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◇◆◇ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信− ◇◆◇
No.28 ; 2013. 9/19(木)[旧暦 葉月十五日]発行
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あの大震災から2年半が過ぎました。
しかし、今も30万人近い人たちが避難生活を強いられています。過酷
な環境の下、福島原発で働いている人たちもいます。
まもなく秋分の日(23日)、震災から3回目の秋も深まりつつあります。
時の流れを感じて頂く一助とするため、旧暦の毎月1日(朔日=新月の
日)と15日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は旧暦葉
月十五日の配信です。
今夜は皆さんの場所でも「中秋の名月」が見られるでしょうか。
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◆ F.M.豆知識
フード・マイレージを始めとする食や農に関わる話題について、毎
回少しずつ取り上げていきます。
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4 日本は「農業大国」か
(2)「世界第5位」の見方について
前回見たとおり、2010年の農業の総生産の額でみると、確かに日本は
世界第5位です。
(なお「総生産」とは付加価値(売上げ−コスト)を示しており、その
合計がGDP(国内総生産)です)。
しかし、このことのみをもって「日本が農業大国」と断じることは、
いささか乱暴と私が考える理由は、以下の通りです。
総生産を上位から順に見ると、約6千億ドルの中国を筆頭に、インド、
アメリカ、ブラジルまでの4カ国は1千億ドルを超えており、文字通り農
業大国と言えるかも知れません。
5位の日本(633億ドル)は上位4カ国とはかなり差があり、6位ロシア、
7位フランス等とは、為替レート次第で順位は簡単に変わりうるレベル
です(ちなみに2010年の順位は1ドル88円で換算しています)。
また、この順位はトータルの絶対額で比較したものですが、全経済の
規模(GDP)に占める農業のシェアをみると、日本は1.2%となります。
この割合は、アメリカ1.1%、フランス1.8%、ドイツ0.8%と、先進国
の場合、いずれも1〜2%程度です。
ということは、日本はGDPでみれば世界第3位の経済大国なのですから、
先進国ではおしなべて1〜2%のシェアを有する農業の総生産が世界で5番
目位にランク付けされたとしても、殊更に注目するほどのことではない
のです。
また、このことは、経済成長に伴って第1次産業のシェアが低下してい
くという経済学の法則(ペティ=クラークの法則)があるとはいえ、農
業のシェアはいくら低下しても1〜2%程度以下にはならないことを示し
ています。
農業は、その国の気候や風土、土地資源等を活かして生産できるとい
うことに加え、やはり命の源である「食」は最低限(?)は国内で自給
しようというインセンティブが働くのかも知れません。
ちなみに、1%の農業のために残る99%の産業を犠牲にしてはならな
い云々という議論は、日本以外の国ではあまり聞かれるくことは無いも
のと思われます。
[参考]主要国の農業関連主要指標
農林水産省統計部『ポケット農林水産統計−平成24年判−』p.56〜57
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◆ オーシャン・カレント −潮目を変える−
食や農の閉塞感を打ち破るためのユニークな活動や、それに取り組
んでおられる方達を紹介するコーナーです。
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刊行されたばかりの『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)の帯に
は、刺激的な言葉が並んでいます。
「有機=美味で安全、農家=清貧な弱者、農業=体力が必要。これらは
全部カン違いです」。
著者は1970年生まれの久松達央(ひさまつたつおう)さん。
一流私大の経済学部を卒業して大手企業に就職、エリートサラリーマ
ンの地位を約束されていたのですが、「軽い気持ちで」自治体の農業体
験プログラムに参加するうちに「気持ちにスイッチが入ってしまい」
退職、1年間の研修を経て29歳の時に独立、自ら農業を始められました。
茨城・土浦市にある「久松農園」では、現在、3ha強の農地で50品目以
上の露地野菜を有機栽培し、消費者や飲食店に直接販売しています。
久松さんの主張は明快です。例えば、
野菜の味を決めるのは3要素(栽培時期(旬)、品種、鮮度)。有機栽
培は結果としてこの3要素を満たしていることが多いから美味しいので、
「有機だから」美味しい訳ではない。
有機野菜は安全な野菜ではなく「健康な野菜」であるべき。
農業者にはセンスもガッツもいらない。
(自らも直面した放射能汚染に関連し)ソーシャルメディア等による
発信力を多くの農家が持つことが、結果として「風評」を減らすことに
つながる。
農業ほどクリエイティブで知的興奮に満ちた仕事はない、等々。
農業以外のビジネスや起業にも参考となる「目からウロコ」の多くの
提言が含まれています。
先日、赤坂の「分店・なかむら食堂」(常時、久松農園の野菜を使わ
れています。)で開催された出版記念パーティーには約70名が参加、久
松さんの豊かな交流関係と人間性がしのばれる素晴らしい会でした。
先進的な農業経営者として、また、日本農業を改革する先駆者として
の久松さんの活躍に、今後も期待したいと思います。
[参考]久松農園
『キレイゴト抜きの農業論』(2013.9、文春新書)
http://www.shinchosha.co.jp/book/610538/
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◆ 情報ひろば
食や農に関わるセミナーや勉強会の情報、拙ブログの更新情報、各
種イベントの開催情報等をお知らせします。
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▼ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報
○[9月5日付け]たからづか食育フェア
兵庫・宝塚市で開催された食育フェアは、様々なゲームや給食の試
食等で盛り上がりました。私からはフード・マイレージ等の説明も。
http://food-mileage.jp/2013/09/05/
○[9月8日付け]原発の町を追われて−避難民・双葉町の記録
秋葉原で開催されたドキュメンタリ上映会。埼玉・加須市の避難所
の様子など。制作者と避難者の方によるトークも行われました。
http://food-mileage.jp/2013/09/08/
○[9月10日付け]ゴマプロ4−いよいよ収穫 @東京・檜原村
ゴマの自給率を東京から上げようという壮大な「東京ゴマ0→1(ゼ
ロワン)プロジェクト」、檜原村での収穫作業が始まりました。
http://food-mileage.jp/2013/09/10/
○[9月13日付け]「ふくしまから考える今、描きだす未来」
新宿の復興カフェ「結YUI」で、福島の復興支援活動に取り組む若い
方達の交流会が開催されました。
http://food-mileage.jp/2013/09/13/
○[9月16日付け]台風の中、おいしい野菜が届きました。
3連休は台風が日本列島を縦断。悪天候の中、埼玉・小川町から日本
版CSA「おいしいお野菜届け隊」の野菜が届きました。
http://food-mileage.jp/2013/09/16/
○[9月17日付け]いま福島原発で働いている人たち
元東電社員・吉川彰浩さんの「お話会」。過酷な条件の下、今も福
島原発で働いている作業員、社員の方々の様子を伺いました。
http://food-mileage.jp/2013/09/17/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
募集締切等の場合がありますので、参加を希望される場合等は、
必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 品川マルシェ「全快野菜ちゃん」
日時:9月21日(土)10:00〜15:00(売り切れ終了)
場所:品川寺(ほんせんじ、品川区南品川3-5-17)
主催:グリーンスマイル
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.greensmile.asia/2013/09/13/921yasa/
○ しごと塾さいはら【番外編】古在家神楽舞と草取り
日時:9月22日(日)10:10にJR中央線上野原駅に集合。
場所:山梨県上野原市 西原(さいはら)地区
主催:しごと塾さいはら
(詳細、お問合せ等↓)
http://shigotojyuku-saihara.jimdo.com/
○ 地球に優しいこうじ料理
日時:9月25日(水)10:00〜13:00
場所:石川県女性センター4階 料理教室(金沢市三社町1-44)
主催:金沢エコネット
(お問合せ、申込み:金沢市環境政策課)
メール kansei☆city.kanazawa.lg.jp (☆を@に変更して下さい。)
○ 首都圏で有機農業を知る・広めるセミナー
日時:9月27日(金)、10月25日(金)
時間は両日とも18:30〜20:00
場所:丸の内さえずり館(千代田区有楽町1-12-1新有楽町ビル1F)
主催:NGO「A SEED
JAPAN」未来生活nowプロジェクト
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.aseed.org/2013/09/2197/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方
の部分は、全て、筆者の個人的なものです。
* 今回も読んでいただき有難うございました。
次号は10月1日(火)(旧暦・文月朔日)の配信予定です。
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F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
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◆ 発行者:中田哲也
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