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◇◆◇ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信− ◇◆◇
No.93;2016.5/7(土)[和暦 卯月朔五日]発行
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立夏も過ぎ、暦は卯月(うづき)に入りました。
陽気が満ち満ち、花々は咲き誇り、鳥たちが高らかにさえずる夏の始
まりの月です。
熊本の余震は未だ収束しません。心よりお見舞いを申し上げるととも
に、一日も早い復旧をお祈りしています。自らも被災しながら、それぞ
れ支援等の活動をされている方々の話を伺うと心励まされます。
時の流れを体感するため、和暦の毎月一日(朔日=新月の日)と十五
日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は卯月朔日の配信
です。
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◆ F.M.豆知識
食や農について、(特に私たち消費者にとって)ちょっと役に立つ、
あるいは考えるヒントになるような話題を、毎回こつこつと取り上げ
ていきます。
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「耕地利用率」
日本農業の「実力」をめぐって様々な議論が活発です。弱い産業だか
らて保護すべき(せざるを得ない)という見方から、さらに輸出増が期
待されるなど実力を評価する意見もあります。
日本農業の実力(ポテンシャル)を端的に表す指標の一つが、「耕地
利用率」であると思っています。
耕地利用率とは、作物の作付け延べ面積を耕地面積で割った数値。つ
まり、その農地が1年間で何回利用されたかを示す指標です。例えば二毛
作であれば、作付け延べ面積は耕地面積の2倍になるため、耕地利用率は
200%となります。
もとより日本は島国で、かつ山地が多いことから、人口を支えるため
に耕地は集約的に有効利用されてきました。
1950年代後半の耕地利用率(全国平均)は130%台後半でした。つまり
農地には1年間で1.4品目程度が作付けられていたのです。東北・北陸な
ど気象条件から二毛作が困難な地域もあることを思えば、これは妥当な
水準と言えるかも知れません。
ところが、1970年代には耕地利用率は100%程度にまで急速に低下し、
その後やや持ち直したものの、近年はさらに低下し90%強の水準で推移
しています(リンク先の図50の赤い折れ線)。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/50_riyouritu.pdf
このことは、日本の農地に作付けされている作物は平均して1年に1作
未満、つまり、全く作付されていない農地が存在していることを示して
いるのです。
この間、耕地面積も減少傾向で推移してきました(茶の折れ線)。
住宅用地や商工業用地への転用がなされたためです(近年は耕作放棄も
増えています)。
しかし、耕地面積の減少の程度以上に作付け延べ面積が減少(緑の折
れ線)しているため、耕地利用率が低下しているのです。作付け延べ面
積が減少しているのは、主に担い手不足によるものと考えられます。
そして、耕地利用率の推移のグラフを総合食料自給率(カロリーベー
ス、青い折れ線)と重ねると、その形は見事に一致します。つまり、耕
地利用率の低下は、日本農業の実力が低下していることを示していると
みることができるのです。
そのようななかでも、九州、あるいは熊本の耕地利用率は、全国平均
あるいは都府県平均に比べて際立って高い水準にあります(棒グラフ)。
今般の一連の震災は、熊本、大分を中心に九州の農業に大きな被害を
もたらしました。日本農業の実力を支えるためにも、熊本等の農業の一
日も早い復旧・復活を期待したいと思います。
[出典、参考資料等]
農林水産省「耕地及び作付面積統計」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/index.html
FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html
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◆ オーシャン・カレント −潮目を変える−
食や農の分野について、先進的かつユニークな活動に取り組んでお
られる方達、トピックス等を紹介しています。
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今回の地震は、熊本・阿蘇地方にも大きな被害をもたらしました。旧
に復するには長い年月を要するのかもしれません。
阿蘇といえば全国でも有数の観光地です。
目玉は世界最大規模のカルデラに代表される雄大な景観ですが、その
重要な要素となっているのが、草千里に代表される広大な草原です。
この草原は、単に自然にできあがったものではありません。
古い記録によると、平安時代、すでに阿蘇地方では採草、放牧、野焼
き等が行われてきました。阿蘇の草原の景観は、人が自然に手を入れる
ことにより創り出され、現在に引き継がれてきた半自然草地なのです。
自然と調和・共生した人々の営みにより形成された草原は、観光資源
として景観に優れているだけではなく、水源涵養や国土保全、生物多様
性の保全など、多くの重要な役割を担っています。
2013年には「阿蘇の草原の維持と持続的農業」として、FAOにより世界
農業遺産に認定されています。
しかしながら、近年、生活様式の変化や畜産農家の高齢化・後継者不
足等が進むなか、昔と同じ方法で阿蘇の草原を維持・管理することは困
難となってきました。
そのため、現在は、地域内外の様々な団体・機関等により、野焼き・
輪地切り支援ボランティア活動、野草のバイオマス資源としての利活用、
環境教育の推進等の取組が進められています。
ところで、阿蘇の草原の主役が、あか牛(褐毛和種)です。
性格が穏やかで粗食に耐え、寒さに強く放牧に適するという特性があ
り、もとは役牛でしたが、近年は肉用牛としてのブランド化が進められ
ています。
さらには、放牧による自給飼料を主体とした生産方式は、フード・マ
イレージの観点(輸送に伴う環境負荷を大きく低減させるという意味)
からも大きな意義を有することは、本メルマガNo.46(2014.6/12配信)
で紹介したとおりです。
阿蘇の草原が以前のような姿を取り戻すためには、畜産や酪農も含め、
地域の人たちの営みが不可欠です。
これは、過去数百年にわたって継続されてきたものであり、一過性の
地震などによって失われるものではありません。
[参考]
環境省九州地方環境事務所
「第二期 阿蘇草原自然再生事業 野草地保全・再生事業実施計画」
(2013.3)
http://www.env.go.jp/nature/saisei/law-saisei/aso/2nd_full.pdf
本メルマガNo.46(2014.6/12配信)及びリンク先の図
http://archives.mag2.com/0001579997/20140612070000000.html
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/9_ubuyama.pdf
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◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント
の開催情報等をお届します。
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▼ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報
○ 脱成長ミーティング・公開研究会 (第10回) (04/22)
http://food-mileage.jp/2016/04/22/
○ 上野千鶴子先生「女性は政治を変えるか?」 (04/23)
http://food-mileage.jp/2016/04/23/
○ 築150年の古民家をゲストハウスに雑穀の郷づくりを (04/24)
http://food-mileage.jp/2016/04/24/
○ 「協同研」第26回(最後の)定期総会 (04/27)
http://food-mileage.jp/2016/04/27/
○ 哲学カフェ第0回 @ご近所ラボ新橋 (04/28)
http://food-mileage.jp/2016/04/28/
○ 都会と田舎をつなぐ人たち & ライブ & 呑み会 (05/01)
http://food-mileage.jp/2016/05/01/
○ 晴雲のおがわの自然酒をのむ会(2016) (05/03)
http://food-mileage.jp/2016/05/03/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には
必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 第3回 森の読書会 〜GW特別編〜
日時:5月8日(日)10:30〜12:00
場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭1)
主催:森の読書会
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1705580923054080/
○ ふくしまオーガニックコットンプロジェクト報告会
〜ふくしまオーガニックコットンプロジェクトの昨日・今日・明日〜
日時:5月10日(火)14:30〜20:30
場所:地球環境パートナーシッププラザ(渋谷区神宮前5、国連大学ビル1F)
主催:小名浜地区復興支援ボランティアセンター(ザ・ピープル)
(詳細、お問合せ等↓ )
https://www.facebook.com/events/1065518816845325/
○ 地域農業研究会&銀座農業政策塾
第5期プレ講座「農的社会をひらく」
講師:蔦谷栄一さん(農的社会デザイン研究所代表)
日時:5月11日(水)19:00〜21:00
場所:銀座会議室(東京・銀座三丁目)
主催:農業ビジネス研究会
(詳細、お問合せ等↓ )
http://kansyokunouken.seesaa.net/article/436428627.html
○ 福島復興!再生可能エネルギーで描く持続可能な未来(結イレブン)
日時:5月11日(水)18:30〜20:30
場所:国際青年環境NGO A SEED JAPAN(台東区上野5)
主催:結イレブン
(詳細、お問合せ等↓ )
https://www.facebook.com/events/474369062757865/
○ 奥沢ブッククラブ(第8回)
日時:5月12日(木)18:30〜21:00
場所:シェア奥沢(東京・世田谷区)
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、お問合せ等↓ )
https://www.facebook.com/events/1073991552674761/
○ 【メンバー募集】ゴマ01プロジェクト2016&パクチー
日時:5月21日(土)9:30(JR武蔵五日市駅集合)〜17:00
場所:東京・檜原村
主催:greensmile
(詳細、お問合せ等↓ )
https://www.facebook.com/events/1748508132037638/
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* 今号のコツコツなぞなぞ。
「南米の人が食べたら突然踊り出す熊本名産のお菓子って、なーんだ?」
「えー、分かんない」
「答は、いきなりタンゴ(団子)」
注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)
投稿中です。
https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7
* 次号No.94は、5月21日(土)[卯月十五日]の配信予定です。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて
頂いています。いつもありがとうございます。
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方
は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
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◆ 発行者:中田哲也