山下惣一『小農救国論』(2014/10、創森社)
著者は1936年、佐賀・唐津市の生まれ。家業である農業を営まれつつ、農村の実情を踏まえた小説、エッセイ、ルポルタージュ等を発表してこられた方です。
本書のテーマ・結論は「小農こそが国と国民を救う」。「大規模農業を否定するつもりはないが、小さいからこそ農業はやっていける」というのが山下さんの主張です。
ちなみに小農(家族農業)とは「暮らしを目的として営む農業」のことだそうです。
山下さんによると、現在、専業の大規模経営は農産物価格の低迷等により厳しい経営状況にあるのに対して、小農は、都市の消費者とつながる「生消提携」や「地産地消」など知恵を絞って生き残ってきたとのこと。
さらに、儲けを目的としない小農は不採算部門(カネにならない百姓仕事)を抱え込んでおり、これこそが農業の土台を支えるとともに、自然環境や美しい農村の風景を守ってきたとも分析されています。
そして小農は、効率、コスト、競争力では劣るものの、永続性、環境保全、生物多様性という「新しい未来像のモノサシ」を当てれば、「おそらく世界でも最も進んだ優れた農業に違いない」と結論づけられているのです。
山下さんの主張は、消費者にも向けられています。
「消費者が金を払って食べることは選挙における投票活動と同じ。どんな農業と食生活の未来に投票するのか。消費行動を通じて多くの人に支えて欲しい」と訴えておられます。
さらには、自分と家族が食べるものは自給することが大事であるとし、日本版ダーチャや半農半Xなど「市民皆農」の時代がくることも予言されているのです。
「経済の問題は、結局、損か得か。食料の問題は生きるか死ぬかの話。経済成長一辺倒から路線変更すべき。国がしないのなら、皆でせんといかんのやないか」。
そのような思いで仲間と立ち上げられたのが、先に紹介した「小農学会」です。
[参考]
拙ブログ(2017年6月10日の山下さんご講演の様子)
http://food-mileage.jp/2017/06/16/blog-25/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
【F.M.Letter No.121, 2017.6/24】掲載