脱成長ミーティング・公開研究会「TPPと平和経済学」

 東京地方は、穏やかな松の内が過ぎていきます。
 昨年8月の台風で大きな被害を受けた徳島のバラ園から届いた薔薇。昨年末に届いた時はまだつぼみでしたが、すっかり開きました。
 2015年の読書は加藤陽子先生『戦争の日本近現代史』から。
 明治維新から第二次大戦まで戦争を繰り返した背景には、国民の多くに「だから戦争をしていいのだ」という認識があったから、との分析。
 ちなみに、ついにスマホも機種変更。大きな画面はサクサクと綺麗ですが、4Sのコンパクトさが懐かしいような。
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 2015年1月11日(日)は、文京区江戸川橋のPP研(ピープルズ・プラン研究所)へ。
150111_1_convert_20150112092831.png 民衆(ピープル)の視点から、オルタナテイブな経済・社会システム、文化を探求する開かれたグループの事務所は、小さな雑居ビルの2階にあります。
 
 14時から開催されたのは「脱成長ミーティング・公開研究会」。
 公開研究会は前回(11月9日)に続いて2回目で、今回のテーマは「脱成長と自由貿易批判-TPPへのオルタナティブ」。
 講師は立教大学の郭洋春(カク・ヤンチユン)先生(開発経済学)です。
 予定を超える40名ほどの参加者で会場は満杯状態。
 PP研の鶴田雅英さんの司会の下、冒頭、呼びかけ人の一人である高坂勝さん(オーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」店主)から、会の趣旨等について説明がありました。
 「脱成長の考えは広まりつつあるものの、一般の人に対する説得力は十分ではない。例えば国の借金が返せないのでは等と。PP研の白川真澄さん達と相談して立ちあげた脱成長ミーティングを細々と開催してきたが、より広げていこうと公開研究会を開催することとした。
 ここでの報告内容等は議事録とビデオでアーカイブ化し、必要に応じ参照できるようにしていきたい」
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 続いて、郭洋春先生の講演へ。
 冒頭、「平和経済学」に対する思いを述べられました。
 「アダム・スミスから数えて240年ほどになるが、経済学ほど犯罪的な学問はないとも言える。誰も成長を否定してこなかった結果、格差と貧困を作り出し、時には戦争まで引き起こしてきた。その反省に立って経済学を作りなおしたい。
 ユートピア的と言われるかも知れないが、『平和経済学』の構築を目指している」とのこと。
 続いてOECD “HowWas Life?” レポート(2014.10)を紹介。
 グローバル化が進み始めた1980年代以降、世界の所得格差は急速に拡大し、現在は1820年代と同じ水準にまで悪化しているとの内容だそうです。
 また、「世界貿易量の増加率は1960年代以降、鈍化しており、作れば輸出でき経済が成長するというのは古い考え」
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 「そもそも、戦後の自由貿易体制(ブレトンウッズ体制)は米国の主導により構築されたものだが、米国が自ら金ドル交換を停止したこと等から25年ほどで崩壊。新自由主義やグローバリゼーションに転換したのは、米国の国力が弱まったことの現われ」
 そして、「グローバリゼーションにより格差が拡大しており、世界の最も豊かな国と最も貧しい国(それぞれ世界人口の5分の1)の間の所得の格差は、1820年には約3対1だったのが、1973年には44対1、1992年には72対1となっている(国連『人間開発報告』1999)、p.4」
 さらに、「この間、通貨・金融危機がほぼ10年周期で訪れているが、周期は短く大規模化しつつある」とのこと。
 これらをみてくると、「現在の自由貿易論は、平等・対等の観点、全ての商品が自由貿易に適するか(農業、医療)等の観点から再考する必要がある」とし、米韓FTAには関税以外の部分で問題が多いことを踏まえ、「TPPでの米国の狙いは相手国の法律や制度を変えることにある」と警鐘を鳴らされました。
 さらに、20世紀の成長論の問題点として、「現代のこと、人間のこと、量を成長させることとしか考えていない」ことをあげられ、関係性を見直して新たな経済システム(平和経済学)を確立することの必要性を訴えられました。
 「このオルタナティブなシステムは、自然と人間との調和、人間と人間との信頼、人間と社会との協調を目指し、一方通行的な関係から双方向(循環)の関係(顔の見える関係)を目指すもの。
 また、市民一人ひとりが主体的に参加することによって可能となる多様な経済社会システムであり、実践の中から生まれてくるもの」とのことです。
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 テーマからは、自由貿易やTPP批判の内容かと思っていたのですが(現に郭先生はTPP批判のベストセラーも上梓されています)、スケールが大きな講演の内容に、正直、圧倒される思いでした。
 後半の質疑応答でも、多様な質問や意見が出されました。
 例えば、
 「明日から自分にできることは何かと考えているが、そもそも都市生活においては『顔の見える関係』の構築は無理ではないか」との質問には、
 「地域コミュニティの範囲は広くない方がいい。例えばゴミ出し。地域に愛着と責任を持てる位の範囲で考えることが重要」との回答。
 
 また、「抽象論ではなく、定量的な指標や数値を用いて具体的なイメージを作っていく必要があるのでは」との指摘には、
 「定量化することは大事だが、一方で指標化できないものもたくさんあることに留意が必要。『量』は簡単に指数化できるが『質』は困難」と述べられました。
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 この日は、若い人たちも多く参加されていました。
 東京の男子大学院生からは、「正直、これまで地域について考えたことはなかった」との感想。
 一方、熊本・南阿蘇に移住された女性の方(「半農半歌手」だそうです)からは、
 「東京にいる時はコミュニティを意識することはなかったが、今はよく分かる。南阿蘇でも高齢化が進んでいるが、素晴らしい景観を含め、地域には大きなポテンシャルがある。その希望を、逆に都会に発信していきたい」との心強い言葉も。
 これら若い人たちからの発言を受けて、郭先生は、
 「子どもや孫に、自分たちのせいで生きにくくなったと言われたくない。その一心で活動している」等と述べられていました。
 予定の17時を回り、熱のこもる余韻を残して研究会は終了。
 この脱成長ミーティング、これからも継続して開催される予定です。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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