【ブログ】「農」を知るドキュメンタリ映画 2題

最近、「農」を知るドキュメンタリ映画の上映会に続けて参加しました。

 1月11日(水)の午前中は東京・経堂へ。
 小田急・経堂駅の改札脇には「駅ナカ絵本交換スペース」。初めて気づきました。
 読み終えた絵本を持参すると、ここにある絵本と無償で交換できるそうで、昨年12月にオープンしたばかりとのこと。

生活クラブ館で10時から開催されたのは、CSまちデザイン市民講座「ドキュメンタリ映画『百姓の百の声』上映会+トークショー」。
 会場とオンラインで30名ほどが参加されたようです。

 冒頭、進行役の榊田みどりさん(CSまちデザイン理事、農業ジャーナリスト)から「ぜひ消費者、食べる人に見てもらいたい映画」との紹介に続き、『百姓の百の声-ようこそ、食べ物の生まれる国へ』の上映が始まりました。

 冒頭、印象的なテロップが映し出されます。
 「食べている限り、誰の隣にも『農』はある。なのにどうして『農』の世界は私たちから遠いのか」

 このような疑問を抱いた柴田昌平監督は、全国を回り、「問題」でも「ユートピア」でもない「耕す人々の声」を記録していきます。
 そして、近くて遠かった「百姓国」は、実は「共有の知のネットワーク」に支えられたオリジナルでクリエイティブな国であることを知ります。種(タネ)が、百姓たちのが伝統的に育んできた共通の財産であることも強調されます。

 美しい田園の風景と、その中で「耕す人たち」の笑顔に引き込まれて観ていると、最後に突然、私たちに向けて問いが投げかけられました。
 「この映画を観て、あなたはどうする」

『百姓の百の声』公式HPの予告編から。)

後半は、柴田さんをお迎えしてのトークショーです。
 ちなみに監督とお呼びすると「罰金100円(笑)」だそうで、「まだまだ勉強中だから」と謙虚な方です(進行役の榊田さんは、早速とられていました)。

柴田さんからのお話は、概要、以下のような内容でした(文責は中田にあります)。

「大学で文化人類学を学び、山梨の山村に滞在して調査した時には、都会の時間軸の違いに驚いた」
 「NHKに入局して沖縄に赴任。従来型の問題点をクローズアップするような報道だけではなく、沖縄の人たちの声を伝える番組作りに注力した」

「その後独立し、沖縄や農村の記録映像を作成(注:『ひめゆり』『千年の一滴』『クニ子おばばと不思議の森』等)。

「これまでジャーナリズムや学者が伝えてきた『農の世界』は、外から勝手に評するようなものばかりで、農家の実態や百姓の気持ちを捉えていなかったのではないか。これまでマスコミ等ではあまり取り上げられてこなかった人の声を聞きたいと思い、農文協(農山漁村文化協会)に相談した。
 ところが『誰かが特別にすごいわけではない。特定の誰かを紹介することはできない』と言われたが、『月刊 現代農業』の取材に同行することを許されて、コロナ禍で制限はあったものの各地を回ることができた」

「最初の頃は、お話を伺っても、情けない位にその内容が分からなかった。専門用語も多く、解説してもらっても理解するまでに時間がかかった。『農の世界』は、それほどに多くの『知』に支えられている

「今日、ご参加の生協の組合員の方は、ひょっとしたら私よりも、食の安全性や有機農業についての意識が高く、知識が富かもしれない。しかし、一度そのような枠は取っ払って『百姓』について考えてもらいたい。慣行と有機、規模の大小などは対立構造にあるわけではなく、現実には様々なグラデーションがある」

 「このままの情勢が続けば、数年後にはこの国から百姓はいなくなってしまうかも知れないという危機感を有している。少しでも長く、耕し続けてもらうことを考えることが必要な時代が来ている。百姓をリスペクトする人を増やしていかなければならない。このことを消費者の皆さんには伝えたい」

引き続き、会場およびオンライン参加者との質疑応答、意見交換が行われました。
 「農家の方たちの思いがじわじわと伝わってきた」、「地域では多様性が受け入れられているのに、政策やマスコミが分断をあおっているのでは」等の感想。

 映画の最後のメッセージ「あなたはどうする」の関連では、柴田さんからは、
 「農への入り口として、まずは体験することが大切だと思う。市民農園でもベランダでも、自分で農作物をつくってみて初めて分かることが多い。食べて支えることも大切だが、少しでも農業に関わることで百姓に一歩近づくことができる。多くの人が耕し始めれば、社会は変わっていくのでは」等と話されました。

終了後は、近藤理事長、榊田理事たちと、柴田監督(あっ、百円!)を囲んでランチ。
 生活クラブ館内にあるカフェでは、生活クラブが扱っているこだわりの食材が使われています。この日は平牧三元豚のハンバーグランチを頂きました(美味!)。

柴田さんは、これからも上映会で全国各地を回られる予定で、都内にミニシアターを開設する準備もされているなど、ご多忙の様子です。
 次回作(女性をもっと取り上げたいとのこと)も含め、今後の活躍に期待したいと思います。

1月13日(金)の終業後は、東京・西新宿へ(といっても帰り道ですが)。
 林立する高層ビルの足下に、福聚山常圓寺があります。
 その祖師堂で『川口由一の自然農というしあわせ with 辻 信一』(2011年)の上映会が開催されました。

主催の(特非)ロータスプロジェクトは、お寺を拠点として地域コミュニティづくりの活動をされている団体。様々な社会課題をテーマにした映画の上映会(ロータスシネマ)も続けておられます。
 私はコロナ禍前に何度か参加させて頂きましたが、久しぶりです。

映画は、奈良・桜井市で自然農を営む川口由一(かわぐち よしかず)さんに、辻 信一さん(環境運動家)がインタビューするかたちで進んでいきます。

 川口さんの「農とは生きる営み。生きる営みとは消費するのではなく、命を増やす営み」、「自然農(不耕起、無化学肥料・農薬)は、命の道に沿った、未来に生き続けられる農のあり方」等の言葉が心に残りました。

 インタビューの間には、自然農学習塾の方たちとの農作業の様子も描かれます。ここにも自然の恵みと、そのなかの人たちの笑顔。

ナマケモノ倶楽部ウェブショップのプロモーションビデオより。)

終了後は、ストーブを囲むように(冷え込む日でした。)車座になって感想等のシェア。
 この日の参加者は8名と少人数でしたが、その分、本心からの感想が述べられたようです。

「自然農や有機農業なのに、作物がきれいで、美味しそうなことに驚いた」、「テレビで培養肉を取り上げていたが、気持ち悪さを感じた」、「農だけではなく、人の生き方そのものが描かれていた」等の感想。

 体調を崩して仕事をやめ、埼玉で自然栽培を学ぶ予定という男性は「この映画を観て覚悟が定まった」との発言。
 近く九州に移住されるという女性は「これからは少しでも自分の食べるものを作ってみたい」と話されました。

私自身も含む都市に住む消費者にとって、「農」の世界は、やはり遠いものです。体験等はともかく、実際に就農するには大きなハードルもあります。
 そのようななか、今回のような良質のドキュメンタリ映画は、「農」の世界の一端を知り、理解し、想像力を及ぼす貴重な「入り口」になります。
 製作者やイベント主催者の皆様に、改めて感謝申し上げたいと思います。