2017年11月25日(土)の18時から、東京・江戸川橋のピープルズ・プラン研究所(PP研)で脱成長ミーティング(MTG)・第14回公開研究会が開催されました。
脱成長MTGとは、「脱成長社会」の構想をより説得力あるものに練り上げること等を目的に、2014年4月に立ち上げられたものです。
今回も、カート等に貼り出された手書きの案内板(紙ですが)が迎えてくれました。
第14回研究会のゲストは「縮小社会」を提唱されている松久 寛先生です。
冒頭、研究会の世話人でこの日の進行役・髙坂勝さん(オーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」店主)から、挨拶と紹介。
「松久先生は京都大名誉教授で工学博士(機械理工学)、2008年からは縮小社会研究会を主宰されており、森まゆみさんとの共著『楽しい縮小社会』(2017、筑摩書房)など多くの著作もある方」
「私のバーにもよく顔を出して下さり、ずっとお話を伺いたいと思っていたのがようやく実現。楽しみにしている」
スライドを使いながら松久先生からの話が始まりました(文責・中田)。
「大きな命題は『環境保存と経済成長は共存できるか、反戦と経済成長は共存できるか』。もし共存できないのであれば経済成長をやめたらどうですか、というのが私の話の趣旨」
「成長には量と質がある。子どもの成長は量と質の両方だが大人の成長は質。経済の成長は量、社会の成長は量と質。
量の成長とはより多くの物を生産することで、資源と廃棄物処理が必要になる。過度の成長は過去の遺産を食いつぶすとともに未来にツケを回すことになる」
「私は1947年生まれ。飢え、戦争、身分制もなく経済成長の恩恵を受けた幸せな世代。しかし次の世代は、縮小社会のなかでそれなりに幸せに生き延びていくことが課題」
「一番大事なものはエネルギーと農業。イースター島などこれらを確保できなくなった多くの文明が崩壊してきた。滅亡の過程は弱肉強食の修羅場だった」
「原始時代の1人1日当たり必要エネルギーは2000kcalだったのが、現在は50倍の10万kcal。その大半は化石燃料。現代文明(機械化、大量生産・輸送)は『油上の楼閣』」
「経済的に採掘可能なシェールガスなどを含む全てのエネルギーは126年で枯渇する。2%成長を仮定すると63年。途上国にボーナスを回すとしても、人口の減少を促していくことが必要」
「1972年のローマクラブ『成長の限界』以降、成長に限界があることは警告され続けてきた。
よく『持続』という言葉が使われるが、成長率を持続(政府や企業)、今の生活を持続・維持(市民)など、使う人によって意味は全く異なるので注意が必要」
「再生可能エネルギーという言葉があるが、太陽光は無限に供給されているとはいえ一度使えば終わる(再生はしない)ことに変わりはない。自然エネルギーという言葉も、石油や石炭も自然にできたものであることから不適切。
このため、私は非枯渇性エネルギーという言葉を使っている」
「日本では仮に電力の50%を非枯渇性にできても、電力は一次エネルギーの40%に過ぎないことから、全体では20%がいいところ。エネルギー消費量自体を縮減することが不可欠。
例えばエネルギーを年2%(2000kcal/人・日、石油0.2リットルに相当)縮減することは、太陽光温水器の設置等で対応可能」
「科学技術の進歩によって問題は解決できるとの楽観論には、自分は懐疑的。 例えば地震予知、安全な原子力、宇宙発電は実現不可能」
「縮小社会が目指すものは『今日&明日&みんなの幸せ』。
明日とは次世代、みんなには外国も含む。時間、空間両面でより広い人権を考えることが必要。
幸せな社会とは、安全、安心、差別(貧富の差)がない、自由がある、仕事がある等」
「ものを大事にして手仕事を増やし、地産地消や大都市の縮小を目指す。経済成長が必要という束縛からの解放が必要。
人口を含めて縮小はすでに始まっているという現実を認識し、それに応じた社会を作っていくことが必要」
ほかにもダーチャ(旧ソ連の別荘つき貸し農園)やベーシックインカムの可能性にも言及されるなど、話題の幅は広く、多くの数字を引用された「理系の視点からの『目から鱗』の話が多かった」(高坂さんの感想)という内容でした。
10分ほどの休憩を挟み、19時50分頃から会場の参加者との間で質疑応答と意見交換。
立命館大学の男子学生から「科学技術による実現可能性の見極めは」との質問には、
松久先生「実験できて初めて科学技術は証明され進歩するが、地震や原発事故の実験は許されない」との回答。
「省エネと合わせれば再生エネルギー100%は実現可能との見方もあるが。また、電気自動車についてどう思うか」との質問には、
「今の生活レベルを維持するのは無理。電気自動車は長距離走行のためにはバッテリがかなり大きくなり、それより輸送量そのものを減らすのが先決」
また、人工知能(AI)の可能性については、「人間の脳の必要エネルギーは20ワット程度であるのに対し、例えば囲碁の人工知能であるアルファ碁AIは数万倍のエネルギーが必要になる」とのコメント。
データ改ざんなど最近の企業不祥事についても話題となりました。
松久先生は「総じて日本の技術力は低下。技術力は技術者の質と数で決まるが、現場の発言力が低下している(コスト削減等の指示に逆らえない)ことも不祥事の背景にあるのでは」等の回答。
縮小社会の考え方を世の中に広めていくステップについても意見交換。
「成長には量と質があり、量的な縮小であって量的な成長から脱するということだから、質の成長をイメージさせる前向きの言葉はないか」との質問には
「縮小という言葉については以前から様々な意見や批判があるが、あえて縮小社会と言っている。縮小という言葉は政治家も使いたがらないし、研究費も獲得できないなど損をしているのは事実だが(笑)」
関連して、京都大学で松久先生と同級だったという男性から「生活の質を維持するためにもエネルギーが必要では」との発言に対しては、山梨に移住されたという女性から「今の私はエネルギーをほとんど使わなくても快適な生活を送ることができている。どのような質の生活を快適と感じるかということではないか」とのコメント。
三鷹から来られた女性からの「人口減が望ましいとの話だったが、若年層と高齢層のバランスが重要では」との質問に対して、松久先生は「元気なうちは働くというのを原則とすればよい。北欧等では過度の介護はせず、それが自然の姿ではないかとも考える。こう言うと必ず批判はあるが」と発言。
これに対して白川真澄さん(PP研)は「前期高齢者まではいいが、後期になると働くのは大変ではないか」等のコメント。
関連して老人ホーム等での音楽ボランティアをされているという女性からは「高級な施設ほど入所者の元気がない。地域の人たちとの交流が活発な施設では元気」との経験談。
議論は尽きませんが、予定の21時30分を超過して研究会は終了。その後のいつもの中華料理屋さんでの「延長戦」も含め、参加者同士の間でも活発な意見交換が行われました。
豊富なデータに基づき、ひょうひょうと京都弁で話される松久先生のお姿も印象的でした。研究会後、希望者にはスライドのファイルも譲って下さいました。
次回の脱成長MTGは、この日も話題となったベーシックインカムを取り上げる構想のようです。
追伸:12月1日(金)、本ブログをご覧下さった松久先生が、文章の一部修正(本文は訂正済み)の連絡とともに、当日の説明資料のファイルを送って下さいました。
また、今後の縮小社会研究会の情報についても提供頂きました。
感謝申し上げます。