では、まず、フード・マイレージの政策上の扱いについて説明。
環境政策との関連では「慎重に取り扱うべき」と整理されており、基本計画等でも言及はないこと。
一方で、食育やライフスタイル関係では、食育白書や環境白書を含めて引用・活用されており、さらに民間団体や企業のホームページ等でも広く引用されていることも説明。
私自身も、最近NHKなどから取材を受けていることを紹介させて頂きました。
さらには「フード・マイレージ最前線」について。
パンデミックやウクライナ情勢により、国際物流が抱えるリスクが高まるとともに、世界的に食料やエネルギー価格が高騰するなか、食料安全保障に対する関心が高まっており、フード・マイレージについても改めて注目する動きがあること等を説明。
また、最近の食料・農業をめぐるトピックスとして、輸入小麦の価格が高騰するなかで国内の米価は低下傾向で推移(ただし5月のスポット価格は上昇)しており、その背景には古米の在庫があること。
ただし、国内備蓄を含めても輸入小麦の量を賄える水準には無いことを説明。
また、より安価なドラッグストアやディスカウントストアで米を購入する消費者が増えていること。
そのようななか、農業生産に必要な資材(エネルギー、肥料、農薬等)の価格が上昇していること。
「小農」学会を意識して、米生産のスケールメリット(規模の経済)についても説明。
規模の大きな農家ほど生産コストは低くなっているものの、エネルギーや雇用労働力など外部資源に依存する割合は相対的に高く、かえって小農の方が外部からの危機に際しては強靭(安定的)である可能性があること等を示唆させて頂きました。
また、最後の図表として、横軸に世界(及び各国の)人口、縦軸に穀物自給率をとったグラフを紹介。
人口1億人以上の国の中で日本の穀物自給率の低さは際立っていること。
また、日本の主食用穀物の自給率を、ウクライナ情勢により食料危機が危惧されているエジプトと比べても、特に高い訳ではない(米が自給できているからと言って、安心し切れる水準では無い)ことを説明させて頂きました。
最後に、私自身のテーマ(取組みの課題)を表明。
一つは食と農の距離を縮めること(市民研「食と農の市民談話会」を紹介させて頂きました)。
もう一つは見地を訪ねること(自分の目で見て、その地の空気を吸い、地元の方にお話を伺うこと)であるとし、本年3月に熊本・山都町を訪ねた時のことを、お礼を含めて紹介させて頂きました。
散漫で長々とした拙い話題提供でしたが、参加者の皆さまからは、有意義なご意見やアドバイスを頂くことができました。
フード・マイレージは食生活と地球環境問題との関りに気づくヒントになること、想像力の大切さを理解できたとの感想。
ドラッグストアやディスカウントストアで米を購入する消費者が増えていることについても話題となりました。
ふるい目が大きくなっているため、それほど品質は悪くないこと、規格外とされる青米が低カロリー米として高く販売されている等の情報。
瓶の回収等に取り組んでおられる女性からは
「国税庁データによると、お酒もホームセンターやドラッグストアで購入する消費者が多い。より安いものをという消費者行動は、他の分野でもみられる」との情報提供。
また、「米は安いから食えと言う論調があるが、間違っていると思う。健康面などを強調すべきでは」との意見も。
Yさん(福岡県の生産者の方)からは
「百姓からすれば、このような状況のなかで何をすればいいのか分からない。コロナ禍やウクライナも、これまでの経験からは、のど元過ぎればまた忘れられるのでは」とのコメント。
これに対しては、「私はYさんから直接お米を買っているから、安心感がある」という女性からの発言もありました。
小農学会副会長の徳野貞夫先生(熊本大学名誉教授)からは
「1960年頃までは日本全体が農村だった。農は身近なものだったが、現在は全く違う世界になってしまっている。また、消費者個人ではなく世帯に注目することが必要。一人世帯が急増している。
消費者に食や農のことを考えてもらうためには、社会や家族・暮らしの基本的構造が変化していることを踏まえる必要」等のアドバイスを頂きました。
「穀物自給率がエジプトと大きく変わらないことには驚いた。農家は高齢化でどんどんやめている。今後の食料安定供給のためには何が必要か」との質問も。
私からは「難しい問題だが、結局は、消費者一人ひとりが生産者と結びつくことが最も有効では」と回答したところ、「草の根の活動も重要だが、国としてしっかりと方針を立てることが必要では」との意見。
ぽつりと「国は本当に農業のことを大切に思っているのだろうか」と発言された女性農業者の方も。
なお、後日メールで、
「生産者・消費者の相互理解によりフード・マイレージが縮小することは重要だが、最近の世界情勢から食料輸入が滞り、その結果としてフードマイレージが小さくなるという皮肉な現象が起こりはしないか」という懸念を表明して下さった方もおられました。
セミナーの最後には、事務局の佐藤 弘さん(元西日本新聞社)から次回の案内がありました。
7月15日(金)、合鴨農法で有名な古野隆雄さんから「ヒットマン~進化するホウキング」と題して講演頂けるとのこと。農薬に頼らない効率的な除草方法など、具体的・実践的なお話を伺えそうです。
私自身、普段は色々と(悶々と)考えたりグラフを作ったりしても(下手な考え、下手くそなグラフですが)、ほとんどはブログやメールマガジン、ウェブサイトによる一方的な発信に留まっており、もどかしい思いをすることが少なくありません。
しかし、この日は、参加者の皆さまから、直接(モニター越しながら顔が見える関係の中で)、貴重で率直なコメントやアドバイスを伺うことができました。十分に回答できなかった質問や耳の痛いご意見もありましたが、私自身にとって有意義で、かつ楽しい時間でした。
ご参加下さった皆さま、本当に有難うございました。