【オーシャン・カレント271】通潤橋(熊本・山都町)

通潤橋と白糸台地の棚田(筆者撮影、2023.,4/9, 22.3/27)

通潤橋(つうじゅんきょう)は、熊本県のほぼ中央、山都町(やまとちょう)にある日本最大級の石造りアーチ橋で、豪快な放水などで観光スポットとしても有名です。
 実は、この橋は道路ではありません。通潤用水と呼ばれる農業用水路の重要な部分を構成する「水路橋」で、橋の内部には農業用水を通すための頑丈な石管が設けられています。

緑川等が削り取った深い谷に囲まれた白糸台地は、永く水や食料の不足に悩まされてきました。幕末近くの嘉永年間、惣庄屋の布田保之助(ふた・やすのすけ)は、その白糸台地に農業・生活用水を供給するための用水路の建設を熊本藩に申し出ます。当時の熊本藩は行財政改革を進めており、大規模な土木工事も地方・民間に移譲していたのです。
 石工や大工などの人力による工事は、約1年8ヶ月の期間と、地元負担など巨額の費用(現在の価値に換算すると約26億円になるとの試算もあります)をかけて、嘉永七(1854)年、通潤橋は完成しました。
 橋の長さは76m、橋の高さは20m。凝灰岩の継ぎ目を漆喰で固めた「吹上樋」という優れた技術・工法により、標高差のある白糸台地に水が吹き上げる仕組みになっています。通潤橋を渡った水は、現在も白糸台地上の約100haの農地を潤しているのです。
 これら歴史的な経緯も踏まえ、すでに1960年には国の重要文化財に指定されていましたが、2023年6月、文化審議会は通潤橋を国宝に指定するよう答申を行いました。

通潤橋は、2016年4月の熊本地震、18年5月の豪雨で石垣が崩落するなどの大きな被害を受け、今年も白糸台地の農地や用水路には被害が出ていると伺っています。通潤橋を維持・管理している主体は、地元の農業者等から構成される水利組合(土地改良区)です。豪快な放水も、元々は石管内部にたまった泥や砂を除くための農作業の一環なのです。
 この歴史的建造物が、地域の農業とともに、将来にわたって永く受け継がれていくことを強く願っています。

参考:
 通潤橋(山都町役場ホームページ。放水の動画も観られます)
 https://tsujunbridge.jp/

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.271、2023年7月18日(火)[和暦 水無月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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