【ほんのさわり】伏木亨、山極寿一『いま食べることを問う』

-伏木亨、山極寿一 編著『いま食べることを問う』(2006.11、農山漁村文化協会)
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540062670/

本書は、伏木先生と山極先生が10人のゲスト(食文化、食育、農業政策等の専門家)と対談した内容等を収録したもので、「食」について非常に幅広く、かつ興味深い(目からウロコ的な)多くの論点が提示されています。

伏木先生(栄養科学)は、生命を維持するためのものであった食は、今や楽しみや快感のためのものに変わったとしています。
 つまり、CM等の情報に影響を受けてゲーム化し、分かりやすい味のものばかりが氾濫している現状に対して、
「真の(上品で上質な)おいしさを感じることが本当の食文化」であるとし、さらに「生産者等とのつながり(関係性)を教えることが本当に必要な食育ではないか」と指摘されています。

また、山極先生(霊長類学)によると、食べものとはサルにとっては争って奪いあうものであり、類人猿(ゴリラやチンパンジー)も分け合うことはほとんどしないそうです。
 しかし人間にとっての食とは、サルや類人猿にはないコミュニケーションの道具であり、「言葉を発明するずっと以前から人間と人間とを結びつけ、和解・共存させる手段だった」とのこと。
 つまり、人間は「共食」することによって人間になったというのです。

そして「食事は身体を通して交換されるコミュニケーションであるがゆえに、言葉よりあいまいで優しく、しかも影響力が強い」とし、「言葉によるコミュニケーションが低下する現代にあって、食事は文化や世代の壁を平和に乗り越える手段として利用できるのではないか」と期待を寄せられています。
 さらに、より開かれた地域における「食の共同性」を創造していく必要性を強調されているのです。

そのための具体策と可能性の一端を、先に紹介した「共奏キッチン♪」に見出すことができるのではないかと、私は考えています。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

フード・マイレージ資料室通信 No.130(2017年11月3日(金)[和暦 長月十五日]発行)所収]