-飯田泰之、木下斉、川崎一泰、入山章栄、林直樹、熊谷俊人
『地域再生の失敗学』(2016.4、光文社新書)-
1975年生まれの気鋭のマクロ経済学者・飯田恭之氏が、5人の有識者(プレーヤー、研究者、首長)との対談等を通じて、今後の地域再生策について鋭く考察しています。
著者は「地域再生」を、地域における平均所得が向上することと定義づけています。
所得向上がなければ地域の存続すら危ぶまれるとのこと。一方、地域の平均所得が増加することは、文化や伝統、コミュニティ再生等より広義の地域再生にとっての必要条件であるとしています。
その上で、これまでの国や自治体主体による振興策は基本的に失敗であったと評価。確かに工場・企業誘致は地域の雇用と所得確保に貢献したものの、「いかにして稼ぎを地域外に逃さないか」という内発的な循環経済の視点が乏しかったとのこと。
さらに従来型の振興策は、世界経済の大きな流れの中で、ますます効果が期待できなくなっているとします。
現在、多くの先進国では人口が減少し始めていることから、財・サービスへの需要は単純な「モノ」ではなく、そのモノに内在するアイデアやデザイン、ストーリー等(「コト」)に向かっている。
しかし、何が「稼げる」商品になるかは分からない。したがって「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」よろしく多くのアイデアが生み出されることが不可欠。そのアイデアの数は人間の数に強く依存すると同時に、人と人とが出会い、刺激を受けるコミュニケーションから生まれる。
そのために一定の人口集積と多様性を維持するとともに、地域内でクリエイティブな発想が生み出されやすい環境を整備していくことこそが決定的に重要と分析しているのです。
一方、現在の東京は人口密集によるデメリット(長時間通勤等)が顕在化しているともします。
これからは知の集積が進む都市と、その周辺でデフォルト・モード・ネットワーク(ひらめきや思いつきをもたらす仕組み)の状態がつくれる地方都市との間を行き来する人が増えるのでは、と予測しています。
著者は「書き手としては悲観論は楽でお手軽、しかもかっこいい」としつつも、あえて「では、どうするのか」という観点から、多くの刺激的な見方を提示してくれています。
【F.M.Letter No.118, 2017.5/10】掲載