【ほんのさわり】萬田正治、山下惣一監修『新しい小農』

−萬田正治、山下惣一監修 小農学会編著『新しい小農〜その歩み・営み・強み』(2019/11、創森社)−
 http://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=404

萬田正治先生(鹿児島大学名誉教授)、山下惣一さん(農民作家、佐賀)達の呼びかけにより、2015年7月、福岡市で開催された小農学会設立総会には、全国から農家、研究者、ジャーナリストなど90人ほどが参加しました。
 農的暮らし、田舎暮らし、菜園家族、定年帰農、市民農園、半農半Xなどに取り組む都市生活者も含む「小農」学会では、学会誌の発行、定期セミナーの開催(オーシャン・カレント欄参照)など様々な活動を行っています。
 本書は、学会の理念や設立の経緯、具体的な実践例等についての、中心的なメンバーの方たちによる提言の書です。

山下惣一さんは「世界を見渡すと、どこの国でも小農こそが立国、救国の礎」とします。
 農業が「お天道さま任せ」である以上、規模拡大せず専門特化もせず、経営ではなく生業として地道に暮らしているからこそ安定している(倒産・破産はない)との見立てです。

松平尚也さん(耕し歌ふぁーむ、京都市)は、国連「家族農業の10年」「小農宣言」など国際的に小農が再評価されているなか、国内においては消極的対応にとどまっている状況について解説されています。

徳野貞男先生(熊本大学名誉教授)は、明治以降の暮らしの変遷を振り返り、戦前まではマジョリティだった「伝統的小農」が経済成長期には「克服されるべき存在」とされマイノリティ化したことを明らかにし、平成期以降の「考え、抵抗する希少的小農」に希望を見出されています。

宇根 豊さん(農と自然の研究所)は、ICTやAIを取り入れたスマート農業が、農や百姓の本質(作物を情愛を持ったまなざしで見て手入れする等)を破壊する危険性に警鐘を鳴らしています。

さらに、有機農法の実践例(株間除草機の試作、合鴨農法等)、消費者と連携した取組み(体験農園、食農一体カフェ、生活農学校等)も多く紹介されています。

小農学会は、農に関心のある人ならだれでも加入できます(下記のホームページ参照)。
 食や農の分野に留まらず、広く今後の経済社会や暮らしのあり方を考えていく上で、小農学会の活動は貴重な一石を投じるものと期待されます。

(参考)
「小農学会」入会のご案内
 https://shounou-gakkai.com/Contact.php?type=2

出典:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.244、2022年6月13日(月)[和暦 皐月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (↑ 購読(無料)登録はこちらから)
 (↓ 「ほんのさわり」のバックナンバーはこちらに掲載)
  https://food-mileage.jp/category/br/