【F.M.Letter No.108】


================================================================

◇◆◇ F. M.Letter -フード・マイレージ資料室通信 ◇◆◇

     No.108; 2016.12/13(火)[和暦 霜月十五日]発行

================================================================

 いよいよ2016年も押し詰まってきました。

 去る127日(霜月九日)は二十四節気の大雪、21日(同廿三日)には

冬至を迎えます。太陽の力が最も弱まる季節の到来ですが、この日を境

に次第に日脚は延びていきます。

 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満

月の日)に配信している本メルマガ、今回は霜月十五日の配信です。

—————————————————————-

  F.M.豆知識

  食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるい

 は考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

—————————————————————-

経済的な理由で食べものが買えなかった経験等

 本コーナーでは、最近の経済情勢と食生活との関連について、経済情

勢の悪化(失業率の上昇)と栄養(特にたんばく質)摂取量との相関、

低所得者層は野菜類や肉類の摂取量が少なく、また、肥満者の割合が高

いこと等について紹介してきました。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/60_situgyo.pdf

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/62_shokuhingun.pdf

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/63_himantou.pdf

 

 厚生労働省「平成26年国民健康・栄養調査」では、「経済的な理由に

よる食物の購入の状況」についても調査されています。

 これによると、過去1年間に経済的な理由で食物の購入を控えた又は購

入できなかった(以下、「食べものを買えなかった」と略します。)経

験が「よくあった」とする者の割合は4.9%となっており、「まれにあっ

た」14.1%、「ときどきあった」19.2%と合計すると全体の4割近くの人が、

経済的な理由で食べものを買えなかった経験があると回答しているので

す。

 また、「よくあった」とする者の割合は男女別では男性4.9%、女性

4.8%と大きな差はありませんが、年齢階層別にみると2029歳層が

6.2%(男性6.6%、女性5.5%)と最も高くなっている状況にあります。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/64_keizaiteki.pdf

 

 さらに、食品を選択する際に重視する点については、経済的な理由で

食べものを買えなかった経験が「よくあった」者では「価格」と回答し

た者の割合が75.3%と最も高くなっており、男女別にみると、男性

67.6%)に比べ女性(82.2%)の方が高くなっています。

 

資料:厚生労働省「平成26
国民健康・栄養調査」(p.18) 

 http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf

 

—————————————————————-

  オーシャン・カレント 潮目を変える

  食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおら

 れる方達や、トピックスを紹介していきます。

—————————————————————-

冨澤 剛(とみざわ・たけし)さん(冨澤ファーム、東京・三鷹市)

 東京・三鷹市の農家の4代目として、年間約30種類の野菜等を生産・出

荷している冨澤さんは、このたび毎日農業記録賞の最優秀賞(一般の部)

を受賞されました。

 そのタイトルは「見直したぞ!東京農業
私のイノベーション戦略~必

要とされるために~」。去る1119日(土)、江戸東京野菜コンシェル

ジュ総合講座の一環で富澤ファームを見学させて頂いた際、冨澤さんは

その作品を朗読して下さいました。

 

 農家の4代目(次男)に生まれた冨澤さんは、少年の頃、「地下の高騰

は農家が土地を売らないからだ」「東京の農地は宅地化するべき」など

東京の農業がまるで「悪者扱い」されているのを聞くたび、悔しい思い

をされていたそうです。

 その悔しい気持ちが、バブル期にも土地を売らずに続けてきた実家の

農業を15年前に継いだ冨澤さんを奮起させました。スキルアップのため

様々な勉強会等に積極的に参加されたとのこと。特に野菜ソムリエの資

格取得が大きな転機となり、栄養士など様々な人と知り合うことができ、

それをきっかけに小中学校の学校給食に食材を提供する途が開けたそう

です。

 

 現在は、のらぼう菜など江戸東京野菜の栽培(ご自身も江戸東京野菜

コンシェルジュの資格取得者)、事業者と連携しての漬物加工、子ども

達の農業体験の受け入れ、「こども食堂」への食材提供にも取り組んで

おられるとのこと。

 

 そして、農業を通じて子育て支援など社会問題を解消していきたい、

農業を起点にしてローカルな経済活動を構築していきたい、農の力で人

が幸せになることを目指したい、と述べておられました。

 

 また、123日(土)には、冨澤さんが副部長を務めておられる地元の

JA東京むさし青壮年部の協力の下、三鷹緑化センターで「都市農地と

防災」と題するイベントが開催されました。

 多くの一般市民等が参加し、炊き出し体験の一環として地場野菜をふ

んだんに使った汁物等を頂きながら、防災面からみた都市部における農

地の役割等について学習と意見交換が行われました。

 

 昨年、都市農業振興基本法が成立・施行されるなど、都市農地の多面

的な役割の重要性が再認識されています。しかしながら地価の高い都市

部では、相続が発生する度に貴重な農地が売却・転用されるという状況

が続いています。

 都市農地がその公益的な機能を十分に発揮していくためには、都市農

地の重要性に関するコンセンサスの醸成が不可欠であり、そのためにも、

広く一般市民等との交流を通じた冨澤さん達の取組は非常に意義深いも

のがあります。

 

[参考] 

 とみざわファーム

  http://www.tomizawa-farm.com/

 毎日農業記録賞

  http://www.mainichi.co.jp/event/mainou/

 

—————————————————————-

  ほんのさわり

  食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」

 だけを紹介します。

—————————————————————-

大江正章「地域に希望あり:まち・人・仕事を創る」(2015.5、岩波新書)-

 http://www.iwanami.co.jp/book/b226334.html

 

 大江正章(ただあき)さんは行動派のジャーナリストにして出版社コ

モンズ代表。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、全国

有機農業推進協議会理事、NPO法人コミュニティスクール(CS)まちデザ

イン理事等も務められています。

 去る1156日のCSまちデザイン主催「福島県沿岸の有機農業生産者

を訪ねる旅~原発事故を乗り越えて農の復興へ」の際には、同行して

様々な解説をして下さいました。

 

 本書には、その大江さんが「消滅する」とさえ言われている全国の中

山間地域等に実際に足を運び、そこに住み、活動されている方たちから

聞き取り調査をされた内容のエッセンスが凝縮されています。

 

 大江さんは、「私たちはこれまでの社会のあり方と生き方を変えるし

かない」とします。

 すなわち「都市と第二次・第三次産業に偏重した経済成長路線から、

農山漁村と第一次産業を重視した内発的発展路線」への転換です。セル

ジュ・ラトゥーシュのいう「脱成長」(経済成長のみを絶対的な指標とし

ない考え方)と共通するもののようです。

 なお、これら取組みは決して「もうひとつの社会」を目指すものでは

なく、自然と共生して生きてきた本来の社会を新たな知見や技のもとに

発展させる営みとのこと。

 

 そして、各地における住民主体の地域づくり活動、「地域に暮らしの

セーフティネットをはりめぐらし、『お金の秩序と論理』から『いのち

と暮らしの秩序と論理』へ転換する人々」の実例が豊富に紹介されてい

ます。

 

 例えば群馬・南牧村(移住が増えてきた「消滅市町村」第一位の村)、

島根・邑南町、旧弥栄村、旧柿木村(「A級グルメの取組み」等)、

福島・会津地方と岐阜・石徹白地区(自然エネルギー)、宮城・旧北上町

と福島・相馬市(漁業者とNGOの協働)、福島・旧東和町(ゆうきの里)、

埼玉・小川町(地域循環型経済の誕生)等々。

 

 さらに、これら地域を取材する過程で出会った印象的な言葉として、

 「都会にしかないものは何もない。でも、田舎にしかないものはたく

さんある」

 「役割が明確になってきた。それはいろいろな人たちと新しい仕組み

をつくっていくこと」

 「私たちは新しい自治組織の創生をめざして、まちのルールを自分た

ちで決めてきた」

 「地元の人が主役となってIターン者が入ってくる。そして両者の相乗

効果が生まれている」等が紹介されています。

 

 詳細なレポートを読んでいくと、これら成功している地域に共通して

いるのは多様な人たちがつながっていることであり、また、献身的な

コーディネータが存在していることのようです。

 地域づくり等に関心のある方にとっては、多くの具体的な示唆に富む

好著です。

 

[参考]

 コモンズ

 http://www.commonsonline.co.jp/

 

—————————————————————-

  情報ひろば

  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント

 の開催情報等をお届します。

—————————————————————-

ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」更新情報

 大豆収穫体験会(埼玉・小川町) (11/30)

  http://food-mileage.jp/2016/11/30/

 

 「まちなか農家×防災」 @東京・三鷹
(12/04)

  http://food-mileage.jp/2016/12/04/

 

 オーガニックと有機農業 (12/09)

  http://food-mileage.jp/2016/12/09/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

‘16‘17 ecom望年会

 日時:1213日(火)19002100

 場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭)

 主催:NPO法人エコ・コミュニケーションセンター

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1805260589748400/

 

 Refugee
Talk-
難民を学ぶ夕べ*年末特別版*

 日時:1214日(水)19:3021:30

 場所:スマートニュース(株)2F(東京・渋谷区神宮前6

 主催:認定NPO法人難民支援協会(JAR

 (詳細、お問合せ等

  https://www.refugee.or.jp/event/2016/12/14-0002.shtml

 

 高倉ダイコンを知り尽くそう!ツアー[満員御礼]

 日時:1217日(土)10:0015:00

 場所:東京・八王子市

 主催:多摩・八王子江戸東京野菜研究会

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/767883516702467/

 

 オーガニックコットン収穫祭とプレゼントツリー交流会

 日時:1217日(土)7:0018日(日)20:00JR新宿駅西口集合・解散

 場所:福島・広野町

 旅行企画・実施:有限会社リボーン<エコツーリズムネットワーク>

 ボランティア活動主催:いわきおてんとSUN企業組合

 (詳細、お問合せ等

  http://www.iwaki-otentosun.jp/otentosun/news/2016/11/post_53.php

 

 奥沢ブッククラブ第15回(フランケンシュタイン編)

 日時:1220日(火)18:0021:00

 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢 2

 主催:奥沢ブッククラブ

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/708942435921830/

 

—————————————————————-

* 今夜のコツコツ小咄。

 「羽釜の蓋を開けたとたん、私は炊き立てご飯の甘い香りの虜になっ

  たの」

 「召し(飯)捕られたのね」

 注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、

  絶賛(?)投稿中です。

  https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7

 

* 次号No.1092016年最終号)は、1229日(月)[師走朔日]の

 配信予定です。

  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えています。

 読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

 

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

================================================================ 

F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信ID;0001579997】 

================================================================

  発行者:中田哲也