【ほんのさわり】碧野 圭『菜の花食堂のささやかな事件簿』


 碧野 圭『菜の花食堂のささやかな事件簿』(2016.2、だいわ文庫)
 http://www.daiwashobo.co.jp/book/b214174.html

作者の碧野圭(あおの・けい)さんは名古屋市のご出身。
 フリーライターとしてアニメ誌等で活躍し、出版社でのライトノベルの編集等を経て、2006年に『辞めない理由』で小説家としてデビュー。以後、働く女性を主人公にした作品を中心に執筆されており、2014年からの 『書店ガール』シリーズはテレビドラマ化もされ、ベストセラーになりました。

その碧野さんが 2016 年に上梓された本書(第2巻まで刊行)は、これまでの作品と違ってミステリー仕立てとなっています。
 もっとも、凄惨な殺人事件や強盗事件が起こるわけではありません。例えば、料理好きの女性が彼氏から別れを告げられた理由、買ってきたばかりのケーキが痛んでいた謎、いつも駐輪場に停められている赤い自転車の秘密など。

これらの謎を、多摩地方の住宅街にある小さな「菜の花食堂」を一人で切り盛りし、料理教室もされている靖子先生が解いていきます。謎解きには、必ず旬の食材と、それらを用いた料理が登場します。
 料理教室の場面などは、読んでいるとお腹が鳴りそうになります。

寺島ナスや東京ウドなど江戸東京野菜も登場。
 その独特の食感や風味が、謎解きの重要なファクターになっています。江戸東京野菜についての詳しく分かりやすい解説も出てきます(実は碧野さんは、江戸東京野菜コンシェルジュの資格を取得されています)。

「『おいしくなあれ』というのは魔法の言葉」「食べたものであなたの身体はできているのよ」「おいしいものを作れるってことは、しあわせになる方法を知ってるってことだと思うの」
 心の傷と謎がほどける料理教室。靖子先生の優しい言葉が心に響きます。

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F.M.Letter No.138、2018.3/2[和暦 睦月十五日]掲載】
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