CS まちデザイン・福島スタディツアー2018(いわき市)2/2

(前回から続く。)
 CSまちデザイン主催・福島スタディツアーの2日目、2018年11月4日(日)も好天です。

6時頃に起き出して散歩に出ました。目の前には防潮堤(防災緑地)があり、直接、海を望むことはできません。
 しかし堤上に登ると、一気に視界一杯に大海原が拡がりました。朝の陽に輝いています。道路や駐車場も整備されています。

浜に下りて波打ち際を歩きました。
 寄せては返す穏やかな波。7年8ヶ月前に10メートル近い津波が襲ってきたとは、想像もできません。

塩屋崎灯台の麓にある『みだれ髪』(美空ひばりのヒット曲)の歌碑は、津波被害からも免れたそうです。
 歌碑の前に立つとセンサーが感知し、音楽が流れ始めました。

「憎や、恋しや」との歌詞は、住民の方たちの海に対する思いを代弁しているかのように感じられました。

海を眺めながら、堤上を民宿の方に戻ります。
 防災緑地に植えられたクロマツやクヌギ、コナラなどの苗木は細く、頼りなく感じられます。

2013年8月に訪問した際には、無人の(旧)豊間中学校の校庭はガレキ置き場となっており、基礎しか残っていない住宅の跡は鎮魂のペイントや花で飾られていました。
 すっかり風景は変わってしまいました。

記憶の風化に抗うように「祈りの鐘」のモニュメントが置かれていました。
 説明文によると、津波によっていわき市全体で347人が犠牲となり、薄磯地区だけでも152人が帰らぬ人となったそうです。
 海に向かって鐘を鳴らし、手を合わせました。コマツヨイグサの黄色が目に染み入ります。

宿に戻り、8時からぜいたくな朝食。

出発前、宿の女将さんから発災時の様子を伺いました。
 強烈な揺れに続く津波で、1階部分は壊滅的な被害を受けたそうです。しかし不思議と神棚の灯籠などは倒れたり落ちたりしなかったとのこと。

小名浜公民館に到着したのは9時45分頃。
 午前中はここで林薫平先生のレクを受けるというプログラムです(CSのツアーは、毎年、本当にマジメです)。

林先生は神奈川出身で東京大・農学部卒。震災後は福島で主として漁業の復興に関わり、福島県漁連「福島県地域漁業復興協議会」委員、福島県水産課「ふくしまの水産物販売戦略会議」座長等も務めておられる方。
 福島大に来春設置される食農学類の準備もあり、ご多忙ななか、講義を引き受けて下さいました。

レジュメ、説明用資料、学会誌の抜き刷りなど多くの資料を基に、以下のような説明がありました(文責・中田)。

「福島県の農林業はそれなりに生産は回復しているが漁業は沿岸漁業を始め復興が遅れている」

「事故直後に高濃度の汚染水が海に漏洩し、沿岸漁業は全面的に自粛された。2012年から『試験操業』をスタートさせたものの、翌年には汚染水の漏出が発覚して一旦停止」

「政府・東電の『汚染水対策三原則』を基に操業を再開したが、漁協は苦しい立場に。『漁協が汚染水の放出を承諾してきた』というのは誤解」

「トリチウム含有水の処理の課題は、今後、廃炉に伴い大量に発生する廃棄物をどのように保管・処分するかという問題の入り口でもある」
 「政府のタスクフォースにより整理された選択肢は、大きく分けて『責任放棄』(海洋放出など公衆への責任転嫁)と『管理継続』(地上貯留など)。物理的減少を考慮し100年スパンで考える必要」

「いずれにしても、福島の沿岸漁業回復の課題と合わせて、国民的議論をするべき」

12時までびっしりと講義を受けましたが、質疑応答等の時間は十分に取れませんでした。
 私自身、漁業の基本的な仕組みそのものをよく知らないこともあり、大変、勉強になりました。

昼食は、車で5分ほどの七浜料理まるかつへ。地元鮮魚店が経営する店とのこと。
 私は焼き秋刀魚定食(刺身付きで1000円!)をチョイス。単品でヤナギカレイやメヒカリも注文してシェア。味もボリュームも大満足です。

幸い比較的空いていたので、食事が終わった後はテーブルを片付けてもらい、林先生の講義の続き(本当にマジメなツアーです)。

午後は、小松理虔(こまつ・りけん)さんを訪ねました。ツアー最後のプログラムです。

小名浜中心部の商店街にあるオルタナティブスペース「UDOK. 」は、晴耕(=本業)に対する雨読(= 本業以外のクリエイティブな活動)のための場という意味のとおり、室内はアート作品等で混沌としています。

小松さんは 1979年福島・いわき市小名浜生まれ。
 地元テレビ局や中国・上海での勤務等を経て、震災後は地元のかまぼこメーカーに勤務。現在はフリーランスの「ローカル・アクティビスト」(地域活動家)として、地域の食、福祉、観光、アートなど、様々な分野における企画や情報発信に取り組んでおられる方。

東京・五反田のゲンロンカフェの『新復興論』刊行記念イベント等で3回ほどお話を伺ったことはありましたが、地元では初めてです。

大学生向けに作成されたというスライドを基に、説明して下さいました(文責・中田)。

いわき海洋調べ隊・うみラボは、自分達が知りたいから自分たちで調べようと始めたもの。大義を掲げているわけではないし、市民が専門家の真似をする必要もない。
 魚のことを知るようによって、自分自身の食生活が変わり、生活そのものが面白くなってきた」

「うみラボと連携してアクアマリンふくしま(水族館)で行っている調べ(たべ)ラボは、リスコミと食育が一体となった取組み。水族館のレストランのシェフが準備してくれる料理は、毎回、ほぼ 完食。福島の魚を食べたという経験をしてもらうことが重要」

「食に関わる活動は、楽しく、参加しようというモチベーションが大切。科学的に正確なデータを伝えることが大前提だが、その上で情緒的な美味しさ等も伝えて、将来の豊かな食文化につなげていければと考えている」

「福島の食を巡っては、科学的なデータを収集し発信する啓発期から、対話期を経て、現在は共存期に入っている。福島の魚に不安を持っている人に、専門知識を振りかざしたり、勉強しろと言ったりして済むことではない」
 「食べたくないという人の選択も尊重しつつ、美味しさ、楽しさを伝え続けることで、いつか食べてくれれば大成功」

「震災と原発事故はコミュニティを分断した。一方、日本社会は同調圧力が強い。多様性や個 人の判断を尊重できるような、より成熟した社会を目指すべき」

質問も尽きませんが、帰りの電車の時間も迫り、小松さんの子どもさん(4歳だそうです)が見えられたのを機に UDOK. を後にしました。
 ご多忙な中、貴重な時間を割いて頂き有り難うございました。

いったん泉駅まで行って16時台の特急に乗る3人を下ろし、ら・ら・ミュウまで戻って買い物。ガソリンを入れて泉駅前でレンタカーを返却、17時台で帰る方をお見送りした後は残りの4人で駅前の居酒屋へ。

気持ちのいいママさん(神田NのKさんと少し雰囲気が少し似ておられます。)の美味しい手料理と福島(浜通り、中通り、会津)の地酒を最後まで堪能。
 19時29分泉駅発のJRひたち28号は、それほど混んではいませんでした。23時過ぎに帰宅。

現地でお話を伺った方たちはもちろん、主催者の方、コーディネートして下さったKさん(早く風邪を治して下さい)、運転を一手に引き受けて下さったYさん、様々な貴重な話を伺うことができた参加者の皆さん。

お世話になり有り難うございました。お陰様で今年も充実したツアーでした。