【ほんのさわり】祖田修「鳥獣害」


-祖田修「鳥獣害-動物たちと、どう向き合うか」(2016.8、岩波新書)-

著者は1939年島根県に生まれ、京都大学大学院大農学研究科教授、福井県立大学学長等を歴任された農業経済学の分野における第一人者の方です。
公務を退かれた後、京都府南部のある村に半移住し田畑を耕し始められた時に直面したのが「憎らしい鳥獣達」(シカ、イノシシ、サギ、アライグマ等)でした。研究者として現場をみてきたはずの鳥獣害の深刻さを、自ら痛切に体験されたそうです。

本書では各地における鳥獣害の現状や先進的な取組事例が豊富に紹介されていますが、本書の特色は、宗教学や民俗学の成果も引用しつつ、鳥獣害問題の本質と意味、人間と動物のあり方等を考察していることです。

著者は、動物と人間の「共棲の場所」の形成が必要と訴えられています。
それは、(おこがましいことながら)高度な技術と力を持った人間の理性と叡智に基づき、自然をトータルに考慮に入れ、自覚的に構想され形成されなければならないものとのことです。
そして「自然の管理」とは、実は「人間の自己管理」「人間の欲望管理」に他ならず、人間の「小欲知足」への道が重要であり、21世紀前半は「人間の真の英知が試される時」と規定されています。

一方、鳥獣害というかたちで動物たちが再び姿を現していることは、ジビエ食の普及とも相まって、生産者と消費者の間に横たわるギャップ(消費者の食卓から生産者や動物の姿が見えにくくなっていること)を解消し、食の原点に立ち戻る(命を頂くという感謝の気持ちを育む)機会になるのではという期待も表明されています。

さらには、東西の動物観の違いも考察されています。
スケールが大きく、多くの示唆に富む好著です。

[参考]
「ほんのさわり」のページ
http://food-mileage.jp/category/br/
【F.M.Letter No.111, 2017.1/28 掲載】