江戸東京野菜「ツマモノ」の魅力

 2014年8月23日(土)は二十四節気の処暑。
 東京地方もようやく猛暑が和らいできました。しかし全国各地で大雨被害が拡がっています。
 時おり小雨がぱらつく中、新宿駅南口に近い「東京アグリパーク」(JA東京南新宿ビル3F)へ。
 13時30分から開催されたのは、講演会「伝統野菜は長老に聞け!」シリーズ第4弾です。
140823_1_convert_20140824014720.png
 主催は、東京の伝統野菜である江戸東京野菜の魅力を伝えることのできる専門家育成に取り組んでいる「江戸東京野菜コンシェルジュ育成協議会」(略称、江戸コン。現在は任意団体)です。
 このシリーズは、江戸東京野菜の育種や栽培、普及に永年取り組んでこられた先達の皆様から、お元気なうちに話を伺い勉強しようという趣旨で連続開催されているものです。
 第1弾(昨年8月)は伝統大蔵ダイコンと下山千歳白菜の復活に尽力された植松敬さん、第2弾(本年3月)は馬込半白節成きゅうりや高井戸節成きゅうりに詳しい澤地信康さん、第3弾(同5月)は練馬ダイコン栽培の第一人者・渡戸章さんから貴重な話を伺いました。
 「種の保存も含め、伝統野菜の復活は時間との戦い」とは、協議会の大竹道茂会長の言葉です。
 なお、私は第1弾以来の久々の参加です。
 今回は43名が参加。協議会の納所二郎副会長の挨拶で開会しました。
140823_2_convert_20140824014752.png
 今回のテーマは「江戸東京野菜『ツマモノ』の魅力について」。
 講師の小林五郎先生は1934年のお生まれ。80歳のご高齢ながら、3時間近い講演を、試食と休憩時間を除いて立ったままこなされました。
 小林先生は東京農工大学卒業後に農業改良普及員として東京都に就職し、野菜専門技術員や普及所長を歴任されました。退職後の現在も、アグリス成城(世田谷区)ほか川越市や江東区等の市民農園で栽培指導員をされており、さらに『やさしい野菜づくり入門』(実業之日本社)、『簡単野菜作り』(全国農業会議所)など多くの著書もあります。
 まさに野菜づくりの達人です。
 また、本年(平成24年)、大日本農会 緑白綬有功賞を受賞されています。
140823_3_convert_20140824014815.png
 小林さんの話は、最初に八丈島に赴任されたことから始まりした。回りからは「島流し」と言われたそうですが、かつて流刑地であった縁で、後に全国各地との繋がりができたとのことです。
 八丈島から戻られた後は足立区で12年勤務されたとのこと。この時に、お付き合いされた農家の方たちとツマモノを始めとする野菜生産に取り組まれたそうです。
 ツマモノ(妻物)とは、彩りや季節感を演出するため、刺身など料理のツマとして添えられる香味野菜のこと。
 例えば同じしそ(紫蘇)でも、紫芽(むらめ、しその芽)、花穂(はなほ、開花しかけたしそ)、穂紫蘇(ほじそ、未熟な実をつけた)、大葉(青じその葉)等があります。
 他にも木の芽(さんしょう)、葉たで、芽たで、みょうが、せり、わけぎ、あさつきなど。
 栽培に広い面積は必要ありませんが、高度な栽培技術と細かな手仕事が必要で、東京・足立区は近世以来、その主産地の一つとなっています。
140823_4_convert_20140824014841.png 小林さんは、東京近郊野菜技術研究会の役員も務められ、足立区等の生産者の皆さんとともにツマモノの生産振興と普及に尽力されてきたのです。技術者らしく、土壌診断(土の健康診断)や適切な施肥(やりすぎない等)の重要性等を強調されていました。
 また、花穂や穂紫蘇は、鮮やかな色つやを出し、花と花の間隔が広がり過ぎないように栽培する技術が大事とのこと。
 さらには、単なる彩りではなくツマモノには殺菌作用など実用性もあること、景気が悪くなると売れないので、ここ数年、ツマモノ農家にとっては苦しい状況が続いていた等の話も伺うことができました。
 
 小林さんの話に合わせて大竹会長が自らパソコンを操作し、ツマモノや、その生産者の方たちの姿をスライドに映してくれます。
 また、小林さんの講演の合間には、大竹会長から新たに内藤カボチャなど6種類が江戸東京野菜に指定される運びとなっていること等について報告がありました。
 江戸東京野菜には、在来の固定種が基本で販売目的の生産者がいること等の要件がありますが、多くの生産者、関係者の取組により、これで40種類に拡大することになるそうです。
 ここで試食の時間。江戸コンの講演会は、試食が付いているのが嬉しいところです。
 事務局の上原さん達が食材を調達し準備して下さいました。
140823_5_convert_20140824014902.png
 紫芽とアサツキが乗せられた豆腐、鰹だしで炊いたご飯には奥多摩の根わさび(これも江戸東京野菜の一つ。事務局の松嶋さんがその場ですり下ろしてくれました)が添えられています。内藤カボチャを蒸し焼きにしたもの(煮るよりもホイルを巻いて焼いた方が美味しいそうです)。紫芽のクレープは、紫芽を散らして焼いたクレープでスモークサーモンとサワークリームのソースを巻いて、さらに紫芽をトッピングしています。つる菜とアユタデを添えて頂きました。
140823_6_convert_20140824014925.png
 いつもは添え物のツマモノが、この日は主役です。
 伝統野菜は、食べ方や調理方法によって美味しさが大きく左右されるそうです。ここが、一般に流通している野菜(どんな料理でもそれなりに美味しい)と大きく異なる点で、その意味で試食つきの江戸コンの講演会は、食いしん坊ならずとも有難いことです。
 試食と休憩後に講演が再開。
 最後に、参加者の皆さんから質問。野菜作りの達人ということで、自分たちの野菜栽培についての実用的な質問が相次ぎました。
 その中のお一人、プランターで紫芽を作っているけど色が思うように出ないのですが、という女性の質問に対して、小林さんはプランターの大きさ等を質問され、しばし頭の中で計算された後、このような肥料をこれくらい施せばいいのでは、と丁寧に回答されました。
 さらに、後できちんと計算してお教えするので連絡先を教えてほしいとおっしゃったのには、正直、驚きました。ご高齢になられ、ずっと若い方に対する技術者としての真摯なお姿は、恐らく現役時代と変わらないのだと思いました。
 このような方達こそが、江戸東京野菜を含む東京の農業を支えてこられたのだと、強く感銘を受けた次第です。
140823_7_convert_20140824015000.png
 なお、江戸東京野菜コンシェルジュ育成講座については、まず、入門編が9月6日(土)13時から東京アグリパークで開催されます。大竹道茂会長から江戸東京野菜について分かりやすく解説して下さいます(試食やお土産もあるそうです)。
 さらに、江戸東京野菜の魅力を伝えることのできる専門家「江戸東京野菜コンシェルジュ」の資格取得講座(総合コース*第4期)は、同じ会場で11月に3日間にわたり開催される予定となっています。
 ご関心を持たれた方は、事務局(edocon831アットマークk00.itscom.net)までお問い合わせ下さい。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
(↓ランキングに参加しています。よろしかったらクリックして下さい。)

人気ブログランキングへ