【ほんのさわり258】菅野芳秀『七転八倒百姓記』

−菅野芳秀『七転八倒百姓記』(2021年10月、現代書館)−
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著者は1949年、山形・長井市生まれの、身長191cm、体重100kgという偉丈夫です。
 三里塚、沖縄という「国家への謀反の現場を転戦」(大野和興氏の解説)したのち、26歳の時に帰郷して「逃げたいと思っていた」家業の農業を継ぎました。

就農早々に直面したのが米の生産調整の問題。
 国(農政)に対する抗議の意思を示すためにただ一人、市役所に乗り込んで減反拒否を宣言したものの、紆余曲折を経て撤回。著者はこの「敗北」で、運動は理念だけで続くものではなく利益(継続性)の視点が必要であること(理と利の調和)、グレーゾーン(あいまいにすること)の積極的意味を学んだとしています。
 「運動のダイナミズム」のポイントを体得した著者は、その後、東京の生協との産直交流、農薬の空中散布廃止、「百姓国際交流会」の開催等、困難と思われたことを次々と実現していきます。
 その集大成の一つが、1990年頃から構想された「レインボープラン」です。住民が主体的に分別収集した生ゴミを堆肥化し、それで生産した農作物を住民が消費するという「農業を基礎とする循環型社会づくり」の取組みです。
 著者は取組みを進めるに当たり、仲良しグループを作ることはしない、余分なモノサシで人を排除しないこと等を心掛け、市民の側が「大きな動き」をつくった結果、行政も動きやすくなったとしています。これにより、住民にとっては単なる風景以上のものではなかった農地が、台所とつながったのです。

これら多くの成果を上げてこられた著者ですが、現在の日本の農業や地域の状況には強い危機感を抱いています。日本の農政については、相変わらず大規模化・効率化優先で、小農や家族農業は潰され、人々が共に暮らしていた村は崩壊の淵にあると強烈に批判します。
 しかし著者は嘆いているだけではありません。簡単な答えなど見つかるはずはないとしつつ、考えられる方策の一つとして「地域自給圏」の形成を提案しています。しかも理念だけにとどまらず、実際に幅広い生活者(消費者、生産者)、政治家や行政も巻き込んで(一社)置賜自給圏推進機構を立ち上げ、具体的な活動を推進しておられるのです。

著者は「時代の大きな流れは我々の勝利を約束してくれている」と、信じて疑いません。
 警鐘であると同時に、希望の書となっています。

[参考]
 置賜(おきたま)自給圏推進機構
 https://www.okitama-jikyuken.com/

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
  No.258、2023年1月6日(金)[和暦 師走十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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