【ブログ】原発回帰がもたらす10の問題(CCNE)

2023年1月9日(月、祝)19時からのNPO市民科学研究室の入門講座のテーマは、「新宿御苑への放射能汚染土埋設事業を拒否する」。
 タイトルだけ見ると、まさに “NIMBY” (not in my backyard、私の地元はお断り)、 “NOMBI” (none of my business、私は関係ない)そのもので、あたかも「分断」を煽るかのようで驚き、あきれました(市民研って、どっち向いて活動しているんだろう)。

しかし話を伺ってみると、「新宿区で反対運動を展開している住民のなかからも、福島の人と意見交換したいとの意見が出ている」との紹介もあり、いさかかほっとした次第。
 追加的な「被ばく」を避けたいという市民の心情は、報告者が話されたように、新宿区も現地(福島県)も変わりません。どうか、これ以上の「分断」につながらないように。

15日(日)午前10時からは、ウェビナー「緊急リレートーク!・岸田政権による原発回帰がもたらす10の問題」を視聴。
 主催は原子力市民委員会(CCNE)です。

岸田政権は短期間で「原発回帰」に政策転換しようとしており、現在、関連する4文書(後述)がパブリック・コメントにかけられています。このウェビナーは、一人でも多くの市民が自らの言葉で意見を提出できるきっかけとなるようにと、急遽、企画されたとのこと。
 参加者は400人近くだそうです。

吉田明子さん(国際環境NGO FoE Japan理事、CCNE委員)の進行の下、10の問題について、様々な分野の専門家や地元の方からの問題提起がありました。
 (以下はごく一部で、文責は全て筆者にあります。HPには資料、動画が公開されているので、関心のある方はぜひご覧ください。)

最初は、「法的な問題」について海渡雄一さん(弁護士、脱原発弁護団全国連絡会 共同代表)から、
 「GX実行会議という正体不明な会議や閣議決定で、どんどん決められているが、これは民主主義のあり方として根本的に疑問がある。エネルギー政策の決定権を市民の手に取り戻すためは、ドイツを見習いつつ、法律のかたちで脱原発を目指すことが必要」

続いて満田夏花さん(FoE Japan 事務局長)からは、
 「原子力規制委員会について、独立しているのか、機能しているのか、審査を合格すれば安全なのか、いずれも極めて否定的に見ている。運転期間の延長についての議論には誤解があり、そもそも、原発利用に規制が従属するように見直しが進められていることが問題」

小倉志郎さん(元東芝 原発技術者)からは「現在は無規制状態になりつつある」との危機感が表明されました。

後藤政志さん(元東芝 原発設計技術者)からは、
 「有名なバスタブ曲線が示しているように、劣化・摩耗すると故障発生率が上昇するという当たり前のことが無視されている。科学的技術的観点を欠いた政策判断はあり得ない。声を大にして反対する」

松久保 肇さん(原子力資料情報室事務局長)からは、
 「経産省の小委員会に参加し色々と意見を言ったが、一顧だにされなかった。GXの目標は、福島事故以降、大幅に削減されたメーカー向けの研究開発費を復元することではないか。ウラン濃縮の10%、弗化の20%はロシアに依存しているなど、安全保障上も問題がある。また、規制庁の幹部はすべて経産省出身者になった」

西島香織さん(原子力災害考証館furusato)からは、
 「富岡町に移住して3年、子どもも2人できた。昨年末、半世紀にわたって反原発運動を続けてこられてきた早川篤雄住職(宝鏡寺、楢葉町)が亡くなられた。福島の復興を再稼働の免罪符のように使ってほしくない。今も帰還できず、生活を取り戻せていない人も多い。福島という地域だけでは背負いきれない問題」との訴え。

鮎川ゆりかさん(千葉商科大学名誉教授)からは、
 「そもそも原発は気候変動対策にはならない。京都議定書も原発を認めていない。気候変動により世界的に水不足が顕在化する中、昨年はフランスでは猛暑により半分の原発が停止した」

大島堅一さん(龍谷大学政策学部教授、CCNE座長)からは、
 「電力の安定供給の観点からは、中長期的な需要抑制・省エネ対策が重要。電力の安定供給のために原発に依存することにはリスクもあり、コストを考えても賢明ではない。すでに産業として成り立っていない原発に対する追加的な国費投入は許されない」

最後に「福島からの声」として、武藤類子さん(福島原発告訴団 団長)から、
 「被害者の一人として、原発回帰の方向には激しい失望と怒りを覚えている。多くの犠牲、反省の気持ちをたった11年で忘れてしまったのか。ようやく立ち上がろうとしている人々の気持ちを踏みにじる愚かな選択。公聴会も行われていない。福島からの憤りの感情を共有してほしい」等のお話がありました。

続いてのパネルディスカッションでは、パブコメを出すことがどれほど有効なのか等の質問の質問が出されました。これに対してパネリストの方々から、
 「民意を明確に示すことは重要。岸田首相も世論を気にしている」(満田さん)、「特定秘密保護法の時もパブコメを提出し、原案の基本的な部分を変更できた。まだ時間はある」(海渡弁護士)、「正式なルートとして声を届けるチャンス。政府には回答する義務がある」(松久保さん)、「現場から遠いからこそ言える意見もある。ぜひ10分でも時間を取って等身大の意見を出して頂ければと思う」(西島さん)等の回答がありました。

最後に司会の吉田さんから、現在、パブコメにかけられている4つの文書についての説明があり、
 「2012年のエネルギー政策の見直しの際には8万9千件のコメントが出され、9割は原子力に反対するものだったが、2021年のエネルギー基本計画変更の際には8~9千件と減少。パブコメは専門的に詳しく書く必要はないので、ぜひ、多くの意見を提出してほしい。周りの人にも伝えてもらいたい」との訴えがあり、この日のウェビナーは終了です。

 それぞれの問題提起は短い時間ながら、ポイントをついた分かりやすい内容でした。
 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、原発再稼働や軍事費増の大きな流れになっているようですが、ここで踏ん張って、冷静に考えることが必要です。

以下はCCNEのHPからの引用ですが、今回パブリックコメントが行われている文書は下にある通り。また、国際環境NGO FoE Japanの分かりやすい解説はこちらです。

◆内閣官房ほか「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集
(締め切り:2023年1月22日23時59分)

◆資源エネルギー庁「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」についての意見公募について
(締め切り:2023年1月22日23時59分)

◆原子力規制委員会「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要(案)」に対する科学的・技術的意見の募集の実施について
(締め切り:2023年1月21日0時00分)

◆原子力委員会「原子力利用に関する基本的考え方」改定に向けた御意見の募集について
(締め切り:2023年1月23日18時00分)

私も、「ぜひ分かりやすい説明会や公聴会の開催を希望する」等の意見を提出しました。
 ちなみに(ウェビナーでも説明がありましたが)電子政府の総合窓口(e-Gov)からは、添付資料(PDF)を一度開かないと(当然ながら閲覧しないと)提出できないようです。また(私は署名入りで提出しましたが)匿名での提出も可能のようです。