【オーシャン・カレント】谷 咲月(さつき)さん

谷さんは静岡県の出身。東京で会社員をしていた2011年4月、目にした悲惨なニュースに大きな衝撃を受けました。原発事故により立入りが禁止された区域内で、置き去りにされた馬や牛が次々に餓死している様子が報じられていたのです。

何とか助けたいと思った谷さんは、情報を収集し発信する活動を始めたところ、現地の方から「助けに来て欲しい」という要請が来たのです。谷さんは、東京から福島・浜通りに足を運びました。
 一時立入りの許可を得て警戒区域内に入った谷さんは、馬やポニーは救出された一方、牛の多くは牛舎につながれたまま死亡するなか、自力で山に逃げて生き延びている牛がいることを知りました。

しかし、立入禁止区域内に十分な飼料を継続的に届けることは困難です。
 一方、区域内には多くの農地もあります。農家の方たちは、先祖代々守り抜いてきた田畑を自分の代で荒らしてしまうことに、大きな罪悪感を持っていました。

そこで谷さんは、地元の方やボランティアとともに、大熊町内の耕作できなくなった農地を柵で囲み、生き残った牛を集めて放牧する「もーもーガーデン」をスタートさせたのです。
 ちなみに「もーもー」には、「もー(牛)が“Mow”する(草を刈る)」という意味があるそうです。

放射能に汚染された牛たちは、肉として出荷することはできません。その代わりに、谷さんは牛たちに「除草」という役割を託しました。
 働き者の牛たち(谷さんは愛情を込めて「もーもーイレブン」と呼んでいます)は、田畑に生えた雑草や灌木を食べ、踏み慣らすことで、農地を保全するだけではなく、環境や景観を守り、害虫を防除し野生鳥獣害を抑制するとともに、火災(野火)や犯罪等の予防にもつながるなど、大きな役割を果たしています。

谷さんが2012年に設立した(一社)ふるさとと心を守る友の会は、本年2月、第5回「日本復興の光大賞」(NPO日本トルコ文化交流会)を受賞しました。1890年に和歌山県沖でトルコ軍艦が遭難した時に地元住民が人命救助に奔走したことを記念して創設された賞です。
 また、もーもーガーデンでは、寄付金やオーナーの募集のほか、クラウドファンディングの取組みも始められました。

「何をするにも日本一大変な土地だからこそ培われてきたノウハウで、全国で活用できる牛たちによるエコ除草・資源循環・環境保全のモデルを築いていきたい」と語る谷さんの活動を、私も応援していきたいと思います。

[参考]
 もーもーガーデン
 https://moomowgarden.or.jp/
 (一般社団法人)ふるさとと心を守る友の会
 https://www.facebook.com/friends.fumane/
 クラウドファンディングのページ
 https://readyfor.jp/projects/moomowgarden
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出典:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.163
 https://archives.mag2.com/0001579997/
(過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/