【ブログ】松郷開拓地(埼玉・所沢市)

「八月や六日九日十五日」
 毎年8月は鎮魂と平和を祈念する月です。しかしウクライナでの戦火がやまない今年の8月は、平穏な気持ちで過ごせそうにはありません。

 2022年8月6日(土)は、広島に原爆が投下されてから77年目の日。
 自宅近くに一画を借りている市民農園へ。
 今年も多くの恵みを頂いた夏野菜はほぼ終了。枝豆も最後の収穫。スイートコーンはもう少し残っています。
 真っ赤に熟した唐辛子は、玄関先の花びんに挿してあります。

この季節の畑は、虫たちの楽園でもあります。
 マルカメムシ、ブチヒゲカメムシ、ニジュウヤホシテントウにアリ、クルマバッタモドキなど。多くは「害虫」。何とも人間の傲慢さを表す呼び方です。

戦争・戦後の痕跡は、身近な所にもあります。
 自宅周辺のGoogle Mapを眺めていて、隣接する所沢市に「松郷開拓の碑」とあるのを発見しました。自転車で30分ほどの距離です。

(C) Google Map

所沢市のホームページ、『所沢市史』(東村山の農業を調べた時と同様、東村山市立中央図書館の郷土資料室にお世話になりました。)によると、戦後の深刻な食料不足のなかで政府は緊急に開拓事業を実施することとなり、旧陸軍所沢飛行場跡地や周辺地域等で開拓が進められたとのこと。
 飛行場用地として接収されていた旧地主、引揚者等の入植者、さらには西武農業鉄道(現・西武鉄道)にも払い下げが行われたそうです。

飛行場に近かった松郷(松井地区)は、所沢市内でも新郷(柳瀬地区)、和ヶ原(三ヶ島地区)とともに最も規模が大きな開拓地だったとのこと。

左は所沢市HP、右は『所沢市史』(1992)下巻p.245

8月8日(月)、自転車で現地を訪ねてみました。
 この日も熱中症警戒アラート発令中で、16時を過ぎて出発。風はあるものの暑熱は収まっていません。

柳瀬川を渡り、JR武蔵野線の高架をくぐって坂を上ると「松井陣地跡」の標柱がありました。所沢飛行場への空襲に備えた防空陣地で、照空燈 6基が設置されていたそうです。

 やがて交通量の多い県道にぶつかりました。沿道には大型ショッピングセンターや物流センターが立地し、角川武蔵野ミュージアムの「威容」も。開拓地の面影はありません。
 自販機でペットボトルの水を購入して一息(はぁ)。

さらに北上して東川を渡り、しばらく進んでから細い横道に折れると、そこには農地が広がっていました。
 空も一気に拡がりました。空の色とすじ雲には、秋の気配が感じられます。

 農地に囲まれた一画に、墓地が見えてきました。

「松郷開拓の碑」は、その墓地の敷地内に設置されていました。
 高さ1.5m、幅は2m以上はありそうです。碑文の末尾には「昭和五十二(1977)年、東川開拓友の会 建之」とあります。開拓30周年を記念して建てられたようです。

45年の風雪に晒されてきた碑文ですが、目を凝らすと十分に判読は可能です。
 昭和二十一(1946)年の夏、当時の所沢町と柳瀬村にまたがる160haの平地林を、開拓地として入植者等に対して解放するという提案が県からなされました。
 しかし地主からの反対が強く、話し合いは難航したとあります。

平地林は、燃料(薪炭)や肥料(落ち葉等)の供給源でした(2017年、「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は、優れた資源循環システムとして日本農業遺産に認定されています)。
 さらには、防災面でも懸念(防風に加え、近傍を流れる東川、柳瀬川の洪水の恐れ)があったようです。

ようやく調整を了したのは昭和二十三(1948)年十月のこと。
 入植者30名、地元の増反者150名に対して農用地90ha、防風林用地40ha等を配分することが決定され、東川開拓農業協同組合が設立ました。
 なお、電気が通ったのは、さらに5年後の昭和二十八(1953)年だったとのこと。

碑文では、入植者たちの苦難の様子も強調されていました。
 「裸一貫の入植者が、住居、水、道路、電灯、食料、医療等皆無より有を生み出す営農の苦労は筆舌に尽せるものではなく、その上天災は容赦なく襲ってきたが、当初より困苦に耐え、欠乏を忍んで、ひたむきの努力を重ねつつ、荒地と闘いながら、発展し続けてきた三十年の過去を回顧して、まことに感慨無量である」

多くの先人たちの困苦の上で開拓された農地でしたが、その後、この碑の周辺を除いて多くは住宅地や道路、商業用地等に転用され、現在に至っています。
 なお、先日、公表された2021年の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで63%となっています。

さて、その日の19時からは第81回 興沢ブッククラブにオンライン参加。今回は納涼特別版(?)として、おススメの「怖い話」の持ち寄りです。
 夏目漱石『夢十夜』、シーラッハ『犯罪』、『京極夏彦のえほん遠野物語シリーズ』、寮美千子著・山本じん絵『よみがえり イザナギとイザナミ』(絵が怖い!)など。
 私からは、宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』をおススメ(あまり怖くないな~)。

恒例のUさんによる絵本の朗読は、ウンゲラー『すてきな三にんぐみ』。これも表紙はちょっと怖い。
 なお、次回(9月12日(月))の課題本は、松本清張『点と線』です。

「私たちの市民社会は、戦争の温床にも、平和の礎にもなり得ます。」(2022.8/9、長崎平和宣言より)