【ブログ】基本法見直しと食料安全保障、スプーンの記憶

猛暑続き、時々ゲリラ的豪雨。大型で強い台風6、7号が連続して接近。
 自宅近くの市民農園では、美味しかったトマトはほぼ終了。ナスは大豊作、オクラやピーマンも豊作。3個目のスイカは近く収穫予定。
 福島・いわきで種を頂いてきたコットンは、清楚で綺麗な花を咲かせています。

2023年8月9日(水)の終業後は、東京・京橋にある中央区立環境情報センターへ。さまざまな環境に関する情報の集約・発信を行うとともに、地域における環境活動を実践する拠点です。

 この日、研修室で18時30分から開催されたのは「今夜もご機嫌@銀座で農業」。タイトルはソフトですが、内容は毎回、高度で充実しています(月1回程度の頻度で開催されています)。

主催者である高安和夫さん(特非・銀座ミツバチプロジェクト)の挨拶により開会。

 この日のテーマは、シリーズで行われている「農政情報トピックス」の一環として、「農政審検証部会基本法見直し~中間取りまとめをどう受け止めるか」。
 講師の蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)から、概要、以下のような説明がありました(文責は中田にあります)。

「本年5月の『中間取りまとめ』において、食料・農業・農村基本法の改正の方向はほぼ固まった。食料安全保障に焦点が当てられ、法全体の基本的な見直しは避けて通ったのではないか」

 「食料安全保障についても、食生活上のニーズや貧困層対策が取り上げられた結果、最も重要な不測の事態への対応が後ろに回ってしまった印象。食料安全保障を支える農地が大きく減少していることについての言及も不十分。有機農業についてもあまり触れられていない」

「去る7月21日(金)には、有機農業関係のグループで農水省に申し入れ、意見交換を行った。
 私からは『現行基本法はよくできており、基本法がなぜ機能しないのかを検証することが重要』『EUやアメリカの法体系を参考に、基本法のあり方自体を議論していく必要がある』等と発言した」

 「また、今回の中間取りまとめでは農業・農村の将来ビジョンが見えておらず、農業・農村を社会的共通資源として位置づけ、環境負荷低減とクロスコンプライアンスしての直接支払いを拡充していくことが必要とも提言した」

 「さらに、食料安全保障の観点からも都市農業を保全していくことが絶対に必要であり、都市農地を半永久的に保全していくための制度創設も求めた」

続いて、蔦谷先生ご自身の今後の農業のビジョンと言える「多様な担い手による多様な農業」について、ピラミッド型の図を基に説明して下さいました。

 「風土産業としての日本農業の強みを生かし、自然資源を活用し、森-里-川-海の循環を重視することが必要。そのためには、大規模専業農家だけではない多様な担い手が、土地利用型農業、高度技術集約農業、自給的農業をそれぞれ担っていく。担い手の数は、自給的農業の方が多くなる。都市等においては市民参画型農業も重要」

 「消費者・市民の農業参画により農的社会を作っていく。地域のコミュニティ農業によりコモンズの再生と自然循環の復活を実現し、地域(流域)自給圏づくりを進めていく。それによって『生産消費者』が増加し、『農業の社会化』が実現する」

以上は中田による簡単なまとめで、理解不十分な点や誤解があるかも知れません。蔦谷先生は現在、これらの内容を含む新著をご執筆中とのことで、刊行が待たれます。

後半は、参加者の方との間で質疑応答・意見交換。
 「現行基本法の目標がなぜ達成されないかという検証が重要という点に強く同意する」との感想。
 「農業技術の向上という面を重視すべきでは」との意見も。

 生協関係者の方からは、
 「私が所属している生協でも色々と活動しているが、果たしてどれだけの組合員が農業のことを理解しているか。農業のことを生活の中で当たり前のように考えられるようになることが必要と感じた」とのコメント。

 「私の知っている地域では、若い人たちが新規就農して新しい農業を始めている。いずれにしても消費者として食の見直しは避けて通れない」と述べられた女性も。

 農政の現場を歩かれてきた方からは、
 「食料、農業は福祉など多くの分野と関連しており、農水省だけでの議論では限界があるのではないか。農地については、現行制度では個人財産とされているために多くの難しい面がある。いずれにしても、多様な人々を議論に巻き込んでいくことが必要」等の意見がありました。

 最後に高安さんから、ご自身も養蜂分野で取り組んでいる「農福連携」がひとつの方向性になるのではないかとの紹介。

蔦谷先生からは、時間が限られているなか丁寧に回答して下さいました。
 都市農業に関しては、相続税の物納制度など制度面も含めて、都市農業の位置づけを検討していくべきと改めて強調されていました。

終了後は、いつもの餃子屋さんで懇親会。
 5類になって以降、ここのお店もコロナ以前のにぎわいが戻ってきたようです。

さて、8月は鎮魂と平和を祈る月です。
 13日(日)は、東京・新宿にある平和祈念展示資料館を初めて訪ねてみました。企画展「43人が描く空想未来漫画『2100年8月15日』」とワークショップが開催中(10月1日まで)で、小さな子どもを連れた家族連れ等が多数来場していました。

シベリアの収容所で乏しい黒パンを切り分けている場面を描いたジオラマ。抑留者たち全員の目がその手元を見つめています。来場者の男の子も、真剣な表情で眺めていました。

 特に印象に残ったのが、数多くのスプーンなど食器の展示。
 抑留者たちは、いつの日か故郷に帰り、腹いっぱい食べることを信じて食器を手作りすることで、明日への生きる望みをつないでいたそうです。
 アルミや白樺の木から作った食器は、見事な細工です。極限状態における、食への強い思いが籠められているかのようです。

学芸員の方に相談して、戦中戦後の配給の資料を見せて頂きました。
 米の配給量は一人一日当たり二合三勺、一年に換算すると約120kgとなります。それでも激しい飢餓にさいなまれていました。
 現在の米の生産量は、減反を続けてきた結果760万トン弱にまで減少しています。万が一、食料や飼料の輸入が途絶した場合、米を配給しようとしても、一人当たり60kg程度(戦中戦後の半分の量)にとどまります。

戦後78年。私たちは飢餓の記憶を忘れてしまっているかのようです。